き坊の近況 (2016年9月)


旧 「き坊の近況」

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1. 新聞などからの引用は黒字
2. わたしのコメントなど注釈的なものは茶色
3. コメント内の引用などは水色
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これを原則にしていますが、使い分けできていない場合もあります。

日々の見聞や関心事を示して、自分の心的近況を表そうとしている。とくに準備なしで書けるような、「朝刊を開いてひとこと」というようなことを試みている。さらに、生活上の随想なども書く。

311大震災後は、原発事故および震災に関連したニュースを取り上げている。

9/1-2016
制御棒処分、70m以深 国の管理10万年 規制委方針(朝日新聞)

原子力規制委員会は31日、原発の廃炉で出る放射性廃棄物のうち、原子炉の制御棒など放射能レベルが比較的高い廃棄物(L1)の処分の基本方針を決定した。地震や火山の影響を受けにくい場所で70メートルより深い地中に埋め、電力会社に300〜400年間管理させる。その後は国が引きつぎ、10万年間、掘削を制限する。これで、放射能レベルの高いものから低いものまで放射性廃棄物の処分方針が出そろった。

原発の廃炉で出る放射性廃棄物は、使用済み核燃料から出る放射能レベルが極めて高い高レベル放射性廃棄物と、L1、原子炉圧力容器の一部などレベルが比較的低い廃棄物(L2)、周辺の配管などレベルが極めて低い廃棄物(L3)に大きく分けられる。

埋める深さは放射能レベルによって変わる。高レベル放射性廃棄物は地下300メートルより深くに10万年、L2は地下十数メートル、L3は地下数メートルとの処分方針がすでに決まっていたが、L1は議論が続いていた。大手電力会社でつくる電気事業連合会は、国内の原発57基が廃炉になれば、L1だけで約8千トンの廃棄物が出ると試算している。

規制委はL1について、コンクリートなどで覆って70メートルより深い岩盤内に少なくとも10万年間は埋める必要があると結論づけた。電力会社が管理する期間については「数万年とするのは現実的でない」として、300〜400年間とした。その後は、国が立ち入りや掘削がされないように対策を取るとした。

処分地はL1〜L3とも、電力会社が確保する必要があるが、候補地選びは難航しそうだ。すでに廃炉作業が始まっている日本原子力発電東海原発(茨城県)では、最も放射能レベルの低いL3に限って原発の敷地内に埋めることを今年1月、地元が容認した。しかし、これが受け入れが決まった全国で唯一の例で、L2やL1の受け入れを容認した自治体はない。

一方、高レベル放射性廃棄物の処分地は、火山や活断層から離れた場所で、運搬しやすいように海岸から20キロ以内が「適性が高い」などとする条件が検討されている。国は年内にも候補となる「科学的有望地」の地図を示す方針だ。(朝日新聞9/1)

この記事では、放射性廃棄物を4分類している。高レベル放射性廃棄物、L1、L2、L3。このうち処分法が決まっていなかったL1について、規制委が、方針を決めたというのである。(L1〜L3を「低レベル放射性廃棄物」ということがある。)

なぜ「300〜400年間」と幅を持たせたのか分からないが、電力会社が土地を確保して70mより深くの岩盤内に埋め、地下水に漏出していないかなどの監視を300〜400年間続ける。そのあとは、国の管理に移る。

地震活動などで埋設地が破戒されるようなことが起こった場合どうするのか、未来世代への無責任な先送りというしかない。
わたしは、どのような処理法をとるにしても、まず原発運転を止めて新たな放射性廃棄物を作らないことが必要だと考えている。それが未来世代へのせめてものおわびの印である。


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9/2-2016
福島原発 凍土壁の2カ所溶ける 台風影響、追加工事急ぐ(毎日新聞)

東京電力は1日、福島第1原発に接近した台風による大雨の影響で、汚染水対策「凍土遮水壁」の2カ所で温度が上昇し、凍土壁が溶けたような状態になったと発表した。追加工事を9月中に終え、0度以下に温度を下げるとしている。

凍土壁は原子炉建屋に流れ込む地下水を減らすため、建屋周囲の地中を壁状に凍らせる対策。

東電によると、台風7号が接近した8月17日以降、大雨で地下水が増え、4号機南側と3号機東側で土中の温度が1度を超えた。担当者は「雨水の通る道があるのだろう。2カ所で(凍土壁が)一度溶けたようだ」と説明した。 (毎日新聞9/1)

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東京電力は1日、福島第1原発に接近した台風による大雨の影響で、汚染水対策「凍土遮水壁」の2カ所で温度が上昇し、凍土壁が溶けたような状態になったと発表した。追加工事を9月中に終え、0度以下に温度を下げるとしている。(中略

追加工事では凍土壁の周辺に8メートル程度の穴を掘り、地下で固まる液体を流し込んで地下水の流れを緩やかにする。費用は明らかにしていない。(毎日新聞9/2)

雨量が増えて凍土壁が融けることがある、という弱点が初めて明らかになった。凍らせて地下水を止めるという凍土壁工法がいかに危ういものであるかよく分かる。
「凍結開始から4ヶ月半経っても、凍りきらない。1%が残る」という記事は8月19日に取り上げた。凍結しようとしている区間は820mあるので、その1%は8m余となる。長さ計算の%ではないので正しい数字ではないが、巨大工事なので1%といってもけして小さくはないのである。

地下水が増加したというが、ただの地下水ではなく汚染された地下水である。本欄は、台風9号の大雨の影響を懸念する福島民友8/23を取り上げている(8月24日)。汚染地下水は結局は太平洋へ流出する。


9/3-2016
国内原発13基で強度調査へ 仏で問題のメーカー製造(東京新聞)

九州電力や東京電力、関西電力など電力6社は2日、フランスの原発で強度不足の疑いがある重要設備を製造した大型鋳鋼品メーカー「日本鋳鍛鋼」(北九州市)が、稼働中の九電川内原発1、2号機(鹿児島県)を含む国内8原発13基の原子炉圧力容器を製造していたと原子力規制委員会に報告した。

6社は10月末までに強度に問題がないかなどをそれぞれ調査し、規制委に報告する。重大な強度不足が判明すれば、原発の運転や再稼働時期に影響する可能性もあるが、規制委事務局の原子力規制庁の担当者は「フランスでも実際に強度不足が確認されたわけではなく、あくまで念のための調査だ」と述べた。(表も 東京新聞9/2)

