き坊の近況 (2016年2月)


旧 「き坊の近況」

【2016年】: 01 月

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1. 新聞などからの引用は黒字
2. わたしのコメントなど注釈的なものは茶色
3. コメント内の引用などは水色
4. トップページに使っている生物写真に関連したものは緑色
これを原則にしていますが、使い分けできていない場合もあります。

日々の見聞や関心事を示して、自分の心的近況を表そうとしている。とくに準備なしで書けるような、「朝刊を開いてひとこと」というようなことを試みている。さらに、生活上の随想なども書く。

311大震災後は、原発事故および震災に関連したニュースを取り上げている。

2/1-2016
原発20キロ圏「海中がれきどう処分」(福島民報)

東京電力福島第一原発から半径20キロ圏内の海中にある災害がれきについて、水産庁は県に補助金を交付して撤去する方針を固めた。実施主体をめぐり、国と県の間で調整が難航していた。ただ、県は「荷揚げ場所などの調整が難しい」としており、開始時期は不透明だ。東日本大震災と原発事故から間もなく丸5年。県漁連は試験操業の海域を福島第一原発から半径10〜20キロ圏に拡大する方針で、関係者から早急な撤去を求める声が上がっている。

■手付かず

県は平成23年度から、水産庁の補助を受けて福島第一原発から半径20キロ圏外の海中がれきの撤去を進めてきた。23年度は3万3430トン、24年度は2241トン、25年度は664トン、26年度は213トンを回収し、27年度も継続している。
県が県漁連を通じて漁業者に撤去作業を依頼し、家屋や乗用車などの大型のがれきの撤去は業者に委託している。水産庁からの補助金は26年度までで計47億9759万円に上る。

一方、旧警戒区域だった福島第一原発から20キロ圏内については実施主体が定まっておらず、手付かずになっていた。水産庁は、県漁連による10〜20キロ圏への試験操業の海域拡大に備え、20キロ圏内の海中がれきを早急に撤去する必要があると判断。20キロ圏外と同様に漁場復旧対策支援事業を活用し、県に補助する形で実施する。

■国も関与すべき

実施主体となる県は今後、20キロ圏内の海中がれきの荷揚げ先や保管場所を確保するため、関係市町村と本格的な協議に入る。
ただ、20キロ圏内にある富岡漁港(富岡町)と請戸漁港(浪江町)はいずれも災害復旧工事中で、早くても29年度以降の完成となる予定。20キロ圏外の最寄りの漁港としては、真野川漁港(南相馬市)と久之浜漁港(いわき市)があるが、20キロ圏内の海中がれきを荷揚げすることで風評被害を招く恐れがあると懸念する地元住民は少なくないという。担当者は「回収はできても、荷揚げ先や保管場所の調整は容易ではない」と頭を悩ませ、「国も積極的に関与すべきだ」と訴える。

■家屋や車確認

県漁連は早ければ3月にも、試験操業の海域を福島第一原発から半径10〜20キロ圏まで拡大したい考えだ。
県が25年度に行った20キロ圏内の海中調査では、災害がれきの総量は判明できなかったが、家屋や乗用車、消波ブロックなどの災害がれきが確認されている。
相馬双葉漁協は「がれきが網に引っ掛かるなどの危険性があるので、早急に実施してほしい」と求めている。(図も 福島民報1/31)

県漁連が3月から新たに試験操業したいとしている10〜20km圏の海域は、実際には、震災ガレキが多数落ちていて、漁業が成り立たない可能性がある。まず、震災ガレキの撤去作業が必要なのである。

311の大津波で海中に落下している家屋・自動車・消波ブロックなどの巨大ガレキが中心となる。いうまでもなく、それらの放射線量が心配される。撤去作業で海底の土砂・ゴミなどが海水に混じり、放射性物質の散乱も懸念される。

撤去したガレキの置き場所も、“風評被害”を警戒する声があり、簡単には見つからないのである。


2/2-2016
<検証福島の学校>避難区域 児童生徒7割減(河北新報)


東京電力福島第1原発事故で避難区域などが設定された福島県12市町村の小学生は2209人、中学生は1495人の計3704人で、原発事故前(2010年度)の1万2364人と比べ7割減少した。避難先での授業が続く学校では児童生徒の減少に歯止めがかからず、地元に戻った学校でも回復の足取りは鈍い。

原発事故で避難を余儀なくされた小学校35校、中学校19校の10年度、15年度の児童生徒数と増減率は表の通り。全町避難が続く原発立地町を中心に減少率が9割を超えている。

仮役場がある二本松市で、小中9校のうち3校を再開させた浪江町の児童生徒数は10年度の2.0%にまで減少。三春町で授業を行っている富岡町は2.6%へと大幅に減った。
大熊町は11年4月、いち早く会津若松市で授業を再開。11年度は事故前のほぼ半数が通っていたが、15年度には9.8%に減った。「会津若松市の学校への転校のほか、保護者の仕事の都合で転出するケースが多い」(町教委)という。

全域避難した町村のうち、飯舘村は48.0%と比較的、児童生徒が残っている。村民がまとまって避難した福島市と川俣町で再開したことが要因とみられる。

一部が避難区域になった自治体でも明暗が分かれた。川俣町山木屋地区の58.6%に対し、南相馬市小高区は21.6%。小高区は原発20キロ圏に位置しており、市教委は「避難指示解除後、小高区の学校に子どもを通わせることに保護者の抵抗感が強い」とみる。

避難指示が解除された自治体では、田村市都路地区が59.6%、川内村が28.9%。都路地区の学校は同じ市内で授業を続けたのに対し、川内村は村外への避難を強いられた影響が残っているとみられる。村教委は「帰還する子どもが今後、大幅に増えることは期待しにくい。少人数の良さを生かした授業で魅力を高める」と説明する。(図も 河北新報2/1)


それぞれの学校のある地区の避難の仕方や避難先の状況、また地元の放射線量の多寡で、それぞれ異なる事情をかかえていることが分かる。一律に決め付けることは出来ない。

震災前の地元に戻った学校もあるし、避難先で続いている学校もある。その上でトータルすると、3割程度の生徒数で学校が持続されているのである。


2/3-2016
「地層処分」見えぬ候補地 岐阜・瑞浪研究所、地下水に焦点当たらず(福島民友)

原発の使用済み核燃料を再処理する過程で出る「高レベル放射性廃棄物」を地下深くに埋める「地層処分」。研究が始まって今年で40年となるが、いまだに処分場の候補地は決まっていない。施設建設の課題はどこにあるのか、岐阜県瑞浪市の「瑞浪超深地層研究所」を取材した。

岩盤を垂直方向にくりぬいて作った分速100メートルの地下エレベーターで降りたのは、地下300メートルに横方向に掘られた坑道。露出した花こう岩からは絶えず水がしたたり落ちる。研究所の担当者は「地下水がしみ出さない加工をしているのでこの程度。地下では岩盤の隙間を水が流れ、掘れば高圧で噴き出す」と語る。

資料では深層の地下水は動きは遅いとされているが、一度掘った空間には圧力がかけられて湧き出し、しかも湧き出したことが地層全体に与える影響は地球上どこでも実験したことはないという。実際に水止め加工をしていないところからは相当の水量が出ており、地下坑道の総延長1.8キロの同所では1日750トンが湧き、ポンプでくみ上げて排出している。「岩盤は安定しているから貯蔵に最適」という利点が示される一方、地下水問題はあまり焦点が当てられていない。水は核燃料を包む防護壁を長年かけて浸食する要因の一つだ。

海外で地層処分の処分地として決定している地域としてフィンランド・オルキルオトが有名だ。担当者に「フィンランドの岩盤でも水は出るのか」と聞くと「岩盤に割れ目がないので水は少ないと聞いている。ただ(瑞浪の)地下水量は当初の想定通りで問題はない」との答えだった。

「地層処分」の候補地選定について、国は従来の公募方式から、科学的な「有望地」を示し該当する自治体に協力を呼び掛ける方式に変更した。有望地を選定する期限は年内だ。国には「地層処分しか方法はない」などの単純な説明ではなく、これまで明示しなかった課題まで示しながらの説明が求められる。(福島民友2/2)

日本がやろうとしている「地層処分」で、安定した強固な岩盤が存在しないことはよく指摘されるが、豊富な地下水が溢れ出てくる問題を正面から取り上げたこの報道は評価できる。

「深層の地下水は動きは遅い」という知見は、何も手を加えない自然状態における岩盤内の水についてであって、岩盤内に地下道をくりぬくと前提条件がまるで変わってしまう。多様な岩石の集積であるわが国の岩盤は割れ目が多く、豊富な地下水を含み、地下道へ大量の水が流れ出てくる。

20億年前に形成されたという花崗岩の厚い岩盤であるフィンランドのオンカロであっても、地下道の場所によっては水がしみ出る場合がある。NHK時論公論「北欧に学ぶ 原発ごみ最終処分」(2/6-2013)で、水野倫之氏がオンカロ内の縦穴の底に水が溜まっているのを示している。しかし、おおむね岩盤表面は乾いており、地下水は少ないと思えると水野氏の談話がある。
なお、「オンカロ 地下深く 永遠に 〜10万年後の安全〜」(デンマーク2010年制作、日本語版、約50分)は「YOU KU」でよければ(ここ)視聴可能。


2/4-2016
「里山」も除染 政府が来月にも発表 住民、自治体と範囲協議(福島民報)

政府は東京電力福島第一原発事故に伴う森林除染について、実施対象を生活圏に加え、「里山」にも広げる方向で調整に入った。月内に発足する関係省庁による作業チームで施工方針などを協議し、3月中にも正式に示す考えだ。里山の除染範囲は地元自治体などの意向を踏まえて決定する見通し。
関係者によると、県内自治体などから要望が相次いでいる現状を踏まえ、住民の生活圏に近く、日常生活と密接な関係にある森林の環境を回復させて住民の安全・安心を高める。

里山の範囲について明確な定義はなく、自治体や住民の意向、住民の立ち入り頻度などを考慮して検討を進める。

除染作業で落ち葉や堆積物を取り除く際に土砂が流出する恐れもあるため、モデル事業を実施して効果的な技術を確立した上で本格的な作業に移行することを想定している。対象箇所が多数かつ広範囲に及ぶ可能性があるため、地元協議の進め方も併せて決める。
政府は復興庁と環境省、農林水産省による作業チーム「福島の森林・林業の再生のための関係省庁プロジェクトチーム」で3月11日までに実施方針を取りまとめる。

