この図には胡沙笛が2つ描いてある。 ・右が「羽州秋田の産 柳の木にて造る」 ・左は「おなじく ひの木の皮にて巻て作る」 「ひの木」は難読だが「日能 ひの」木であろう。すなわち檜。檜のへぎ板を巻いて作ったものなら、図と合う。しかも、『世渡風俗図会』の図とも合いますね。 残りの3つ、右から ・「越後新潟の笛」 ・「奥州會津笛 これを初音といふ」 ・「江戸時代の笛」 |
明治時代の新聞を「新聞集成明治編年史」で読んでいたら、明治18年(1885)の改進新聞に次のような一節があった。 束髪の流行は追々各地に拡まりて胡「束髪」とは「髷 まげ」に対して言われている語で、女性が髪を髷として結い上げない髪型をいう。男の場合は「ちょんまげ」に対して「断髪」といわれる(明治四年の「散髪脱刀令」で髪型も帶刀も「勝手たるべし」となった)。 上の引用は、女性の束髪が全国に広がってきているということを誇張して、北海道の果てまでもと述べたもの。ともかくこの時代には「こさ吹く蝦夷」という語句が人口に膾炙していたと考えられる。 明治24~25年に朝日新聞に連載された半井桃水(痴史)『胡砂吹く風』という朝鮮を舞台とする小説があった(国会図書館がデジタル公開)。桃水は朝日新聞の特派員として釜山駐在を務めた人物で、大正期まで人気のある大衆小説家であった。というより、樋口一葉が片思いをした相手という方がよく知られているかも知れない。彼女は『胡砂吹く風』の序に和歌を寄せていて、 桃水うしが ものし給ひし「沙」と「砂」の違いはどんなものなのか、手元の漢和辞典を見ると、 沙:会意。水中の散石、すなわちマサゴのこと。水少なく石現るる義をとり、サンズイと少を合す。後世、砂に作る。 (『大字典』講談社)水との関係でマサゴが表されているので「沙」が原義に近く、後に「砂」が使われるようになった、ということだろう。つまり、意義にそれほどの違いはない。 「胡沙」は字の通りで 胡沙:中国、ところが『日本国語大辞典』は「こさ」をも見出し語に取りあげていて、金田一京助のアイヌ語説を詳しく紹介している。 こさ:(アイヌ husa 「息吹」が、古く取り入れられたもの)もし、このアイヌ語説が正しいとすれば、「こさ」と表記するのが妥当だろうが、漢字を宛てる場合に「胡沙」が古くから用いられてきたが、明治10年代以降「胡砂」を宛てる場合もあった、と考えておく。また、『胡砂吹く風』をわたしはまだ読んでいないのであるが、朝鮮を舞台に描くのに、塞外の砂塵の語感を生かして「胡砂」を使った可能性があると、宛て推量しておく。 |