この問題については、8月24日にNHKが詳しく伝えていた。
仏の原発にもろい合金使用の疑い 国内の原発も調査へ(NHK)

原子力規制庁によりますと、フランスのメーカーが輸出用として製造した原子炉の壁の一部となる部品に、基準以上に炭素を多く含んだ鉄の合金が使われていることが分かりました。鉄は炭素を多く含むともろくなる性質がありますが、同じ部品はフランスで建設中の原発にも使われていることから、フランスの規制当局は、この部品も炭素を多く含んでいる疑いがあると見て調べています。

この問題を受けて、原子力規制委員会は、国内の原発でも問題の部品と同じ方法で製造されたものがないか調査するよう全国の電力会社に指示することになりました。この中では、国内のすべての原発について原子炉の壁など安全上重要な設備を対象に、メーカーや製造方法などを調べて来月中に報告するよう求める方針です。

日本の基準では、フランスで問題となっているものと同じ部品の場合、炭素の割合は0・25%以下と定められていて、規制委員会ではフランスと同じ製造方法のものがあった場合、当時の記録などを調べて基準を満たしているか確認したいとしています。
(NHK8/24)
上の東京新聞は、炭素の量が規定より多い「鍛造」部品が「圧力容器」に使用されている可能性にしぼっている。稼働中の原子炉を含めて13基が該当する、というのである。
本日のNHK9/3は「18原発46基すべてで、原子炉の一部の部品に『鍛造』で作られたものが使われている」と伝えている。


9/4-2016
山口知事、玄海原発の第三者委設置意向 避難、耐震など検証(佐賀新聞)

九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の再稼働に関連し、山口祥義知事は2日の定例記者会見で、これまで佐賀県になかった専門家らでつくる第三者委員会の設置を検討する意向を示した。現在、組織の位置付けや枠組み、構成メンバーの在り方などを事務レベルで協議しており、国から再稼働の申し入れがあるまでには一定の方向性を出す。避難計画基準地震動など多くの論点があると指摘し、第三者委員会の議論も踏まえて整理していくとみられる。

山口知事はこれまで、再稼働の判断で県内20首長や県民の幅広い意見を聞く考えは示していたが、第三者的な組織の設置に言及したのは初めて。全国の原発立地県では、委員会やアドバイザーなど何らかの外部の意見を聞く枠組みがあり、佐賀県と同様に未設置の鹿児島県は、7月に就任した三反園訓(みたぞの・さとし)知事が新設する意向を示している。

委員会設置に関して山口知事は「(委員会がないことで)県民の不安が多いとしたら本意ではない」と述べた。その上で、国から再稼働の申し入れがあった後の検証について「委員会をつくって、それ以外の皆さんの話もしっかりと聞いていくやり方も検討しなければならない」と説明した。

再稼働の判断基準では、他県の避難訓練の事例や基準地震動の設定、緊急時対策所の在り方、大規模地震が連続した熊本地震の教訓などを論点として挙げ、「佐賀県に置き換えて問題がないのか。一つ一つ整理して来るべき時期に考えを示す」と語った。

さまざまな判断の時期に関しては、原子力規制委員会が適合性審査の一環として2日、玄海原発を視察したことを踏まえ「これから数カ月の中で、いろいろなことが行われるイメージ」との認識を述べた。国から再稼働の申し入れがあった後の住民説明会は「基本的にやれることは何でもやっていきたい」として、市町の状況に応じて、九電や国と協議しながら開催していく意向を示した。(佐賀新聞9/3)

九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県)について規制委の更田豊志委員長代理は、「(九電の目標は)相当、楽観的だ。順調に進んでも年度内の再稼働は随分早い気がする」と述べた(東京新聞9/3)。

九電のヤラセ事件が行われたのは、けして古いことではない。2011年6月である。フクイチ311事故の後のことだ。九電はフクイチ事故は東日本の問題で、九州は関係ない、とタカをくくっていたフシがある。川内原発の鹿児島県も、玄海原発の佐賀県も第三者委員会を設置していなかったのは、県民レベルでも危機意識が低く、九電に完全に押さえ込まれていたことを示している。
熊本地震で決定的に状況が変わった。「原発は恐ろしい」という警戒感が県民の間で普通のことになった。鹿児島県で三反園知事が当選したことはそのことをはっきり示している。

鹿児島県に次いで佐賀県が第三者委員会を設ける方針を打ち出した。遅すぎる決断だが、無いよりはましだ。豊後水道を挟んだ愛媛県伊方原発の再稼働に反対する大分県民の訴訟(大分地裁)について、原告が200名を超えたという。「大分県民の関心の高さを感じる」と弁護団は述べている(大分合同新聞9/1)。
九州全体で、原発の再稼働に対する警戒感が高まっていることは確かだ。


9/5-2016
社説 原発避難計画 「絵に描いた餅」ならば(中日新聞)

「絵に描いた餅」。原発事故の広域防災訓練の参加者が、漏らした言葉。でも皆さん、そもそも疑問に思いませんか。こんな訓練が必要な原発と、私たちは、ともに暮らしていけるでしょうか

原発から半径30キロ圏内の広域避難計画の策定は、3・11の教訓を踏まえ、原子力規制委員会から自治体に義務付けられた。
避難の実効性には、かねて疑問があった。全国に先駆けて再稼働した九州電力川内原発では、30キロ圏内の住民全員が避難を終えるまで、最長で43時間かかると警鐘を鳴らしていた。
先月再稼働したばかりの四国電力伊方原発では、陸路で避難する場合、事故を起こした原発の直前を通る以外に、文字通り道がない人たちが大勢いる。

先月末、関西電力高浜原発の事故を想定し、福井、京都、滋賀三府県の広域防災訓練が展開された。福井から兵庫まで最大130キロの避難行。浮かび上がった懸念材料は数え上げたらきりがない。
本番さながらとは言いながら、原発に近い高齢者施設でも、手順を確認しただけだ。訓練への参加も困難な認知症のお年寄りたちを、事故の混乱の中でどうやって、無事に、遠方まで避難させることができるのか。

訓練の結果から、修正可能なことはもちろんある。しかしたとえば、主要な避難路が津波で水没したり、地震で崩落したらどうなるか。3・11や熊本地震で実際起きた複合災害対策は、そう簡単にはなし得ない。事実、船による“避難”は「悪天候」で中止になった。