環境省はこれまで森林除染について、生活圏から20メートル以内とキャンプ場やキノコ栽培などで人が立ち入る場所に限り実施対象としていた。(福島民報2/2)

正式発表は来月らしいが、FCT(福島中央TV)2/3は「環境省が方針を変える」と伝えている。環境省が「里山」の範囲まで除染する、と言い出したのである。ただし、里山の範囲はあいまいであり、そこを“除染する”というのは具体的にどのような作業を行うのかはっきりしていない。

これについて、NHKの報道も引いておく。
井上副大臣は、「住民の皆さんが日常立ち入るような里山などについては、しっかり除染をやっていくのでご相談をいただきたい」と述べました。そのうえで、関係省庁が近く合同でプロジェクトチームを立ち上げ、住民が立ち入らない大部分の森林も含めて、森林全体の再生に向けた具体的な取り組みの検討を始める考えを示しました。(NHK2/3)
河北新報2/4の「<飯舘村・比曽から問う>居久根も生活の場」も類似の問題を扱っている。「居久根いぐね」は、屋敷林のことで、農家にとっては重要な生活の場だ。飯舘村ではそのいくつかについてテストケースとして、居久根の一部について表土のはぎ取りを含む除染が試行された。
住民からは、居久根そのものを生活圏として認めること、避難指示解除要件の年間20ミリシーベルトの基準が高すぎるなどの声が上がっている。


2/5-2016
<福島第1> 80km圏線量65%減(河北新報)


原子力規制委員会は2日、東京電力福島第1原発事故が発生してから4年半後の昨年9月時点の原発半径80キロ圏の放射線量分布マップを公表した。比較可能な2011年11月時点のデータと比べ、放射線量は65%減少した。

原発から北西方向に広がっていた毎時19マイクロシーベルト(年間追加被ばく線量で100ミリシーベルト相当)超の地域はこの4年半で大幅に減少。福島県北部から南西方向に延びていた0.5〜1.9マイクロシーベルトの地域も大きく線量が下がった。宮城県南部と福島県南部、茨城県北部では0.1マイクロシーベルト以下の地域が増えた。

測定は昨年9月に日本原子力研究開発機構が実施。放射線検出器を載せたヘリコプターを使い、地上から出る放射線量を分析して地上1メートルでの線量を算出した。積雪があると放射線が遮られて正確な分布を把握できないため、規制委は毎年秋に測定を実施し、線量分布の変化を監視している。(図も 河北新報2/4)

セシウム134の半減期は2年だから、すでに4分の1以下になっている(正しくは5.7分の1ほど)。セシウム137の半減期は30年なので、こちらはまだあまり減っていない。さらに、セシウムが土中に沈降していくことの影響で空間線量が減っていると考えられる。
今後はセシウム137の影響が主たるものになっていくので、減り方が少なくなっていく。


トップページの写真を、イダテンチャタテからハエ目ハナアブ科クロヒラタアブに替えた。

2/6-2016
<原発事故>フジツボや巻き貝 大幅に減少(河北新報)

東京電力福島第1原発事故後、原発南側に位置する福島県大熊町や富岡町の沿岸に生息するフジツボや巻き貝などの無脊椎動物が大幅に減少したことが国立環境研究所の調査で分かった。石巻市など他の津波被災地との比較から、津波の影響は考えにくく、原発事故で流出した汚染水が影響した可能性があるという。

研究所は2011年12月〜13年6月、原発20キロ圏の沿岸と、岩手〜千葉県沿岸で潮間帯(潮の干満で露出と水没を繰り返す場所)の無脊椎動物の生息状況を調査。12年4〜8月は、第1原発に近づくにつれ、無脊椎動物の種類が減ることが判明。双葉〜広野町では巻き貝の一種イボニシが全く採取されなかった。

13年5〜6月は、石巻や茨城県沿岸など5地点で15〜25種が確認されたのに対し、大熊は8種、富岡は11種にとどまった。1平方メートル当たりの個体数も両町は2404〜2864個で、5324〜3万5896個の他地点と比べ、いずれも少なく、1995年に東電が福島県沿岸で実施した調査(平均7158個)と比較してもフジツボ類などが大きく減少した。

原発事故で高濃度の放射能汚染水に加え、ホウ酸などの化学物質も大量に流出された。研究所は今後、室内実験などを通じ、因果関係を詳細に調べる。研究所の堀口敏宏室長は「原発南側で影響がより大きかったとみられるのは、親潮の流れで汚染水が南下した可能性が考えられる」としている。

研究結果は4日、英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に掲載された。(河北新報2/5)


同じ国立環境研究所の調査を本欄は 3/27-2013 で取り上げている。フクイチ近くの海岸で「生物全体の種の数が少ない」こと、特にイボニシがフクイチから南方30km地点までまったく見つからなかったという報告であった。

今度の発表も同傾向であることが示されているが、特にフジツボ類が少なかったという。これら無脊椎動物はプランクトン類を食べており、そういう微生物の調査結果も知りたいものだ。

ホウ酸は中性子を吸収する能力が高いので、原発で核反応を押さえるために使われる。フクイチ事故においてもホウ酸水溶液を大量に注入しているが、それは回収されず、全部海へ流出した。本欄 1/6-2012 では311事故後2011年の年末までに105トンを投入したとしている。また、防錆のためにヒドラジンを73トン投入したとも伝えている。


2/7-2016
避難者の糖尿病「1.6倍」 原発事故後の南相馬、相馬(福島民友)

南相馬と相馬両市民を対象に、東京電力福島第1原発事故前後で慢性疾患の割合を比較し、糖尿病と高脂血症の発症が事故前より高くなったとの研究を日英の研究者がまとめた。避難した人の糖尿病の発症割合は事故前の約1.6倍となった。研究チームは「人間関係や仕事など生活環境の変化が影響している可能性がある」と分析している。

英国インペリアル・カレッジ・ロンドン公衆衛生大学院の野村周平氏らの研究チームが5日、英医学誌「BMJオープン」のオンライン版に発表した。

原発事故前後の2008〜14年に特定健康診断(対象は40〜74歳)を受診した2市の6406人のデータを分析した。事故当時避難区域に住み、現在も避難している人のグループと、避難していない人(事故後一時的に避難した人を含む)の2グループに分けた。健診の採血結果や投薬を受けているかどうかで疾患の有無を調べた。

糖尿病は避難者で13年以降、約1.6倍に増え、避難していない人も約1.3倍に増えた。高脂血症は避難者で事故翌年の12年以降に上昇、14年は事故前の1.2倍になった。避難しなかった人も13年以降に増加した。一方、高血圧は事故前後で大きな変化はなかった。

研究チームの一人で南相馬市立総合病院などに勤務する坪倉正治医師は、発症割合の上昇について「避難生活を強いられたことが関係しているほか、避難しなくても働く場所が変わったなど生活の変化が影響している可能性がある。住民の慢性疾患を長期的にみていく必要がある」と述べた。(福島民友2/6)

南相馬市、相馬市の6406人についてのデータで、311事故の前後で糖尿病の発症率が1・6〜1・3倍となっているという調査結果が公表されたことは意義がある。

この研究チームは「人間関係や仕事など生活環境の変化」と結びつけたいようであるが、原爆実験が盛んに行われ原発が多数建設された20世紀後半から、放射性物質と糖尿病発症の関係は研究されている。

わたしはアフガニスタンやイラクで劣化ウラン弾が大量に使われた前世紀末に、糖尿病と放射性物質との関係が気になって調べてみた。「イットリウム90」が膵臓に集まることなどローレン・モレ氏の発言を、拙論「内部被曝について」(2007)の (8・5)に掲げてあります。


2/8-2016
申請の11原発、免震機能省く 事故対策拠点 川内審査受け縮小(東京新聞)


原発事故が起きた際の対策拠点をめぐり、電力各社が原子力規制委員会に新基準による審査を申請した全国16原発のうち11原発で、地震の揺れを緩和する免震機能をなくし、当初方針より規模も小さくするなどしていることが本紙の取材で分かった。必要最低限の施設を整え、低コストで早く審査を通したい各社の姿勢がうかがえ、東京電力福島第一原発事故の教訓はないがしろにされている。

対策拠点は、事故収束作業に携わる要員を放射能や地震から守り、関係機関と連絡を取り、食料や資材を備蓄しておく必要不可欠の施設だ。福島の事故で大きな役割を果たし、新基準の大きな柱の1つとされてきた。ところが昨年12月、九州電力が再稼働した川内(せんだい)原発(鹿児島県)で、免震棟の新設計画を撤回。同社は玄海原発(佐賀県)でも計画を白紙にした。

本紙は他にも同様の動きがないか、電力各社に調査。その結果、審査申請した16原発(川内、玄海両原発を含む)のうち、11で免震機能のない耐震構造に変更し、規模も大幅に縮小するなどの計画に変えていたことが分かった。

当初計画通りに整備が終わったのは、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)や中国電力島根原発(島根県)だけ。北陸電力志賀(しか)原発(石川県)では、免震棟は造ったが、指揮所の放射線防護性能が足りないため、耐震構造の指揮所を免震棟に新たに併設するという。免震棟は、余震が続いても、揺れを数分の1に緩和できるかわりに、設計が複雑でコストがかかり、工期も長くなる。

川内原発の審査で、規制委は免震棟完成までの代替施設として、免震機能のない小規模な施設でも新基準に適合するとの判断をした。これを受け、電力各社はコストを抑え、早く審査をパスする状況をつくりたいと、計画変更に動いた。本紙の取材に、複数の電力会社が川内事例を参考にしたと認めている

川内原発の免震棟撤回問題をめぐっては、規制委が今月3日、九電の瓜生道明社長に「納得できない」と再検討を求めている。

◆必要最小限のルール <新基準と免震棟>  原発の新しい規制基準は、防潮堤を設け、防水性能の高い扉を多用することで津波から原発を守るほか、「免震など」で通信、指揮、収束要員を守る施設を整備すること、さらには放射性物質の放出を抑制するフィルター付きのベント(排気)設備の導入などを求めている。新基準を満たせば、現場は1週間持ちこたえ、事故の拡大を防げる――とされるが、規制委が認める通り「再稼働できる必要最小限のルール」にすぎない
(東京新聞2/7)

九州電力がやり出した破廉恥な手法を、全国の電力会社がまねをした。本欄 12/21-2015 1/27 で扱いました。

311事故の際、フクイチの免震重要棟にいたハッピー氏が、ツイッターで憤慨している(ここ2/6)。
1Fの事故当初、オイラも含めた多くの人が免震棟で全面マスクを着けフル装備のまま、床や階段で打ち合わせや出動待機しながら、飲まず食わずで必死だったんだ。その対応に従事したほぼ全ての人達は、免震棟が最後の砦と感じていたはず。その最後の砦を造らない、縮小なんて絶対にあり得ない事だよ。