そもそも原発は、人口密集地から隔てられ、交通の便が良くないところに建てられてきた。避難を考慮に入れた立地には、なっていないということだ。

国策と言いながら、国は避難計画の策定を“支援”するだけだ。規制委は、計画を作れと言いながら、なぜか、その内容や効果を審査する立場にはないと言う。住民の安全を物差しにして、避難計画の実効性をきちんと審査したならば、恐らくどの原発も、おいそれとは動かせまい。

天災は避けられない。だから備えを怠れない。だが、原発事故は避けられる。

訓練を重ねて身に染みるのは、原発のリスクの大きさだ。そして「原発に頼らない社会」づくりを進めていけば、「絵に描いた餅」と言われる机上の避難計画も、確実にいらなくなるということだ。(中日新聞9/5)

きちんとした避難訓練をすることが、あまりに規模が大きくて、訓練実施さえ困難である、という。なんのための避難訓練かというと、原発事故。「そもそも原発は、人口密集地から隔てられ、交通の便が良くないところに建てられてきた。避難を考慮に入れた立地には、なっていない」、それゆえ、訓練はうまくいくはずがない。

このところ、全国の原発の周辺で大規模な避難訓練が行われているが、すこしおかしいのじゃないか。そんなことまでして、原子力発電をする必要があるのか。この「社説」はそういう疑問を抱かざるを得ない現状をつきつける、良いものであった。

この「社説」が暗示している原子力発電の問題点は、ヤツコ元NRC委員長がいう「バッド・デザイン」に尽きる。一口で言えば、万一の過酷事故が起これば取り返しが付かない、そういう原発を造るなということだ。そもそも、今の原発は「万一の過酷事故」を想定して幾重にも防護しようとしている。それはそもそも「バッド・デザイン」から出発しているからだ。けして過酷事故は起こらない原発以外は造ってはならない。
ヤツコ氏は)NRC 委員長を辞してから日本に行き,避難所で暮らす老夫婦に会った。壁には,事故前,子どもや孫たちと平穏に暮らしていたときの写真が貼ってあった。事故後,バラバラになったという。
このような生の話は滅多に聞けるものではないが,聞けば,原子炉事故の対策は,発生確率を低減することによって目指すのではなく,その解決は,そのような悲話を生まない絶対的方法によってのみ,と納得するはずだ。もしこの国が,どうしても原子力発電を必要とするのであれば,事故が起こりにくい原子炉によってではなく,絶対に起こり得ない原子炉によってでなければならない。
(雑誌「科学」2015年4月号、佐藤暁「 ヤツコ元 NRC 委員長との対話から:原子力発電の将来」)
ヤツコ氏については本欄 12月31日(2012)で扱っている。ヤツコ氏が来日して福島の避難所を訪問した後の発言、
大規模避難の危険はないと保障できる場合にのみ原発の稼動を許可すべきです。
「科学」の佐藤暁論文を見れば分かるが、ヤツコ氏が「大規模避難の危険はないと保障できる」というのは、事故のリスクが十分に小さいということではなく、事故のリスクがまったくないこと、すなわち「グッド・デザイン」であることを意味する。

ヤツコ氏は原発のグッド・デザインを示しているわけではないが(それが不可能であるとも言っていない)、彼の理念を理解するために、もう少し引用しておく。
石炭火力で爆発が起これば何人かの従業員が死亡することになるかもしれないが,それで収まる。原発事故だけが,汚染が敷地を越えてはるか遠方にまで及ぶ。これがそもそもおかしいのだ。
立地基準とか緊急対応計画の基準が云々ではなく,事故が発生してその影響が敷地内に収まらない設計自体が問題なのだ。放出された放射性物質が,長い期間にわたって広大な面積からなくならないという問題。

福島第一では)放射性物質の放出は何カ月も続いたが,いったんあのようになってからでは手の施しようがない。しかし,最初に 3 日間の猶予がありながら安定化できなかった事実は重大だ。強大な津波が原子炉を襲う。炉心が露出する。炉心溶融が起こる。それで簡単に原子炉事故へと直行してしまう設計がそもそも欠陥なのだ。バッド・デザインなのだ。
(同上「科学」)


9/6-2016
九電、川内原発停止要請に応じず 三反園知事「遺憾」(朝日新聞)

九州電力の瓜生(うりう)道明社長は5日午前、鹿児島県庁を訪れ、三反園訓(みたぞのさとし)知事から受けた川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の停止要請に対する回答書を知事に手渡した。「直ちに停止する」との求めには応じず、10月以降の定期検査入りまで稼働する方針を正式に示した
一方、九電は避難計画見直しへの支援や、情報発信の強化などには応じる姿勢だ。九電の瓜生社長は三反園知事に対し、「知事の要請を重く受け止め、県民の皆様の不安を軽減する新たな対策を取っていきたい」と述べた。

これに対し、三反園知事は「私は熊本地震を受けて原発をいったん停止して再点検すべきだと強く要請した。この回答書は極めて遺憾だ。必要があれば改めて要請したい。原発が安全だという意識を捨てて頂きたい」と述べた。

三反園知事は8月26日に九電に対し、熊本地震を受けて県民の不安の声が高まっているなどとして、川内原発を「直ちに停止」し、安全性を再検証するよう要請していた。だが、経営安定に原発が欠かせない九電は、知事に原発を停止させる法的な権限がないほか、応じれば全国の他の原発の稼働にも影響を与えかねない、などとも考慮し、停止要請を拒む方針を固めていた。

川内原発は三反園知事の要請にかかわらず、10月以降に法律に基づいた定期検査に入る予定だ。九電は1号機は10月から、2号機は12月から検査入りする計画にしていた。九電は定期検査の期間中に、知事が求めた原子炉圧力容器など7項目の検査に加え、要請にはない検査も自主的に進める方針だ。避難計画の見直しへの支援では、事故時に住民が避難するため九電が確保する16台の福祉車両も増やす考えだ。災害時に九電社員が福祉施設などに駆けつけることも約束する。

事故や災害時に、原発の状況についての情報発信を強化する考えなども盛り込んだ。一方、知事が求めた原発周辺の活断層の調査については、「すでに相当実施している」(九電幹部)として応じない。(朝日新聞9/5)

「原発の強度」や「断層調査」に関しては、原子力規制委が認めているという理由で九電が知事の要請を拒否するのは予想通りだ。しかし、「避難計画」に関しては自治体に任されているところがあり、鹿児島県として九電を追及する十分な理由がある。

台風・地震・火山活動との複合災害に対して、原発からどのような避難計画が可能なのか。机上の計画ではなく、具体的な点検・実証が重要である。九電が「16台の福祉車両を増やす」、「災害時に九電社員が福祉施設などに駆けつける」との意向を示したことに、九電の弱みがよく現れている。

三反園知事は何度でもくり返し要求を九電に対して突きつけ、川内原発の問題がどういう問題であるのか県民の前に明らかにすることが大事だ。知事側が交渉を十分にオープンにすることも、重要である。


9/7-2016
大間原発 新規制基準対策工事の開始を2年程度延期へ(NHK)

青森県に建設中の大間原子力発電所について、事業者の電源開発は、新しい規制基準の審査を踏まえた対策工事の開始時期を当初のことし11月から2年程度延期する方針を固めました。これにより、平成34年度(2022年度)ごろを目指していた運転開始時期も先延ばしになる見通しです。

大間原子力発電所は、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを混ぜた「MOX燃料」を原子炉のすべてに使う世界で初めての商業用原発で、電源開発が示した安全対策が新しい規制基準に適合しているか審査が行われていますが、原子力規制委員会からデータ不足を指摘されるなどして審査は長引いています。

電源開発はこれまで審査に合格したうえで、ことし11月から対策工事を始めるとしていましたが、関係者によりますと、この計画が事実上不可能になったと判断し、対策工事の開始時期を2年程度延期する方針を固めたということです。これにより、平成34年度ごろを目指していた運転開始時期も先延ばしになる見通しで、電源開発は、この方針を今月9日にも地元の自治体に説明することにしています。

大間原発をめぐっては地元の自治体が早期の運転開始を求める一方、津軽海峡を挟んだ北海道の函館市が「事故が起きれば大きな被害を受ける」などとして、国と電源開発に建設中止を求める裁判を起こしています。(NHK9/6)

1年前の河北新報が、まるで同じようなことを報じていたことに気付いた。
電源開発(Jパワー)は4日、青森県大間町に建設中の大間原発について、2021年度ごろとしてきた運転開始時期を1年延期し、22年度ごろを目指すことを大間町などに報告した。原子力規制委員会による新規制基準適合性審査(安全審査)に想定より時間を要しているため。(河北新報9/5-2015)
大間町議会はできるだけ早い運転開始を望んでいるのだが、この時、議員から「(1年延期で)大丈夫と言えるのか。このままでは会社への不信感が生まれる」などと、見通しの甘さを批判する意見が相次いだ。その批判がまさに的中した。

1年経ったら電源開発が、「新規制基準の対策工事を開始する時期を、当初の(2016年)11月から2年程度延期する方針」を発表することになった。運転開始はさらに延びるだろう。

地元有力者は「冷え込む地元経済への影響」をもっぱら心配しているが(金沢満春町長の発言、河北新報9/5-2015)、フルMOX燃料の原発は世界に例がなく、運転が不安定になりやすいと言われている。
大間原発の延期が伝えられたのは、ちょうどいいチャンスだ。延期に延期を重ねる六ヶ所村の再処理工場も含めた、青森県全体の原子力依存体制を考え直すべきではないか。


9/8-2016
鹿児島知事が川内即時停止を再要請 九電社長、拒否を示唆(西日本新聞)

鹿児島県の三反園訓(みたぞの・さとし)知事は7日、福岡市を訪れ、九州電力の瓜生道明社長に、稼働中の川内原発(同県薩摩川内市)を即時一時停止するよう再び要請した。報道陣の取材に応じた瓜生社長は「しっかり住民の皆さまの不安低減につながるように、特別点検を徹底的にやりたい」などと述べ、あらためて即時一時停止を拒否する考えを示唆した。

三反園知事は「できるだけ早く停止し、検証いただきたい。県民の安全を守るため、ぜひ社長のご英断をお願いしたい」と述べ、再要請書を瓜生社長に提出。10月6日からの定期検査前に停止させるため、早期に文書で回答するよう求めた。瓜生社長は「原子力発電所に対する不安のさらなる低減や、安全性、信頼性向上に向けた観点から真摯に検討する」と応じた。

九電は即時一時停止には応じない方針を社内で決めている。14日に県議会が開会する日程を考慮し、13日までに回答する方針。

再要請書ではこのほか、三反園知事の現地調査で避難のための道路の狭さや車両不足に対する不安の声が多く寄せられたとして、九電にさらなる支援を求めた。瓜生社長は記者団に「知事が視察されたときの住民の皆さまの声を確認したい」と述べ、30キロ圏内での道路確保や車両の追加配備の支援を検討する考えを示した。再要請を受け九電は7日、社内で関係部署の協議を始めた。

三反園知事は8月26日、川内原発を即時一時停止して熊本地震後の安全性を再検証するよう要請。九電は5日、即時停止には応じないが、定期検査に合わせて自主的に行う特別点検や地震観測地点の増設などを回答した。一連の対応で瓜生社長は鹿児島県庁に2度出向いているが、7日は三反園知事が九電本店に隣接する子会社のビルを訪れて面会した。(西日本新聞9/7)

福岡市を訪れ三反園知事が再度要請したことで、九電への圧力は一層高まった。
再要請に対し、瓜生社長は記者団に「しっかり特別点検する。それで勘弁してほしい」とし、理解を求めた。 (福島民友9/7)
これは九電側の一種の泣き言で、普通なら表に出てくることの無いセリフだ。

知事側は県民による多数の支持を背景にしているので強く出ることが出来る。「川内原発の即時一時停止」を振りかざして、避難計画のための車両援助や道路整備などに九電の一層の譲歩を要求するという戦術であろう。


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9/9-2016
もんじゅ管理棟のごみ箱から出火 作業員消火(中日新聞)

6日午前9時ごろ、福井県敦賀市の高速増殖原型炉もんじゅの環境管理棟で自動火災報知機が鳴った。出火元は棟内の分析室に置かれた段ボール製のごみ箱で、隣の作業台なども焼けた。作業員が消火器で消し、約55分後に地元消防隊が鎮火を確認した。けが人はなく、放射性物質の漏えいもないという。