各電力会社は、免震棟がどれほど重要なのかわかってない。こんな縮小なんて考えを安易に持ってしまうのは、しっかりとした1Fの事故検証と対策がないがしろになってるから。


2/9-2016
原発事故汚染木くず、計6県に 大津地検捜査資料で判明(京都新聞)

滋賀県高島市の鴨川河川敷に放射性セシウムに汚染された大量の木くずが放置された事件で、木くずが滋賀以外に、山梨や鹿児島など少なくとも5県に搬出されていたことが6日までに、わかった。市民団体が大津地検に求めた捜査資料の開示により判明した。

市民団体によると、福島県の製材業者から搬出された汚染木くず約5000トンは、2012年12月〜13年9月にかけて、滋賀のほか茨城、栃木、千葉、山梨、鹿児島の各県に12の経路で運ばれたという。運搬には栃木、埼玉、千葉、山梨の業者が関係していた。市町村名や業者名は非公開だった。

事件では東京都のコンサルタント会社社長が、廃棄物処理法違反罪で14年12月に有罪判決を受けた。公判で、検察側が木くずが北関東や九州に運ばれて野ざらしになっていると指摘したが、具体的な場所は明らかにされていなかった。

最高裁が昨年12月、事件を告発した男性が求めた、木くずの最終搬出先などが分かる捜査資料の閲覧請求に対し、一部を非公開としたうえで閲覧させる決定を出していた。(京都新聞2/6)

放射性汚染木くずは6県に運ばれていた、というところまで判明したが(開示は2/5)、この奇妙な事件はこれで終わることになるのだろうか。

昨年12月14日の最高裁の判決では、「搬出先が特定され、風評被害などで経済損害が発生する恐れがある」という理由で、県名まで公開し具体的な場所は非公開とした(Rief2/7)。
ずいぶんおかしな理由だ。検察が「野ざらしになっている」と指摘しているのであるから、そのまま放置しておけば、何も知らずに近づく人もありうる。知らないで、何かに利用しようと考える人もあるだろう。
資料を閲覧した市民団体側弁護士によると、木くずは2012年12月〜13年9月に東京と群馬の二つの中間処理業者が搬出。その後、別の運搬業者が計18ルートで滋賀を含む6県に運搬した。内訳は▽栃木約3437トン▽山梨約1214トン▽鹿児島約344トン▽千葉約280トン▽茨城約10トン。

運搬業者は福島県の木くずとは知らされておらず、木くずは14年7月現在、チップとして敷設されたり、野ざらしで放置されたりしているのを確認したと記載されていたという。
(毎日新聞2/7)
マジメに考えれば、汚染木くずには放射性危険物であることを示す掲示が必要であるし、容易には接近できない設備に入れておくことが必要であろう。 最高裁が具体的な場所を明かすべきでないという判断をしたのは、すでに様々な仕方で利用されてしまっており、場所を明かしても無意味であるからなのだろう。
国内にこのような形で大量の放射性汚染物質が「野ざらしになっている」どころか、すでに利用されてもいるというのは、ひどい異常事態である。日本国民の判断力や倫理性が崩れていることの現れのひとつと言わざるを得ない。


2/10-2016
<福島第1>凍土遮水壁 工事を完了(河北新報)

東京電力は9日、福島第1原発の原子炉建屋への地下水流入を減らす「凍土遮水壁」の設置工事が完了したと発表した。稼働に必要な原子力規制委員会の認可が得られておらず、冷却の開始時期は決まっていない。

遮水壁は、1〜4号機の周囲1.5キロに1568本の凍結管を打ち込み、地下30メートルの氷の壁を造る。稼働すれば、高濃度汚染水の発生原因となる地下水流入は、1日50トンと3分の1に減ると見込んでいる。2014年6月に着工し、海側を除く3辺は工事が完了。15年4月には試験凍結が始まり、海側も11月に凍結管の設置がほぼ終わっていた。補助事業として国が約345億円を支出している。

規制委は、建屋内の地下水位のコントロール手法などに関し、東電の説明が不十分だとして、運用開始に難色を示している。(河北新報2/10)

様々な議論の末、やっと設置の完成にこぎつけた凍土遮水壁である。本欄が最初に扱っているのは 5/31-2013 である。345億円も国費を注ぎ込んだ。

原子炉建屋をとりまく地下水の動向を左右することになるので、規制委は「何が起こるかわからない」として凍土壁の運用をまだ許可していない。水位のコントロールだけの問題でないかもしれない。
そもそも、溶け落ちた核燃料がどこにどういう形で存在しているのか分からないままに、絶えず冷却水を注ぎ続けている。凍土壁は一度完成すると、具合が悪いからといって即座に中止は出来ない。解けるまでに時間がかかる。不明のところが色々あるのだ。


2/11-2016
福島第一原発 汚染防護服などの試験焼却処分を延期(NHK)

東京電力福島第一原子力発電所では、この5年近くの廃炉作業で出た使い捨ての防護服などが大量にたまり、大きな課題となっています。東京電力はこうした廃棄物について10日から試験的に焼却処分する予定でしたが、装置に水漏れが見つかり、11日以降に延期されました。

福島第一原発では、1日当たりおよそ7000人の作業員が廃炉作業に携わっていて、使い捨ての防護服などの衣類やシート、木材といった廃棄物の量は、去年12月末の時点で6万6000立方メートルと、25メートルプールにして100杯分を超えています。

東京電力は、こうした廃棄物を焼いて灰にすることで体積を10分の1にするため、10日から新たな施設で実際に汚染した衣類を試験的に燃やす予定でした。ところが、10日朝になって排気ガスを水で冷やす装置で僅かに水漏れが見つかり、その後も完全には止まらないことから、点検のため試験焼却を11日以降に延期しました。

この施設は1日最大でおよそ14トンの廃棄物を処分でき、排気筒には放射性物質を取り除くフィルターがつけられていて、焼いたあとの灰は放射性物質の濃度が上がるため密閉したドラム缶に詰め、放射線を遮る頑丈な建物で保管することにしています。

東京電力は水漏れの原因を調べたうえで試験焼却を再開する方針で、具体的な見通しは現時点ではたっていないほか、今年度中としていた本格的な運用開始への影響もまだ分からないとしています。(NHK2/10)

大量に溜まっている使い捨て防護服などを焼却処分する。煙に含まれる放射性物質はフィルターで出来るだけつかまえ、使用後のフィルターは高線量となるため厳重に保管することが必要。焼却灰も同様にドラム缶に詰めて厳重に保管する。
フィルターでつかまえきれなかった放射性物質など有害物質は、排気塔から大気中へ拡散する。したがって、周辺で十分なモニタリングを行なうことが必要である。

試験運用を開始するつもりが、水漏れトラブルで延期された。


2/12-2016
【検証・中間貯蔵施設】地権者「何も進まない」 環境省に募る不信感(福島民友)

「苦渋の決断だが、やむを得ない」。大熊、双葉両町にまたがる中間貯蔵施設をめぐり、汚染土搬入を容認する県の方針について大熊町長の渡辺利綱(68)は声を絞り出した。知事の内堀雅雄(51)に伝えた昨年2月から1年がたつ。しかし建設は思うように進んでいない。

環境省に進行状況を確認しても『やります』と口だけの状態だ」。渡辺はあきれ果てる。地権者との交渉が難航し、本体の整備はこう着状態。1月31日現在、登記簿上は約2400人とされる全地権者のうち、契約までこぎ着けたのは44件で、全体の2%弱にとどまる。

全国に避難する地権者と直接交渉するには多くの時間と労力が必要だ。環境省は「現地調査後の評価額の算定に時間がかかっている」としているが、調査を受け入れた地権者は「回答がない」と作業の遅れに怒りをあらわにする。

「結果が出るまで半年かかるという話も聞いた。時間がかかれば、考えが変わる人も出てくるのではないか」。双葉町から、いわき市小名浜で避難生活を送る菅野武綱(73)は昨年11月、環境省の現地調査を受け入れたが、調査結果はいまだに届いていない。「賛成ではないが、何もしないと前に進まない」との思いで受け入れただけに、菅野は環境省の対応に不信感を募らせる。

「無言の圧力だ」。仮置き場の汚染土を早く搬出したいと考えている他の市町村や県民が中間貯蔵施設に寄せる期待を「圧力」と受け止める地権者もいる。菅野は「世間では地権者が用地交渉を受け入れないから建設が遅れていると思われている」と話す。

「丁寧かつ、できる限りスピーディーに取り組みたい」。昨年10月、環境相丸川珠代(45)は就任直後の渡辺との会談で、中間貯蔵施設予定地の地権者との用地交渉に関して、決意を示した。

就任から4カ月たった今月5日。閣議後会見で丸川は、用地交渉の遅れについて福島民友新聞社の質問に対し「これまでもそうだったが、物件調査の後の算定にかかる時間をいかに短縮するのかが課題だ」と述べた。環境省の対応に「丁寧」「スピーディー」と感じている人は、県内でどれだけいるだろうか。

施設の建設が停滞する現状に、与党の自民党からも「本当に環境省に任せておいて大丈夫なのか」との声が漏れる。政府は、土地交渉のノウハウを持つ国土交通省や農林水産省を関与させる対応も検討してきたが、実際は国交省職員を環境省に出向させただけで、効果は限定的だった。

地権者の環境省への「信頼の欠如」は、結果として政府全体への不信感を増長させる。町民のいらだちに接してきた双葉町長の伊沢史朗(57)は「(環境省は)地権者との信頼関係を全く築けていない。信頼がなければ交渉は進まない」と突き放した。(文中敬称略)(福島民友2/11)

同じ日付の「福島民報」は同じ問題を、より「霞ヶ関」に寄った視点で取り上げている。「進まぬ中間貯蔵整備 環境省でいいのか」の一部。
主に自然環境保護や地球温暖化対策を担う同省にとって、用地取得は未知の分野に近い。地権者との交渉にたけた職員は皆無に等しい。
県や民間企業の退職者ら用地取得経験者を任期付きで採用したが、専門的な知識を持つ人材の確保は容易ではない。経験の浅い担当職員が一部の熟練者から手ほどきを受け、業務に当たっているのが実情だ。
(福島民報2/11)
これら新聞の記事はその通りだと思うが、安倍政権そのものが口先だけで「しっかりやります」と繰り返すだけだ。中央官僚(霞ヶ関)はそういう政権の下で、ぬくぬくとしている。