運営する日本原子力研究開発機構(原子力機構)によると、管理棟は原子炉建物から200メートルほど離れており、周辺の放射能測定などを行う。当時、分析室は施錠され、無人だった。ごみ箱は分析に使う薬品などをふきとった台ふきやゴム手袋を捨てるのに使っており、原子力機構は出火原因を調べている。(写真も 中日新聞9/6)

ゴミ箱についてもっとも詳しいのは毎日新聞。「ゴミ箱三つ焼ける」と報じている。
出火元とみられる段ボール製のごみ箱(長さ30センチ、幅50センチ、高さ50センチ)の両隣にほぼ同じ大きさのプラスチック製のごみ箱があり、布の燃えかすなどがあった。午前8時半ごろに作業員が入室した時に異常はなく、出火時は施錠されていた。 (毎日新聞9/7)
建物は全館禁煙で分析室に火気はなく、施錠している。隠れタバコがあったのか、さもなくば放火の可能性も出て来る。

現場は管理区域外で大事に至らなかったが、不安である。


9/10-2016
溶融燃料「臨界」防止へ 廃炉研究機構が対策、福岡で原子力学会(福島民友)

福岡県久留米市で開かれている日本原子力学会「秋の大会」は2日目の8日、東京電力福島第1原発の廃炉技術に関連する発表が多く行われた。国際廃炉研究開発機構(IRID)の研究チームは、事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)や原子炉圧力容器内に残っている燃料を取り出す作業中、新たな放射性物質の放出や作業員の被ばくにつながる「臨界」を防ぐシステムについて報告した。

研究チームは、デブリなどを遠隔操作で取り出す将来の廃炉作業に備え、未然防止策から迅速な検知、臨界状態を速やかに解消する対策を重層的に組み合わせた「臨界管理システム」の構築を目指している。

迅速な検知については、臨界時に一部の放射性物質がガスとして放出されることに注目。原発内の空気を常時監視し、クリプトンという放射性物質が通常の100倍を超えた場合に警報を出す仕組みを整える。

残存燃料やデブリを直接扱う場合には、核分裂に必要な中性子を吸収してしまう物質をセメント状にしてかけることで表面を包み込み、その上で中性子を感知する測定器で異変の有無を確認しながら作業する方法の確立を目指す。

また、未然防止策としては、あらかじめ中性子を吸収する物質を液体として原子炉圧力容器や原子炉格納容器内に流し込み、万が一にも臨界を発生させない対策が可能かどうか検討している。

IRIDの担当者は「第1原発で再びデブリなどで臨界が発生するリスクは高くないが、備えは必要」と指摘しており、構築したシステムを来年度に政府が決定するデブリの取り出し方法に反映させる方針。

溶け落ちたデブリを「石棺」で封じ込めたチェルノブイリ原発事故では、1990年代にデブリが再び臨界したことが分かっている。同原発では、臨界時に放出される放射性物質を検出する核反応安全性監視システムを構築している。(福島民友9/9)

デブリを扱う場合に「臨界が起こらないように絶えず工夫する」のは当然のことで、日本原子力学会という原子力ムラ側の学者組織がそれを認めたのには一定の意味がある。

JOC事故(1999年9月30日)ではウラン溶液の不注意な取り扱いで臨界が起こった。デブリは固体なので、一層深刻な事態となる可能性がある。

わたしはチェルノブイリで「1990年代にデブリが再び臨界した」という事実を知らなかった。本当なのか? おそらく、この原子力学会の発表をきっかけとして、詳細が報道されると思われるのでそれを待つ。


9/11-2016
<原発事故>甲状腺がんの子ども支援へ基金(河北新報)

東京電力福島第1原発事故後に甲状腺がんと診断された子どもの治療費などを支援しようと、有識者らが「3.11甲状腺がん子ども基金」を設立し、寄付の募集を9日始めた。11月から給付を始める予定。

支援対象には、福島県が事故当時の18歳以下を対象に続ける「県民健康調査」で甲状腺がんと診断され、手術を受けたか受ける予定の子どもを想定。11月までに2000万円集め、1人5万円程度、約400人に対する給付を目指す。

具体的な給付基準は、弁護士や医師らでつくる予定の審査委員会で決める。福島県庁で記者会見した原発事故の元国会事故調査委員会委員の崎山比早子代表理事は「救うべき子どもや家族の間に、声を上げづらい雰囲気が広がっている。継続的に支援したい」と話した。

基金は、設立の呼び掛け人に脱原発を訴える小泉純一郎元首相や作家の落合恵子さんら、賛同人に女優の吉永小百合さんらが名を連ねた。寄付の振込先は城南信用金庫本店、口座名「サンイチイチコウジョウセンガンコドモキキン」、口座番号845511。事務局を設ける17日までの基金の連絡先は03(5511)4402。(河北新報9/10)

福島県立医大に囲い込まれている甲状腺がんの子どもたちや家族が、相互に孤立しどこからも援助の手が伸ばされていない状況にある。その患者・家族に対して、金銭的援助をしようとするのがこの基金のとりあえずの目的である。更に、啓蒙キャンペーン、住民調査なども構想しているという。
7月20日に立ち上げた。崎山比早子・武藤類子・川合弘之らが代表理事。設立記念シンポジウムは9月17日に予定されている。

OurPlanet-TVが、9月9日に城南信用金庫で行われた記者会見の模様をアップしている(約55分)。わたしは視聴したが、理事たちの話は、いずれも落ち着いた調子で好印象を受けた。「3・11 甲状腺がん子ども基金」設立記者会見


9/12-2016
白石はじめ「『過剰診断』論の背後で何がおきているのか?――甲状腺がんの再発予後と治療」(雑誌「科学」岩波書店 2016年8月号)を読んだ。そこに紹介してある患者たちの診療の日常が、わたしのこころに突き刺さった。その部分を紹介したい。まず、冒頭の一節。
毎週火曜日。朝8時半をすぎると、福島県立医科大学(以下、福島医大)付属病院2階にある外来病棟の10番診察室前は、診察を待つ患者であふれる。中高年層が大半を占めるなか、目立つのは子ども連れ家族の姿だ。福島県民健康調査の甲状腺検査で「2次検査の必要あり」と診断を受けて精密検査を受ける子どもや、甲状腺の摘出手術を受けた後、経過観察をしている子どもたちだ。両親だけでなく、祖父母が付き添っているケースもある。最近は小学生の年ごろの子供も目につくようになった。
子どもたちに対して長時間の「診察待ちの時間」を強いることが、いかに残酷であるか、拷問にあたいするような扱いであることを考えるべきだ。
福島医大附属病院の甲状腺内分泌外科 は、鈴木眞一教授が担当をしている火曜 日、大変な混雑となる。朝9時に病院に到着しても,診察は午後2時や3時になることは稀ではない。診察待ちの患者が、看護師から、先に昼食をとるよう促される姿もよくみかける。実際小児甲状腺がん患者の支援を担当している古橋知子看護師は、2015年秋季の甲状腺学会で、「甲状腺がんに直面した小児・若年成人とその家族に対する支援」と題する発表を行い、目下の課題として、「診察待ちの時間の改善」を第一にあげた。混雑の緩和は、福島医大も認識している重要課題であることがわかる。
しかし、混雑は必ずしも福島医大だけに限ったものではない。日本はもともと甲状腺の専門医が少なく、病院によっては、現時点においても、手術待ちの期間が長期に及ぶ状態に陥っている。
著者の白石草氏は、今後の日本において「医療資源の枯渇」が心配であると、警鐘を鳴らしている。
「被曝影響 とは考えにくい」との見解が一人歩きする中、深刻なのは、県も国も、今後,甲状腺がんが増加するかもしれないという可能性を検討せず、一切の対策を怠っていることである。なかでも筆者が最も危機感を抱いているのは、医療資源の枯渇である。
この論文の中心部は、「過剰診断」論が本当に手術後の慎重な検討を踏まえて出されているのかどうか、手術症例の公開がはかられているのかどうか、などにあるのだが、その部分を本論がここで紹介する余裕は無い。ただ、「過剰診断」論がひとり歩きし、受診率が急激に落ちていることは真に憂うべきことだ。しかも、福島県では今後行われる3巡目の検査案内には受診をためらわせるような文言が入れられている。
「検査の結果、治療が必要な変化が発見され、早期発見早期治療につながることもありますが、甲状腺の特性上、治療の必要のない変化も多数認めることになり、ご心配をおかけすることもあります。」

「甲状腺の超音波検査による検診は、一般的には行われてきませんでした。」
3・11まで、一般の大衆多数へ被害を与える原発事故がなく、原発事故による広範な放射線被曝を日本では経験していなかったから、超音波検査が大規模には行われてこなかったのだ。この福島県文書は悪意をもって書いているのかと疑われる。
福島民友6/15は)福島医大放射線健康管理学講座の緑川早苗准教授が行っている「出前授業Jを 紹介 し,「『がんが見つかったら嫌だ』と思 う人は、受けない意思も尊重されます」と子どもに話している姿が描かれていた。
と新聞記事を紹介している。

2巡目で県民健康調査の甲状腺検査では、「事故当時16歳から18歳の年代の受診率が25%まで減り、検査は縮小の方向に向かっている」と白石氏は述べている。
2巡目検査で、全年齢の受診率は68・2%(対象人数は21万6779人)。このうち2次検査の対象となったのは1173人で受診したのは654人(55・8%)、つまり残りの514人は受診しなかった(!)ということだ。受診した654人のうち細胞検査が必要と判定された人が470人、そのうち細胞検査を受けた人が、なんと87人(このうちがん発見は25人)。つまり残りの383人(81・5%)は細胞検査に行かなかったのである。(この部分の数字は、宗川・大倉・尾崎『福島原発事故と小児甲状腺がん』本の泉社2015 p5を使用しました)。

2巡目にして、事実上検査体制が壊れている。がんが見つかりそうだという細胞検査となると8割の人が検査を受けないのだから。「受けないことも権利である」というようなことを言って回っている医師がおり、過剰診療論が喧伝されているのであるから、無理もないということなのか。しかし、後に重症化して発見された場合、誰が責任を取るのだろう。「患者の自己責任だろうか。そのようなことはあってはならない。」と白石氏は述べている。わたしもその通りだと思う。(追記9/15:上の訂正部は、わたしの誤認があるかも知れない。細胞検査が対象者全員に対して終了していないので辞退率が高いという可能性がある。1巡目は同じ辞退率が52.2%で、かなり高い。2巡目はこれより、更に高くなるのであろう。判明したら追記します。)

3・11原発事故はたいしたことじゃなかったんだ、と言って抑えつけたい国と原子力ムラとによって、わが国には地獄が広がりつつある。


9/13-2016
もんじゅ廃炉で最終調整 政府が核燃サイクル見直し(中日新聞)

政府は12日、原子力規制委員会が運営主体の変更を求めている日本原子力研究開発機構(原子力機構)の高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)を廃炉にする方向で最終調整に入った。再稼働には数千億円の追加費用が必要となり、国民の理解が得られないとの判断に傾いた。核燃料サイクル政策の枠組みの見直しは必至で、関係省庁で対応を急ぐ。

所管の文部科学省は、規制委から運営主体の変更勧告を受け、原子力機構からもんじゅ関連部門を分離し、新法人を設置して存続させる案を今月に入り、内閣官房に伝えた。しかし、電力会社やプラントメーカーは協力に難色を示しており、新たな受け皿の設立は困難な情勢。政府内では、通常の原発の再稼働を優先すべきだとの考えから経済産業省を中心に廃炉論が強まっていた。(中日新聞9/13)

ついにもんじゅ廃炉が現実の話として進み出した。それは結構なことだが、ことがここに到るまで廃炉を決断できなかった関係者の責任が追及されるべきだ。しかも、今度の廃炉についても、どの部署の誰たちがどのような議論をなしたのかがまったく分からない。官僚たちの密室で行われる利害のシェアと押し付け合いによって決まる。代わりに「原発の再稼働を優先する」という相談がまとまった、というのではないのか。

すべての金の出所は電源開発促進税であり、電気料金の上乗せとし徴収される。1世帯月額は平均110円だそうだ。

◇+◇

東京都の、築地市場を豊洲へ移す話は、生鮮食品を扱う場所だというのにまったく無神経なことだ。都の役人と都議会有力者の間でどんな利益のシェアが行われたのか。石原慎太郎知事の時代である。
田中龍作ジャーナル9/12「東京都がひた隠す 豊洲汚染地・土地売買の深い闇」は、この問題の構図を鮮やかに見せてくれる。