肝心の丸川珠代環境大臣が「基準となる年間被ばく量を1ミリシーベルト」は「反放射能派」がでっち上げた「なんの根拠もないことだ」と発言した(信濃毎日2/8)。この担当大臣は、科学的素養なしにこの任についていることを曝露してしまった。周囲からデマゴギーしか耳に入ってこないようなところに居て、自分でそれをチェックする力が無いので、そのまま発言してしまったのである。

「歯舞」が読めない島尻安伊子・沖縄北方領土担当大臣。動画を見ると、この人は“度忘れ”したのではなく、見たことのある字だがキッチリ覚えていないことが曝露されている。歯舞諸島の地理や歴史に関して自分で勉強して素養として身につけていない。それが担当大臣なのだから、おそれいったお粗末だ。

自民党の稲田政務調査会長の「7割の憲法学者が自衛隊は憲法違反」と考えているというヤラセ質問に対して、安倍首相は「7割の憲法学者が、自衛隊に憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきだ」という方向で改憲し、自衛権を明記すべきだと発言した。
これに対して作家の澤地久枝さんは「こんなに粗末な形で憲法を否定される日が来るとは思わなかった。いま命懸けで(改憲に)反対しなければ、日本はもう一度戦争する国になってしまう」と訴えた(毎日新聞2/9)。わたしは澤地さんの「こんなに粗末な形で憲法を否定される日が来るとは思わなかった」という発言が胸に沁みた。


2/13-2016
廃炉ごみ1万8000トン=美浜・敦賀3基解体で−関電など(時事通信)

関西電力と日本原子力発電は12日、老朽化した美浜原発1、2号機(福井県)と敦賀原発1号機(同)の廃炉計画を原子力規制委員会に申請した。3基の解体に伴い、埋設が必要な低レベル放射性廃棄物が計約1万8000トン発生するが、処分場所は決まっていない

関電は美浜1、2号機の解体撤去にかかる期間を30年間と想定。4段階に分け2045年度の完了を見込む。廃炉費用は計680億円の予定。
1、2号機の使用済み核燃料は計279トンあり、解体対象施設に223トンが保管されている。関電は35年度までに搬出する方針だが、どこに運ぶかは決まっていない。低レベル廃棄物は1、2号機で計約5000トン。放射性物質濃度が高い使用済み制御棒など「L1」相当のごみは約220トンと推定している。

一方、原電は敦賀1号機の解体撤去に24年かかると見込み、3段階に分け39年度の終了を目指す。廃炉費用は363億円と想定している。(時事通信2/12)

原発という発電装置を考える時には、その建設−運転−廃炉−廃棄物処分という生涯過程を考えないといけない。運転過程のみを考えて電気料金を算出したり、炭酸ガス排出量を議論したりするのはまことに片手落ちなのである。
廃棄物処分は少なくとも数百年を要する過程であり(数万年を要するものもある)子孫たちに負担を押しつけることになる。わが国のような狭い島国で、地震・火山が多く強固な地盤がなく地下水が豊富な国土には、適当な最終処分場を造ることが出来ない。

原発の運転は、できるだけ早く止めないといけない。止めるのは早ければ早いほどよい。


2/14-2016
平成40年に74万9000立方メートル 廃炉に伴う汚染廃棄物総量(福島民報)

東京電力は12日、福島第一原発の廃炉作業に伴うがれきや作業員の防護服などの汚染廃棄物の総量が平成40年(2028)に、約74万9000立方メートルに達するとの試算を明らかにした。第一原発構内では昨年7月までに約29万立方メートルの廃棄物が発生しており、新たに約46万立方メートルが生じる計算だ。同日、都内で開かれた原子力規制委員会の特定原子力施設放射性廃棄物規制検討会で東電が説明した。

廃棄物の内訳は、
    ○排気筒の解体や原子炉建屋の爆発によるがれきなどが約55万立方メートル、
    ○汚染水タンク設置などのために伐採した樹木が約14万5000立方メートル、
    ○減容化処理した作業員の防護服などが約5万4000立方メートル。
東電は廃棄物の減容化や貯蔵庫の建設を進めることで、今後も廃棄物を安全に管理できるとしている。

東電は現在、放射線量が毎時0・1ミリシーベルト以下の廃棄物は野積みし、毎時30ミリシーベルトを超える場合は廃棄物貯蔵庫の地下で保管している。放射性物質で汚染された廃棄物は構外に運び出すことができないため、処理や保管が課題になっている。  県内で発生した汚染土壌などを保管する中間貯蔵施設の搬入量は最大2200万立方メートルで、福島第一原発構内で平成40年までに発生する汚染廃棄物はこの約3・5%に相当する。(以下略)(福島民報2/13)

フクイチで廃炉に伴って発生する放射性廃棄物は、フクイチの敷地内に貯蔵庫をつくって保管・管理することになる。

本欄でも何度も取り上げているように、大熊町・双葉町にまたがって造られる「中間貯蔵施設」はまったく建設のメドがたっていない。本欄2月12日によれば、地権者が約2400人いるとされるがそのうち契約ができたのは44件のみである。


2/15-2016
3月中にも完了 除染廃棄物の試験輸送(福島民報)

東京電力福島第一原発事故に伴う除染廃棄物を中間貯蔵施設建設予定地内の保管場に搬入するパイロット(試験)輸送が、当初の計画通り開始から1年程度で終了する見通しとなっている。順調にいけば3月中にも完了する。

一方、中間貯蔵施設をめぐっては、建設予定地の用地取得が難航している。1月末現在、予定地の地権者2365人のうち契約できたのは44人。施設の本格稼働のめどが立たないため、試験輸送後の大量輸送の開始時期は不透明だ。

試験輸送の対象は汚染土壌や草木、1キロ当たり10万ベクレル以上の焼却灰など。環境省が県内43市町村から、それぞれ1000立方メートルずつを1年程度かけ搬送する計画で、昨年3月13日に始まった。

今月13日現在、43市町村のうち39市町村からの搬出を開始。未着手の二本松、桑折、中島、石川の4市町村からの搬出作業は早ければ2月中にも始まる見通し。雪の影響で道路が凍結し、危険を回避するため輸送しない日もあり、終了時期がずれ込む可能性もある。

試験輸送後も県内には大量の除染廃棄物が、各市町村の仮置き場や住宅の敷地内などに一時的に保管されている。市町村や住民は早期の搬出を求めている。(福島民報2/14)

双葉町・大熊町の一部に中間貯蔵施設を造って、そこへ福島県内の除染廃棄物を30年間保管する、というのが環境省が描いている青写真だ。昨年3月に「試験輸送」を始めた(環境省はこれを「パイロット輸送」と呼んでいるが、どうも、定着しなかったようだ)。各市町村から少量ずつ(1000立方mというと、一辺10mの立方体)を輸送してみるということ。
輸送路などをテストする意味もあるからまるで無駄ではないが、土地交渉が一向に前進しないので、その時間稼ぎにしかならなかった。昨年3月は契約件数1件だったが、現在は44件。全部で2365人の地権者が居るという。

福島民報の連載記事「「霞が関」の都合(4)」によると、中間貯蔵施設の予定地16平方kmのうち大熊、双葉町が所有する公有地が5分の1を占めるという。環境省はその公有地を早く国へ提供して欲しいと言っている。提供されれば、そこへとりあえず中間貯蔵施設の一部の建設を始められるからだ。町は町民を差し置いて先走りできないという立場だ。
町にすれば、用地交渉が遅々として進まない中、町が率先して交渉する姿を見せれば、契約に慎重な地権者をあおっていると受け止められかねない。渡辺は「建設を受け入れた以上、協力しないわけではないが、地権者の交渉がある程度まで進まないと対応は難しい」との見方を示す。(福島民報2/14)
環境省は打つ手がなく、「工程表」を作ってみせることさえできない。


2/16-2016
もんじゅ 廃炉3000億円 原子力機構試算、原発の数倍(毎日新聞)

原子力規制委員会から運営組織の交代を求められている高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)について、現在の運営主体の日本原子力研究開発機構が廃炉に約3000億円以上かかると試算していたことが15日、分かった。もんじゅの廃炉費用が明らかになったのは初めてで、通常の原発の数倍に上る。もんじゅにはこれまで1兆円超がつぎこまれ、再稼働する場合も改修費など1000億円超が必要。運転を再開しても廃炉にしても、さらに巨額の費用負担が発生する実態が明らかになった。

試算は2012年時点のもの。原子力機構が現在廃炉作業を進めている新型転換炉ふげんと同様の手順と仮定すると、もんじゅの廃炉には約30年間かかるとしている。費用の内訳は解体に約1300億円、使用済み核燃料の取り出しに約200億円、30年間の電気代や人件費などの維持管理費に約1500億円。使用済み燃料の中間貯蔵費用は試算に含まれるが、貯蔵施設の場所が未定のため輸送費は含まれていない。

通常の原発の廃炉費用は、中部電力浜岡原発1、2号機(静岡県)が2基で約840億円、関西電力美浜1、2号機(福井県)は2基で約680億円と試算されている。もんじゅは、冷却材にナトリウムを使うため、水を使う一般的な原発に比べて廃炉費用も割高になる。さらにナトリウムを使う原子炉の解体技術は確立されておらず、研究開発費も別途かかる。もんじゅを巡っては機器点検漏れなどの不祥事を受け、規制委が昨年11月、新しい運営組織を示すよう文部科学省に勧告。今年夏ごろまでに新組織を示せない場合、抜本的に見直すことも求めた。文科省は昨年末に有識者会合を設置、新たな運営主体を検討している。(毎日新聞2/16)

金食い虫「もんじゅ」は、廃炉費用もとんでもなく掛かる。

福井県は「発電は引き受けてきたが、放射性廃棄物の処分まで引き受ける義務はない。県外で対応すべきだ」(福井新聞2/13)と前々から主張しており、もんじゅについても「県外へ持っていってくれ」と要求するだろう。それゆえ、廃炉作業も先の見えない工程である。それは、もんじゅに限らず美浜1、2号機などについても同じだ。


2/17-2016
がん確定1人増16人 2巡目子ども甲状腺検査(福島民報)

東京電力福島第一原発事故を受け、平成26年4月に始まった2巡目の子どもの甲状腺検査(本格検査)で、昨年12月末までに甲状腺がんと確定したのは16人となり、前回公表(9月末現在)の15人から1人増えた。1巡目の先行検査と合わせるとがん確定は116人となった。

■「放射線影響考えにくい」座長見解
15日に福島市で開かれた県民健康調査検討委員会で県と福島医大が明らかにした。星北斗座長(県医師会副会長)は「現時点で放射線の影響は考えにくい」との見解をあらためて示した。

本格検査のがんの疑いは35人で9月末現在の24人から11人増えた。「確定」と「疑い」を合わせると51人になる。男女年齢別は男性21人、女性30人で、東日本大震災当時に6歳から18歳だった。事故から4カ月間の外部被ばく線量が推計できた29人のうち、最大は2・1ミリシーベルトで、1ミリシーベルト未満は10人だった。

血液や細胞などを詳しく調べる2次検査に進んだのは計1819人で、市町村別人数などは【表(1)】の通り。26年度は15万5536人が1次検査を受診した。1260人が2次検査対象となった。27年度は8万1059人が1次検査を受け、2次検査対象は559人だった。

23〜25年度の先行検査の追加結果も報告された。がんの疑いは15人で9月末現在から2人増えた。

■座長、最終案示す 県民健康調査中間取りまとめ
県民健康調査の今後の方針や、これまでの見解を集約する中間取りまとめの最終案を星北斗座長が示した。最終案では今後の調査目的について、「原発事故による被ばく線量の評価を行うとともに、被ばくによる健康への影響について考察する」などと明記した。さらに基本調査については「問診票の回答率向上を目標とせず、自らの被ばく線量を知りたい県民に対して窓口を用意するという方向にシフトすべき」とした。

甲状腺がんの発生についてはチェルノブイリ原発事故で多く見つかった5歳以下からがんが見つかっていない点などを挙げ、「放射線の影響とは考えにくい」との見解を盛り込んだ。

中間取りまとめは、さらに委員からの意見を反映させ、今年度中にもまとめる方針。

■甲状腺検査
1巡目の先行検査は原発事故当時に18歳以下だった約37万人が対象で、2巡目の本格検査は事故後1年間に生まれた子どもを加えた約38万人が対象。それぞれ1次検査は超音波を使って甲状腺のしこりの大きさや形を調べ、程度の軽い方から「A1」「A2」「B」「C」と判定する。大きさが一定以上で「B」「C」とされれば、2次検査で血液や細胞などを詳しく調べる。(福島民報2/16)


多くの新聞、TVの報道を見たが、上引の福島民報がいちばん分かりやすかった。表が添えられているので頭に入りやすい。

「1巡目」「2巡目」というだけでなく、先行検査、本格検査とも呼ぶのはなぜなのだろう。それだけでも混乱が生じ理解が妨げられる。1巡目の中で「2次検査」があるので注意。1巡目検査でガンが確定した者を除いた全員が2巡目検査を受ける。
1巡目を受診したのは約30万人で受診率81・1%、2巡目を受診したのは約23万人で受診率60・5%である。

ここまでで、ガン確定者が116人となった。ガン疑い者が数十名いるのだから確定者が今後さらに増加することは必至だ。全国平均(100万人に1〜2人)の数十倍の甲状腺ガン多発である。これは異様な多発と言うべきだと思う。
検討委の星北斗座長は会議後の記者会見で、数十倍の甲状腺がんの子どもが発見されたことについて、「一斉検診したことで数として多く見つかった」と述べた(毎日新聞2/15)。星座長も「多発」であることは認めているのである。

この問題を検討しているサイト「福島原発事故の真実と放射能健康被害」をご覧になることをお勧めします。グラフや表を効果的に使って、高度な内容を分かりやすく説明してくれています。
鈴木眞一福島医科大学教授の得意のセリフ「チェルノブイリ(原発事故)では最短4、5年で甲状腺がんが増加した(だから福島県で見つかっている甲状腺がんと被曝の因果関係はない)」に対するていねいな反論は興味深い。その結論部分(この長いページの最下段近く)
鈴木眞一教授の主張は、10歳〜17歳の年代は原発事故1年後に甲状腺がんが増加した事実を無視している点。さらに、この資料自体が根源的に抱えている高性能のエコー診断装置の導入がもっと早ければ甲状腺がんがもっと早期に見つかったかもしれないという事実を無視している点で、二重の意味で間違っています。


2/18-2016
<宮城指定廃>集約管理を堅持 基準値超3分の1に(河北新報)

東京電力福島第1原発事故で生じた指定廃棄物の最終処分場建設問題で、井上信治環境副大臣が17日、宮城県庁を訪れ、県内の廃棄物の放射性濃度を再測定した結果、国の基準値(1キログラム当たり8000ベクレル超)を上回る廃棄物が3分の1以下に減ったことを村井嘉浩知事に報告した。基準値を上回った廃棄物は県内1カ所で集約管理する従来方針を堅持することも伝えた。

村井知事は、年度内に県主催で市町村長会議を開く考えを表明。環境省の集約管理方針、基準値以下や未指定の廃棄物の扱いについて首長の意見を聞く。

会談で井上氏は県内39カ所で一時保管中の3404トンを再測定したところ、1090トン(32%)が基準値を上回ったと説明。「上回った廃棄物は集約管理が安全上望ましい。引き続き地元の理解を得る努力をする」と、栗原、加美、大和の3市町を建設候補地とする方針に変わりないことを強調した。

基準値を下回った2314トンについては「一般廃棄物として科学的に安全に処理できる」と述べ、指定解除を進める方針を示唆。国が費用や技術を支援する前提で、地元の処分場で処理してもらうとした。

処分場建設をめぐっては加美町が激しく反対し、調査受け入れも拒否。環境省は栗原市と大和町でも現地調査に着手できないまま2年連続で越年し、3市町は昨年12月に候補地返上を訴えた。

会談後の取材に、井上氏は「指定廃棄物が減れば住民の負担も減る。丁寧に説明したい」と話した。村井知事は「従来方針を堅持するなら、その通り進めてほしい」と協力する姿勢を示した。基準値を下回った廃棄物の処理に関しては「首長と協力し、時間をかけず処理することが重要」と語った。(河北新報2/18)

基準値(8000Bq/kg)以下なら「一般廃棄物として科学的に安全に処理できる」というのは明らかにハッタリで、そもそも基準値というのは処理上の目安として政治的に定めた数値に過ぎない。かなりの放射線量をもつ基準値以下の廃棄物を大量に処理することになれば、危険性は増加する。住民が警戒するのは当然である。
「基準値を下回った廃棄物は一般廃棄物として、市町村や広域行政事務組合の焼却施設で処理することになっている。が、実際には施設の処理能力や住民不安を避けるといった理由で処分は滞っている。」(河北新報2/18)

河北新報は井上副大臣の発言を巡って、宮城県内の反発の声を伝えている。
猪股洋文加美町長は「『廃棄物の量が多く、放射性濃度の減衰に時間がかかるので処分場が必要』という国の前提は崩れた。処分場建設は誤った前提に基づく、ずさんな計画だったことが示された」と主張した。同町で現地調査を阻止してきた住民団体の高橋福継会長(73)は「時間がたてば放射性濃度が下がると証明されたのに、それでも処分場を建てる考えは理解できない」と憤った。

候補地の一つで、未指定の廃棄物を多く抱える栗原市の佐藤勇市長は「未指定も測定した上で報告に来るのが筋だ」と反発。基準値を下回った廃棄物の扱いについても「市町村任せはおかしい。国と東電の責任で処理すべきだ」と訴えた。

浅野元大和町長は「状況が以前と変化している。(集約管理という)一つの考えにこだわるのでなく、状況に応じた方策があるはずだ」と疑問を投げ掛けた。

県内最多の汚染稲わらを一時保管する登米市の布施孝尚市長は「放射性濃度が下がったのは、環境省の無策で事態が長引いた結果なのに、そのつけを市町村に押し付けるのか。登米の処分場の処理能力はそう高くなく、指定廃棄物から一般廃棄物になった分を処分するのに何年かかるか分からない」と頭を抱えた。
(河北新報2/18)


2/19-2016
高浜原発 1、2号機、近く合格へ 運転40年超では初(毎日新聞)

原子力規制委、主な審査終える 新規制基準で6、7基目に

原子力規制委員会は18日、関西電力高浜原発1、2号機(福井県)の主な審査を終えた。原発の新規制基準に適合しているとして、近く事実上の合格証となる「審査書案」を示す。審査に合格すれば全国では6、7基目、運転開始から40年を超えた老朽原発では初めてとなる。

東京電力福島第1原発事故を受けた改正原子炉等規制法は原発の寿命を原則40年に定め、特例で最長20年の延長を認める。1号機は1974年11月、2号機は75年11月に運転を開始した。審査に合格しても、詳細設計をまとめた工事計画や、運転延長のための別の認可を7月7日までに得なければ廃炉になる。

さらに、原子炉建屋上部に放射線を遮るドームなどの大規模な建設工事をしなくてはならず、再稼働は早くても2019年10月以降の見通しだ。

関電は76年12月に運転を開始した美浜原発3号機(福井県)についても、再稼働を目指し、審査を申請している。(毎日新聞2/18)

原則40年寿命の原発を特別審査をして60年まで運転延長できるという特例が成立しそうだ。審査を通るためには様々な手当てや工事が必要なのだが、この対策に1基平均100億円程度が必要という。
採算ラインは出力80万キロワット以上とされており、関電は80万キロワット以上の出力を有する高浜1、2号機と美浜3号機については、運転延長を申請した。いずれも出力が82.6万キロワットで、採算が取れると判断した。今後「40年ルール」に到達する大飯1、2号機も出力が117.5万キロワットと大きいため、運転延長を申請するとみられている。(ビジネス・ジャーナル5/14-2015)
運転延長しなければ廃炉をする。廃炉の平均費用を1基あたり約240億円とみて、それを10年分割で損失計上するという超優遇策を経産省は用意し、さらに、その廃炉費用を電気代に上乗せできるとした。電力会社はとことん優遇される。国民はとことん舐められている。


トップページの写真を、クロヒラタアブからカメムシ目キジラミ科クロトガリキジラミ?に替えた。

2/20-2016
中間貯蔵 3施設10月着工案 環境省、20ヘクタール確保可能と判断か(福島民報)

東京電力福島第一原発事故に伴う中間貯蔵施設整備で、環境省は10月にも大熊、双葉両町で除染廃棄物の受け入れ・分別施設など一部の本体工事に着手する工程案をまとめた。平成28年度の整備面積として計20ヘクタールを見込んでいる。用地交渉は依然、難航しているが、これまで取得した計15ヘクタールの周辺で契約に前向きな姿勢の地権者が複数おり、一定面積の確保は可能だと判断したもようだ