9/14-2016
規制委、(玄海と川内の)対策所計画を了承 玄海原発:2基合格見通し (毎日新聞)

原子力規制委員会は13日の安全審査の会合で、九州電力の玄海原発3、4号機(佐賀県)と、稼働中の川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)のそれぞれに設置する「緊急時対策所」について、耐震構造で建設するとする九電の計画を了承した。これで玄海の2基は再稼働に向け、今冬にも審査に合格する見通しとなった。全国で5原発目となる。

対策所は原発事故の際の前線基地。九電は川内の対策所は免震構造とする計画で審査に合格し、再稼働後に建設するとしたが、昨年12月には耐震構造へと方針転換。今年5月には玄海3、4号機も同様に変更したため、規制委が詳細な理由の説明を求めていた。

九電はこれまで「免震構造より耐震構造の方が2年早く建設できる」としてきた。13日の会合では「地震による免震装置のひずみが当初見積もりより大きいことが分かり、免震での建設が困難になったことが理由」とし、理解を求めた。九電の中村明常務は「(これまで)中途半端な説明で申し訳ない」と陳謝した。

免震構造は建物と土地の間に緩衝装置を設置して揺れを減らす。耐震は岩盤の上に直接建てて頑丈に造る。それぞれにメリットがあり、新規制基準ではどちらで建設するかは事業者の判断に委ねられている。(毎日新聞9/13)

「緊急時対策所」について、九電は十分に調査・研究せずに「免震」だといい、後で「耐震」に変更した。しかもその理由説明を変更し、「耐震は2年早く建設できる」から「免震は建設不可能」とした。

九電はどんなその場しのぎの説明であろうとも、ともかく、早く再稼働できればよい、という態度が明らかだ。

規制委は川内原発で大甘の審査を行い、九電の言い分を次々に追認し、早期の再稼働を実現させた。「緊急時対策所」を再稼働後に造れば良いというデタラメな認可の過程で、規制委は十分な厳しい審査をしてこなかったから、この度のような九電による「理由説明の変更」が生じたのだ。
NHKが報じた次のコメントはゆるい表現だが、当然至極の内容だ。
審査に合格したあとに、重要施設の設計方針が変更されたことについて、新たな規制基準の策定に加わった明治大学の勝田忠広准教授は、「今回の設計方針は、再稼働前の審査で十分な検討を尽くせば成立するかどうか確認できたのではないか。結果として九州電力が再稼働を急いだと見られてもしかたなく、規制側もしっかりとした審査が求められる」と指摘しています。 (NHK9/14)
規制委の審査が十分でなく、厳しくもなかったことが明らかになったのである。規制委は九電と調子を合わせて早期の再稼働の実現をめざしていたのだ。規制委に対する信頼性が地に堕ちた。


9/15-2016
福島第1原発事故 甲状腺がん、新たに4人 県民健康調査、2巡目で計34人に(毎日新聞)

東京電力福島第1原発事故の影響を調べる福島県の「県民健康調査」検討委員会は14日、2014年4月から実施している2巡目の甲状腺検査で、今年6月までに新たに4人ががんと診断されたことを明らかにした。2巡目でがんと確定したのは計34人で、がんの疑いと診断された人を含めると計59人となる。

甲状腺検査は、事故時に18歳以下だった約37万人を対象に11年から1巡目を実施し、2巡目からは、事故後1年間に生まれた子どもを加えた約38万人を対象に実施されている。

県によると、1巡目を含め、がんやがんの疑いと診断された子どもの数は計174人になる。内訳は、がんが135人、がんの疑いが39人だった。

甲状腺検査については、治療の必要のないがん細胞を見つけ、不安を与えているなどとする「過剰診断」の指摘があり、検討委では、検査体制のあり方を継続して議論することを確認した。(毎日新聞9/15)

福島民友は、関連する3本のニュースを掲げている。その内の「甲状腺検査はどうあるべきか」と題する2本は「継続せよ」という立場と、「過剰診断」を指摘する立場のそれぞれの内容で、いずれも充実した記事であった。
西氏、子どものため10年は継続を、  武部氏、「無実のがん」見つけている

武部晃司氏の「無実のがん」論は興味深かったが、成人女性の甲状腺がんについての検診経験に基づいているようで、福島の集団検診で現れている子どもの甲状腺がんの多発現象に適用できるのか、さらに突っ込んだ議論を知りたいと思った。
定説とは異なり子ども甲状腺がんの成長が早いこと、肺に転移しているなど「無実のがん」とは言えないケースが存在することは確かではないのか・・・等々。


9/16-2016
もんじゅ廃炉論で「地元に不安」 敦賀市議会、不満の声上がる(福井新聞)

政府がもんじゅを廃炉にする方向で最終調整に入ったとの報道を受け、14日の福井県敦賀市議会一般質問では、議員から「立地地域が置き去りにされ、市民に不安が広がっている」と不満の声が出た。渕上隆信市長は「あらゆる機会をつくって思いを国に伝えたい」と述べ、意見書提出も視野に対応する考えを示した。

田中和義議員(市政会)への答弁。田中議員は「情報が錯綜する中で地元説明がないのは遺憾。立地地域の安全安心が軽視されていると言わざるをえない」として、市長の対応をただした。

渕上市長は「困惑しておりまことに遺憾。政府は地元の期待に応えていただくよう、責任を持って対応してほしい」とあらためてもんじゅの存続を求める考えを示し「書類を作って提出することを含め、あらゆる機会をつくり国に思いを伝えたい」と述べた。(福井新聞9/15)

もんじゅ廃炉が現実味を帯びてくるとともに、福井県および敦賀市の、なりふり構わない利権維持の要求が報道されるようになった。報道でこれくらいなのだから、地元の現実はすさまじいものだろうと想像される。

淵上・敦賀市長は9月8日に文科相と面談し、強くもんじゅ維持を訴えた。その時の報道。
渕上市長は「われわれ立地自治体はもんじゅの重要性を理解し、国策の核燃料サイクルの研究開発に誇りをもって協力してきた」と強調。「もし廃炉にするなら、元の30年前に戻してくれとか、あす目が覚めたら更地になっているようにしてほしいとか、そういう気持ちになってしまう」と語気を強め、政府が一丸となって新しい運営主体を示すべきだと求めた。(福井新聞9/9)
敦賀市は“きれいごと”を発言しているが、要するにこれまで手に入れていた莫大な原発マネーを無くさないでくれ、と必死に懇願しているのである。