■用地交渉今後の進捗は不透明
工程案では除染廃棄物の受け入れ・分別施設のほか土壌貯蔵施設と仮設焼却施設の建設に向け、7月にも事前調査や詳細設計に入り、10月にも着工するとしている。3施設の整備面積は受け入れ・分別が2町合わせて約4ヘクタール、土壌貯蔵が2町で約9ヘクタール、仮設焼却がいずれか1町で約7ヘクタール。貯蔵開始は29年秋ごろ、焼却開始は同年冬ごろを想定している。
ただ、今回示した整備面積は建設予定地約1600ヘクタールの約1%にとどまる。環境省は地権者・2365人のうち、1月末現在で約千人と連絡が取れていない。29年度以降も施設を拡張する方針だが、こうした状況から用地交渉がどの程度進捗するかは不透明だ。

環境省が中間貯蔵施設本体工事の具体的な時期を設定したのは初めて。19日に開かれる大熊、双葉両町議会の全員協議会で工程案を示す予定だ。

■保管場を追加整備へ
環境省の中間貯蔵施設整備をめぐる工程案には、パイロット(試験)輸送で除染廃棄物が搬入される保管場を28年度に始まる予定の本格輸送に備え追加整備する方針も盛り込まれている。
本格輸送については常磐自動車道大熊、双葉両インターチェンジの供用開始など経路の状況を踏まえ、段階的に運搬する量を増やす考えも示されている。(福島民報2/19)

本欄2月15日で、環境省は中間貯蔵施設を建設する「工程表」を見せることさえ出来ない、と書いたが、予定地の約1%についてメドが付きそうなので、そこへ分別施設・土壌貯蔵施設・仮設焼却施設などを造る計画を示した。着工は10月から。

2/21-2016
福島県南相馬・避難指示4月解除 「帰還困難」隣接の不安(毎日新聞)

国は19日、東京電力福島第1原発事故に伴う福島県南相馬市の「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」を4月中に同時に解除する方針を示した。しかし、隣接する帰還困難区域は放射線量が高く、住民の不安は消えない。国は今後、葛尾村などでも同様に解除する方針だが、「まず帰還困難区域の除染を進めてほしい」と反発の声が上がる。解除後の産業再生も見通せていない。

約90の全世帯が居住制限区域に指定されている南相馬市小高区の川房(かわぶさ)地区。1月下旬に市内であった国との懇談会で、避難先の仙台市から駆けつけた女性が「家の庭で実ったユズを市の施設で検査すると、国の基準の10倍近い放射性物質が検出された。ここはそんな場所なんですよ」と声を荒らげた。

懇談会で国は「放射線量は(避難指示解除の目安となる)年20ミリシーベルトを下回っており、健康に影響する水準ではない」と強調。「長期的には年1ミリシーベルトに近づける努力を続けていく」と理解を求めた。
除染効果を検証する同市除染推進委員会は今月、「効果はおおむね維持されている」との報告書案を公表した。ただ、市の調査では局所的に年20ミリシーベルトを超えるような線量も確認された。委員長の児玉龍彦東大教授(内科学)は報道陣に「避難指示解除が妥当だとしても、住民が安心して暮らせるかは別」と述べた。

川房地区は昨年3月、72世帯の署名を添え、居住制限区域の解除時期を遅らせるよう求める要望書を国と南相馬市に提出。佐藤定男区長(59)は「深くまで土を取り除くなど丁寧に除染すれば、もっと線量が下がる住宅もある。日程ありきで話を進めたのでは住民も納得できない」と話す。(中略

しかし、居住制限区域を解除することへの不安は南相馬市の住民だけでなく、後に続く予定の葛尾村も同じだ。村の居住制限区域の住民は21世帯62人。このうち村北部の「かげ広谷地(ひろやち)地区」(10世帯30人)は、除染のめどが立たない浪江町の帰還困難区域の集落と生活圏が重なっていた。地区の墓地は浪江町の集落にあるが、自由に墓参りもできない。地区の放射線量も先月26日時点で毎時2マイクロシーベルトと、避難指示解除準備区域にある村役場の同0・12マイクロシーベルトと比べて高い。住民は昨年12月、「浪江町の帰還困難区域が除染されていない現状で避難指示を解除すべきではない」との請願を村議会に提出、採択された

9歳からこの地区で暮らしていた松本京子さん(78)は「隣の集落が除染していないのに、放射能が不安で帰れない」と話す。事故前は夫と次男夫婦、孫3人との7人暮らしだったが、避難で離散し、三春町の仮設住宅で夫と2人で暮らす。村には戻らず、三春町で建設中の災害公営住宅に入居しようと考えている。(以下略)(毎日新聞2/20)

国は19日に上記のような「南相馬市を4月解除」という方針を示した。翌20日から住民説明会が南相馬市小高地区などで始まったが、会場からは疑問噴出し、説明会終了後、桜井勝延市長は5月以降への解除のずれ込みを示唆した。
小高区内は東京電力福島第1原発事故で全住民の避難が続いており、説明会には約300人が出席した。政府の原子力災害現地対策本部がインフラの整備状況などを説明した上で「地域復興に向け4月中に解除手続きを進めたい」と伝えた。

意見交換では、廃棄物の保管や作業状況など除染に関して疑問が集中。市内の仮設住宅に避難している佐々木より子さん(54)は「現状では若者に住んでもらえない。解除を1年先送りしてほしい」と訴えた。
桜井市長は終了後、「4月の解除は難しいと感じた。除染効果を市として確認した上で、あらためて市民の声を聞きたい」と述べ、解除時期を国と協議していく考えを示した。
(河北新報2/21)
説明会は今月28日まで計4回開かれる予定。どのような意見が出され、国がどのような説明をするのか今後のなりゆきが注目される。


2/22-2016
風力発電能力、原発抜く 世界で新設最多 日本は出遅れ(東京新聞)

世界の風力発電の発電能力が2015年末に14年末比17%増の4億3242万キロワットに達し、初めて原子力の発電能力を上回ったことが、業界団体の「世界風力エネルギー会議」(GWEC、本部ベルギー)などの統計データで明らかになった。

15年に新設された風力発電は6301万キロワットと過去最大で、原発約60基分に相当する。技術革新による発電コストの低下や信頼性向上を実現し、東京電力福島第一原発事故などで停滞する原発を一気に追い抜いた形だ。日本は発電能力、新設ともに20位前後で、出遅れが鮮明になった。

GWECは「風力発電は化石燃料からの脱却を主導している。世界で市場拡大の動きがあり、16年は、より多様な地域で導入が期待できる」としている。

「世界原子力協会」(WNA、本部英国)の調べによると、原子力の発電能力は16年1月1日時点で3億8255万キロワットとなり、風力が5000万キロワット程度上回った。

国別の風力発電能力の上位5カ国は中国(1億4510万キロワット)、米国(7447万キロワット)、ドイツ(4495万キロワット)、インド(2509万キロワット)、スペイン(2303万キロワット)。日本は304万キロワットだった。

日本(の新設発電量)は25万キロワットで、前年の13万キロワットより増加したが、小規模にとどまっている。(東京新聞 2/21)

温暖化問題や大気汚染などが背景にあって、風力発電が注目され急増している。日本はそのような世界の動向に乗りおくれている。

2/23-2016
福島県内避難者の孤独死16人 男性13人、14年6月〜15年11月(福島民友)

仮設住宅や借り上げ住宅を訪問して避難者を見守る生活支援相談員から2014(平成26)年6月〜15年11月の約1年半の間に県社会福祉協議会(県社協)に報告された孤独死の人数が16人に上ることが21日、県社協への取材で分かった。特に50〜70代の男性の孤独死が顕著で、孤独死のほか自殺者7人も報告された。震災から間もなく5年、県社協は「復興公営住宅などへの住み替えが進むのに伴い、仮設住宅に住む避難者の『取り残され感』が強くなっている」として見守り態勢の強化を図る。

生活支援相談員は昨年12月1日現在で、避難者が生活する28市町村に285人が配置されている。避難生活の長期化や避難者の分散化などを背景に、仮設住宅で避難者が孤独死するケースが相次いだことから、県社協は、14年6月から各相談員に避難者の孤独死や自殺、行方不明などを把握した際の報告を求めている。県社協によると、孤独死した16人のうち男性が13人を占め、内訳は50代5人、70代4人、60代3人、40代1人。女性は3人のうち70代2人、50代1人で、高齢の男性が孤独死するケースが特に多い。

県によると、仮設住宅の入居者のうち約4割が65歳以上で、全世帯のうち約2割が65歳以上の1人暮らし世帯という。県内では復興公営住宅の整備が進み、若い世代が避難先で住宅を取得して転居するケースも増えており、同社協は「自立再建の見通しが立たない高齢者の孤立化が進み、仮設住宅でのサロン活動も低調になっている」と指摘する。(図も 福島民友2/22)

いつものことながらこの種の数字を見るのがつらい。わたしも高齢者だからだろうが、「仮設住宅に住む避難者の『取り残され感』」とか「自立再建の見通しが立たない高齢者の孤立化」というおそらく的確な表現が、胸に痛い。自殺者も多いですね。

2/24-2016
水漏れ、ナットの緩み原因 高浜4号機、26日にも再稼働(中日新聞)

関西電力高浜原発4号機(福井県高浜町)で放射性物質を含む一次冷却水が漏れた問題で、関電は22日、配管の弁に取り付けたナットの締め付けが不十分だったことが原因と発表した。

関電は22日中にナットの締め付けなどの対策を取り、1日延期していた原子炉の温度や圧力を上げる試験を始めた。同日夜、原子力規制庁に対し、早ければ当初の予定通り26日にも再稼働させる日程を申請した。

20日に漏えいがあったのは、原子炉の熱を取り除く一次冷却水の一部を抽出し、不純物を除去したり、核分裂を抑えるホウ素濃度を調整したりする系統。関電が22日、配管に圧力をかけて調べると、浄化装置近くの弁から漏れていたことが判明。レンチで締め直すと、4つのナットのうち1つが緩んでいた。

現地確認した福井県原子力安全対策課によると、弁は2008年8月から09年1月の定期検査で分解点検をしていた。今回、再稼働に備えて配管に通水し、一時的に圧力が上昇したことで、緩んだ隙間から冷却水が漏れたという。

この場所は壁と壁の幅が1・5メートルしかなく、弁が水平方向に付いているため締めづらい位置だった。同様の箇所が高浜4号機と3号機で80カ所ずつあるため、県は関電に全箇所の確認を求めた。同課の伊藤登参事は報道陣に「常々安全第一で作業を進めるよう伝えている。確実に(再稼働への)ステップをこなしてもらうことが大切だ」と語った。

漏えいしたのは計34リットル。放射能量は国への報告基準の60分の1で、同県や関電は環境への影響はないとしている。(中日新聞2/23)

「美浜の会」が関電の「ボルトゆるみ」説にはおかしな点がいくつかあると指摘している。
    ◎ この弁の分解点検をした第18回定検(2008年8月〜2009年1月)でボルトゆるみが生じたのなら、その定検後の再起動の際にも水漏れがあったはず。第19回定検(2010年2月〜5月)の際にも再起動の操作があるわけだから、この際にも水漏れがあったはず。それらがなくて、なぜ、今回だけ水漏れ事故となったのか。

    ◎ 関電は今回の1時的な加圧試験で23〜30気圧の圧力がかかったと説明しているが、そもそも当該弁の「最高使用圧力」は21気圧であるので、このような高い圧力で常用していたのか。おかしいではないか。
詳しくは、次のPDF文書ボルトゆるみ説の矛盾と疑問点を参照してください。


2/25-2016
<原発事故>炉心溶融 過小に判断(河北新報)


東京電力は24日、福島第1原発事故の状況をめぐり、核燃料が溶け落ちる「炉心溶融(メルトダウン)」が起きていることを事故直後に公表できたにもかかわらず、過小に誤った判断をしていたと発表した。東電は「判定する根拠がなかった」と説明してきたが、炉心溶融を規定するマニュアルが社内に存在していた。

原発事故では1〜3号機で炉心溶融が起きた。東電は事故から2カ月後の2011年5月になって3基の炉心溶融を正式に公表。それまでは、より軽微な「炉心損傷」と説明していた。原発事故を検証するため、新潟県の技術委員会が15年2月の会合で、公表遅れの経緯を明らかにするよう求めていた。

同社の調査で今月、当時の事故対応マニュアルに炉心溶融の判定基準が規定されていることが判明。マニュアルには、炉心損傷割合が5%を超えれば、炉心溶融と判定することが明記されていた。

東電によると、11年3月14日午前5時すぎ、3号機の原子炉格納容器内の放射線監視装置が回復し、炉心損傷割合が約30%に達していることを把握した。1、2号機も5%を超えていることを確認。基準に従えば、この時点で「炉心溶融」に該当していたものの、地元自治体などへの通報文書に記載はなかった。

東電は「(早期に)データの持つ意味を解釈し、炉心溶融を公表すべきだった。事故を矮小化する意図はなく、公表をしないよう外部からの圧力もなかった」と説明。基準を見過ごしていた背景や理由について、第三者を交えた社内調査に乗り出すという。

福島県の内堀雅雄知事は「炉心溶融という重要な事象が通報されなかったことは極めて遺憾だ。迅速、正確な通報が徹底されるようあらためて強く求めたい」とのコメントを出した。

[炉心溶融と炉心損傷] 原発が運転を止めても燃料は熱を出し続けるため、水で冷やし続ける必要がある。東京電力福島第1原発事故のように注水が不能になった場合、原子炉圧力容器の水位は下がり続け、やがて燃料が露出、熱くなって溶け始める。この状態が「炉心溶融」で、溶けた燃料は重力によって圧力容器の下部へ落ちていく。「メルトダウン」とも呼ばれる。事故当時、原子力安全・保安院は炉心溶融の前段階として、燃料を覆う被覆管が溶ける状態を「炉心損傷」と定義していた。(図はNHK2/25より 河北新報2/25)

311事故の翌日、本欄 3/12-2011で、すでに原子力安全・保安院が「原子炉内の燃料の溶融が進んでいる可能性が高い」(朝日新聞3/12)と発表していることを取り上げている。東電はその後で「炉心損傷」に過ぎないと言いくるめようとしたのである。

この当初の段階で「炉心溶融」が起きており、事態は最悪のレベルであると東電が述べていれば、そのあとの避難体制も原発に対する考え方も大きく変わっていたと考えられる。それは何も特別なことではなかったのだ。マニアル通りのことを東電がすればよかっただけのことだった。
原子炉事故において最悪レベルの規定を作ったことを忘れていた、というのが本当なら(本当とはとうてい思えないが)、それはきわめて重大な過失である。過失責任はとうぜん厳しく追及されるべきである。

地道に311事故の検証を行っている新潟県の「技術委員会」の存在は、高く評価されるべきである。


2/26-2016
昨日取り上げた「炉心溶融を規定するマニュアルが存在していることを見過ごしていた」という東電の発表について、わたしの考えを再度述べておく。

東電のこの規定は、茨城県東海村で起きたJCO臨界事故(1999年)を受けて2003年に作ったものであるという(福島民報2/25)。この種の規定を作る際には最悪のレベルを想定し、全体を何段階のレベルにするかという発想になるはずであり、「炉心損傷」レベルを設定しておいたことは覚えていて、最悪レベルの「炉心溶融」は忘れていたということはあり得ない。
しかも、311事故の当初から(事故翌日の3月12日から)保安院が「炉心溶融だろう」と指摘し始めていた。何人かの専門家も同旨の発言をしていた。これらの発言を知って、少なくとも2003年にマニュアルを作った東電内部の者たちは自分らのマニュアルの「炉心溶融レベル」を思い出したはずである。なぜなら、その一歩手前の「炉心損傷」レベルは思い出しているのだから。

福島民報はもうひとつ重要な指摘をしている。
基準は事故前に防災訓練で使用しており、事故当時に存在を誰も指摘しなかったとは信じ難い。(福島民報2/25)
まったく、その通りだ。東電はまたしてもウソをついて国民を誤魔化そうとしているとしか思えない。

今朝の毎日新聞「社説」にこういう一節がある。
「炉心溶融」は原発の緊急事態を政府に通報する際の用件のひとつになっており、自社の判断基準を知らなかったというのはきわめて不自然だ。中略

「メルトダウンを認めれば国民がパニックを起こす」との)見方もあるようだが、筋違いだ。もし、情報隠しを前提としなければ成立しないシステムなら、運用してはならないはずだ。
(毎日新聞2/26)
もう一度書いておく、東電はまたしてもウソをついて国民を誤魔化そうとしているのである。東電は信用できない。


2/27-2016
高浜1、2号機、新基準に適合 老朽原発が相次ぎ延命も(東京新聞)

原子力規制委員会は24日の定例会合で、7月7日に運転期間満了を迎える関西電力高浜原発1、2号機(福井県)について、原子炉建屋の放射線対策やケーブルの防火対策などを進めれば、新規制基準に適合するとの審査書案を了承した。老朽原発が新基準を満たす初めての判断となった。

東京電力福島第一原発事故後に改正された原子炉等規制法では、原発の運転期間は40年に制限され、最大20年間の運転延長は「例外」とされてきたが、早くも例外が認められる見通しとなった。今後、延長を目指す電力会社が相次ぎ、実質的に「60年廃炉」になっていく恐れがある。

この日の会合で、事務局は、建屋上部に遮へいドームを造り、ケーブルには防火シートを巻き、事故時の対策拠点を新設するなど関電の方針を説明。これらが実行されれば、新基準を満たすとした。委員から若干の質問は出たが、審査書案に異論はなく、議論は15分ほどで終わった。

規制委は25日から3月25日まで意見募集を実施して審査書を決定。対策工事の詳細設計や老朽化の審査も進めた上で、延長の可否を決める。 40年廃炉の原則は2012年、米国の制度も参考にして法制化された。20年延長の例外規定も設けられたが、当時の細野豪志原発担当相(民主党)は「例外が認められるのは、極めて厳しい。例外中の例外」と明言していた

40年超の原発を延命させるためには、新基準で要求される設備を整えるほか、老朽化に伴い原子炉がもろくなっていないか、建屋のコンクリートの強度は十分かなどの審査にもパスすることが求められる。
関電は、1、2号機は出力が82万6千キロワット、3、4号機は87万キロワットと大きく、新基準などに適応する対策費に4基合わせて約3190億円をかけても採算が合うと判断した。新基準ができた後、関電美浜1、2号機(福井県)など5基の廃炉が決まったが、いずれも最大50万キロワット台と比較的小さい。

今後10年のうちに、15基が40年を迎え、廃炉か延長か判断を迫られる。しかし、大型化の傾向は明確で、11基までが80万キロワット超。もっと新しい原発は100万キロワット超が主流だ。各社とも方針を明らかにしていないが、採算性を優先すれば、延長を狙ってくる可能性が高い。そうなれば、40年廃炉の原則は失われることになる

◆規制委「費用かけ克服」
原子力規制委員会の田中俊一委員長は24日の定例記者会見で、老朽原発の関西電力高浜1、2号機(福井県)が新規制基準に基づく審査に適合としたことに関し、「(老朽原発も)費用をかければ技術的な点は克服できる」と述べた。田中委員長は今後の老朽原発の審査方針について「個々に判断していく」としたほか、高浜原発の追加の安全対策について「新しく原発を造る半分の費用がかかっている。それなりの覚悟があったのだろう」と述べ、関電の対応に一定の評価を示した。(東京新聞2/25)

40年ルールが出来た時には、最も新しい原発(北海道泊3号機)が役目を終わる2049年には日本には原発がなくなるという未来が想定できていた。ところが、「例外中の例外」という理念は簡単に棄てられ、「費用をかければ克服できる」という原子力ムラの論理がまかり通ろうとしている。

「(老朽原発も)費用をかければ技術的な点は克服できる」という規制委・田中委員長の発言は、関電の論理をフォローするだけの下卑たものだ。311事故の悲惨な状況を見て《原発を止めて再生可能エネルギーへ移行して行こう》と多くの日本人が感じていたのではなかったのか。その貴重な気持ちを、わずか数年後に原子力ムラの金の論理に譲り渡すのか。


2/28-2016
ハンセン病療養所で行われていた「隔離」裁判が違憲ではないかということを最高裁が検証している。ハンセン病療養所内に設けられた「特別法廷」を認めた最高裁の判断が違憲だったのではないかという判断を最高裁が下せるか。西日本新聞が長文の特集を載せていた。その一部を紹介する。全文はこちら

ハンセン病療養所で裁判 法廷の「隔離」違憲性が焦点 過去の判断、最高裁自ら検証 [熊本県](西日本新聞)


1951年3月に菊池恵楓園で開かれた
特別法廷(菊池恵楓園社会交流会館所蔵)
ハンセン病療養所などで行われた「特別法廷」について、最高裁の検証作業が大詰めを迎えた。国の誤った政策によって社会から隔離された療養所で裁判をしたことは、憲法の裁判の公開原則に反し、審理をゆがめたと指摘されている。特別法廷を許可した「法の番人」は、過去の判断をどう省みるのか。最高裁の有識者委員会は29日、熊本県合志市の菊池恵楓園で入所者から聞き取りをする。

最高裁によると、ハンセン病を理由にした特別法廷は1948年から72年までに95件、主に国立ハンセン病療養所内で開かれた。このうち35件(50〜67年)は菊池恵楓園と隣接する菊池医療刑務支所だった

■差別的対応
当時、国は住民の往来がほとんどない療養所に患者を隔離していたため、特別法廷は事実上の非公開だった。被告の患者に対して差別的な対応もあった。

焦点は特別法廷の違憲性に踏み込むかどうかだ。裁判所法は、最高裁が必要と認めた場合は裁判所以外でも法廷を開けると規定する。要件について最高裁の中村慎総務局長は、14年11月の衆院法務委員会で「風水害、火災などのため庁舎内で法廷が開けなかった場合」と説明。「極めて例外的」と見解を示した。
では、ハンセン病療養所で開廷する必要性はあったのか。元患者らは検証を求めた要請書で「必要と認めた判断理由は何ら明らかにされていない」「誤った隔離政策、偏見に基づき無原則に一律に(開廷を)判断した」と指摘。特別法廷は違憲だと訴える。
治療薬が普及し、世界保健機関(WHO)が日本政府に外来治療を勧告した1960年以降も、療養所で27件の特別法廷があったことにも厳しい視線を向ける。(中略

「公開には程遠かった」 菊池恵楓園の長州さん
熊本県合志市の国立ハンセン病療養所菊池恵楓園では、元患者の男性が殺人罪などで死刑執行された「菊池事件」の特別法廷も開かれた。園内で暮らす長州(ちょうしゅう)次郎さん(88)は当時を知る数少ない一人。「裁判は事前に周知されず、公開には程遠かった」と振り返る。
1951年秋、長州さんは自治会役員をしていた同じ部屋の入所者が「自治会事務所で裁判があるから仕事は休みだ」と話すのを偶然耳にした。礼拝所を改装した古い事務所の玄関に行くと、人の背丈よりも高い白と黒の幕で入り口が覆われていた。「園長に懲戒検束権があって、反論したら監禁室に入れられる。中までのぞく勇気はなかった」。後日、白い予防着をまとった人たちが事務所に入ったという目撃談を聞いた。

翌52年は新しい自治会事務所が裁判に使われた。事務所は木にくくりつけた幕に囲まれ、目隠しされた。様子を見に来た入所者は数人。8畳ほどのタイプライター室と、そこから延びる廊下が法廷になっていたことが何となく分かった。同じ年、芝居や音楽の公演会場にしていた旧公会堂も法廷になった。入所者と職員の席は完全に区別され、裁判は来賓向けの2階席で行われていた。
入り口の幕から思い切って中をのぞいた。15メートルほど離れた2階席に白い服の人たちが見えたが、話していたことは聞こえなかった。近くで裁判を見た入所者は「証拠品を火箸で扱っていた」と差別に憤っていた。長州さんの胸にも、重いものが残ったという。

60年余りが過ぎ、裁判を覚えている人の多くが亡くなった。長州さんは「調査は遅きに失したが、今度こそ司法の責任を検証してほしい」と願う。(写真も 西日本新聞2/28)

拙サイトの古い読者はご存知だと思うが、わたしは日本人に根深く存在する差別意識を掘り下げるために、ハンセン病差別をときどき取り上げている。拙稿「「癩」ノート」(1994)をみて下されば、ありがたい。

ライ菌は結核菌に類似する細菌で、きわめて伝染力が弱い。さらに特効薬「プロミン」が開発されたのが1943年(ウィキペディア「ハンセン病」)。この薬は日本には第二次大戦後に入ってきた。のちに「リファンピシン」(1965)など新薬も発見された。
ハンセン病は全面的な「隔離」治療は必要がないことが知られ、
1931年、国際連盟は「らい公衆衛生の原理」と題する著作を発刊し、ハンセン病の早期患者に対しては施設隔離を行わず、外来診療所で大風子油による治療を行うのが望ましいとされ、政策として初めて「治療対策」「脱施設隔離」が打ち出された。ただしその一方で重症の伝染性の強い患者は施設に強制的に隔離する重要性も再確認されている。(同上ウィキペディア)
大人から大人への感染はまれであるが、子どもへの感染の可能性があるので、子どもを患者から引き離すことの必要性が啓蒙された(特に、母親がハンセン病である場合の乳幼児)。
これが世界の趨勢であったが、日本では真逆に強制隔離政策を1931年に開始し、警察力を持って患者を捕らえ隔離施設へ強制収用した(ドイツ、アメリカなどでも療養所収容ということはあったが、医師の診断を条件とするなどの医療としての収容であった。日本ではまったく罪人扱いであった)。

上引記事にもあるように日本ではWHOの勧告(1960)を無視し、「ライ予防法」(制定1907)が廃止されたのは、なんと1996年である。日本人に根深く存在する差別意識というのは煎じ詰めると「日本人は特別だ」という意識であると思う。原発安全神話もそのひとつである。


2/29-2016
高浜1、2号機「40年超」認可差し止めを 名古屋地裁に提訴へ(中日新聞)


運転開始から40年を超えた関西電力高浜原発1、2号機(福井県高浜町)をさらに20年運転させる原子力規制委員会の延長認可の差し止めを求め、福井県や東海地方の住民が4月中にも、国を相手に行政訴訟と仮差し止めの申し立てを名古屋地裁に起こすことが分かった。老朽化による安全性低下を争点とする方針で、相次ぐ原発訴訟の新たな流れを生みそうだ。

老朽原発をめぐっては、東京電力福島第一原発事故後の2012年、原子炉等規制法の改正で「40年で原則廃炉」と規定されたが、規制委は今月24日、関電が1、2号機で予定する安全対策が新規制基準に適合するとの審査書案を全国に先駆けて了承。運転期間満了の7月7日までに規制委が延長を認可すれば、対策工事を施した上で最長60年の運転が可能になる。

原告団と弁護団は「延長運転後に事故が起き、重大な損害が生じる恐れがある」として規制委に認可を出さないよう訴え、認可が出された後は取り消し処分を求めて争う方針。老朽化した1、2号機の原子炉圧力容器では、核燃料から放出された中性子を受け続けたことによる劣化現象が起こるため、原子炉等規制法に基づく技術基準を満たさないと主張。規制委による審理でも問題化した重要機器をつなぐケーブルの防火策の不備も訴えるという。

福島事故後は立地自治体以外の裁判所での原発訴訟が増えているが、名古屋地裁では初めて。弁護団には原発訴訟の経験が豊富な他地域の弁護士も参加。弁護団長の北村栄弁護士(愛知県弁護士会)は「40年廃炉の原則が骨抜きにされていくのは看過できない。老朽原発特有の危険性を訴えて、延長認可の違法判断を勝ち取りたい」と話す。

高浜原発をめぐっては昨年4月、福井地裁が1、2号機の約10年後に稼働を始めた3、4号機の運転を禁止する仮処分を出したが、同12月の異議審で地裁の別の裁判長が仮処分の取り消しを決定。3号機は今年1月、4号機は今月26日に再稼働した。

◆老朽化が新たな争点に

福井県や東海地方の住民が名古屋地裁に提訴を予定する高浜原発1、2号機の運転延長認可の差し止め訴訟では、運転40年を超す老朽原発の安全性が初めて正面から争われる。

脱原発を目指す弁護士と原告は福島第一原発事故後、いずれも全国連絡会議を結成し、各地の訴訟で統一戦術を取ってきた。従来は地震、津波対策の不備を追及し、福井地裁での大飯3、4号機訴訟の判決と高浜3、4号機仮処分決定で勝利した。

大飯訴訟は控訴審が続くが、高浜3、4号機は異議審で差し止め決定が取り消されて再稼働し、他の地裁の訴訟でも敗訴が続く。そんな中、新たな争点として浮上したのが、運転40年を超す老朽原発の安全性問題だ。

初期の原発は「40年が設計寿命」とされ、放射性物質を閉じ込める要となる原子炉圧力容器が中性子を浴びて劣化する現象は、規制当局側も注視してきた。名古屋訴訟の弁護団はこの問題に焦点を絞り、関係分野の専門家とも連携して争点化していく方針だ。

今回の訴訟は、原発が立地せず、隣接もしていない名古屋地裁で提起される点にも特徴がある。

福島事故では放射性物質が広範に飛散し、政府が半径250キロ圏内の住民への避難指示を検討していたことも判明。原告が勝訴した大飯訴訟判決では、同キロ圏内の住民の原告適格性が認定され、福井県内の原発に対する訴訟が隣接する大津、京都地裁で相次いで提起されるなど、県境を越えた法廷闘争が繰り広げられてきた。

名古屋は高浜原発の約130キロ南東に位置し、季節風の風下に当たる。弁護団事務局長の藤川誠二弁護士は「ひとたび事故が起これば甚大な被害が起き得る地域。訴訟が多くの人に危機感を持ってもらうきっかけになれば」と話し、事故から5年の節目に各地で予定される行事に出向き、原告団への参加を呼びかける。(図も 中日新聞2/29)

原子炉圧力容器は分厚い鋼で出来ているが、圧力容器の中は中性子が充満し飛び回っている。中性子が鋼に当たり続けることで徐々に鋼の粘りがなくなっていく。これを「脆化 ぜいか」現象という。鋼がもろくなり割れやすくなる。そこで40年を圧力容器の使用限度の目安とする設計思想がでてきた。

老朽原発に色々と手当てをほどこして60年まで持たせようという「例外中の例外」を作ったのだが、肝心の圧力容器を交換するわけではない。老朽原発は危険性が増していくことは確かなのだ。

周辺の部品・部材の老朽化したものを新しくするなどの手当てを施すわけだが、新旧の継ぎ目部分や新旧部品の共存が不協和な現象を引き起こさないか、危惧される。つまり、首尾一貫した設計思想で製造された原発には生じない新たな問題が起こるであろうという心配である。

これらの問題が裁判できちんと議論され、争われることは、とても大事だと思う。弁護団の奮闘に期待する。




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