平沼健「もんじゅ、ずっと運転停止でも計1兆円税金投入…廃炉でさらに3千億、日本の原子力政策破綻」(Business Journal9/16)は好論文だった。その中から、
これは、もんじゅがあることで地元に巨額の利益をもたらしているためだ。渕上市長の言う「地元の期待」とは、敦賀市にもたらす既得権益を指すといえる。
たとえば、99〜14年度までにもんじゅの固定資産税として総額412億円が敦賀市に納められている。また、97年度に「リサイクル研究開発促進交付金」として約24億円、08年度には「高速増殖炉サイクル技術研究開発推進交付金」として約20億円が国から敦賀市に交付されている。さらに、研究開発費として毎年約4億円が計上されている。
このように、研究に携わる人たちや従業員の雇用という面からも、もんじゅ廃炉や研究中止に反対する力は強く働くのだ。
文科省は自分の管轄であるもんじゅを失いたくないので、なんとかもんじゅ継続に持ち込もうとしている。もんじゅに引導を渡して原発再稼働に集中したいのが経産省である。結局、国としての落としどころは、何らかの名目をつけて“研究継続”ということにする、あたりだろう。


9/17-2016
もんじゅ、1週間でトラブル4件 火災や人為ミス(中日新聞)

日本原子力研究開発機構は16日、「もんじゅ」で10日と13日に設備の操作を誤る人為的なミスがあったと発表した。発表済みの火災やミスを含め、6日からの1週間で4件のトラブルが相次いだ。

機構によると、10日に機構とメーカーの職員計5人がナトリウムを冷やす設備の点検中、別系統で動いている設備の弁を誤って開閉。11日にナトリウムの流量が増えていることに気づき、ミスが分かった。13日には、メーカーの職員2人がナトリウム漏れ検出器の点検中、検出器につながる別系統の機器の電源を誤ってオフにした。すぐに電源を入れ直して復旧。環境への影響はなかったとしている。

もんじゅでは、6日に環境管理棟でごみ箱などが焼ける火災が発生。10日には職員がナトリウム漏れ検出器に信号を送るケーブルを誤って抜いたために、ランプが誤表示するミスが起きた。児玉敏雄理事長が12日、防火と人為ミスの徹底的な撲滅を指示していた。

機構の担当者は、もんじゅ以外で勤務するベテラン職員による点検チームをつくり、もんじゅでの作業をチェックした上で、来月中に報告書にまとめる方針を明らかにした。(中日新聞9/16)

敦賀市の渕上隆信市長は15日の市議会一般質問で、もんじゅで火災などのトラブルが相次いでいることに触れ「機構に憤りを感じるし、一体何をやっているんだという気持ち」と、いらだちをあらわにした。(福井新聞9/16)

電事連は、もんじゅに関わりたくない姿勢を、改めて露骨に表した。
電事連=電気事業連合会の勝野会長は16日の会見で、もんじゅについて「本当に責任を持ってやれと言われると、技術的な知見がないのが大きな障害になる」と述べ、電力会社には高速増殖炉に関する技術的な知見がなく、運営主体を担うのは難しいという考えを改めて示しました。

また、勝野会長は「私どもはプルサーマルという形で核燃料を回しているので影響はない」と述べ、今後、政府内の検討で仮にもんじゅが廃炉になった場合でも、使用済み核燃料を再処理して利用する核燃料サイクル事業には、影響は及ばないという認識を示しました。
(NHK9/16)
電事連はもんじゅを切り捨て、MOX燃料を使う(プルサーマル)方式で核燃料サイクルを行うとしている。つまり、既設の原発の再稼働を早めるだけでなく、フルMOXが可能な大間原発の完成に力を入れようとしている。電事連が掲げる未来図は、もんじゅを捨てて六ヶ所村の再処理施設の運転を開始し、311以前の原発安全神話時代へ回帰するということだ。

電事連は311フクイチ事故の原因究明が済んでいないことや、いまだ多数の方々が故郷から追い出されて避難生活を続けている現実(16年7月現在で8万9319人:福島県発表)には、まるで気付かないふりをしている。


トップページの写真を、オオホシカメムシからチョウ目エダシャク科フタテンオエダシャクに替えた。

9/19-2016
3・11甲状腺がん子ども基金 設立シンポ支援呼び掛け(東京新聞)

東京電力福島第一原発事故後に甲状腺がんとなった子どもの治療費を支援する「3・11甲状腺がん子ども基金」は17日、東京都内で設立記念シンポジウムを開いた。会場では当事者の「患者同士が関わり合うなどのサポート態勢がなく、不安が深まった」との声を紹介し、支援を呼び掛けた。

同基金は小泉純一郎元首相、細川護煕元首相らが呼び掛け人で、9日に設立会見を開いた。被ばくによる健康影響の調査も進めるという。

シンポジウムでは「がんの疑いと診断された時、まず生じたのは『今後どうなるのか』という不安。治療費や、将来の結婚差別などを考えた」という、当事者のメッセージが代読された。

チェルノブイリ原発事故後にベラルーシで子どもたちを診察し続けた医師の菅谷(すげのや)昭・長野県松本市長も講演。現地では、事故から30年たつ今も住民の定期健診が続いていることを紹介した。

菅谷氏は「福島は事故からまだ5年。がんが自然発生なのか、放射線の影響なのかを区別するのは不可能だ。今後の経過を注視し続けないといけない」と語った。(東京新聞9/18)

福島民友も、詳細に伝えている。
菅谷さんは同原発事故で被災したベラルーシが、事故から30年を経過しても汚染地域の6〜17歳の子どもには甲状腺検診を含む年2回の定期健診を国費で実施している現状を説明。子どもたちの健康を守るため「日本でも定期健診にもっと力を注ぐべきだ」と指摘した。

東京電力福島第1原発事故後の甲状腺がんについては「自然発生したがんと、放射線で誘発されたがんを区別することは難しいのではないか。検査結果を注視していく必要がある」と述べ、長期の低線量被ばくの影響についても対応が必要と訴えた。

また、崎山代表理事らとのパネル討論も行われ、菅谷さんは「住民が(甲状腺がんなどに)不安を抱えている限りは国や行政が向き合うのは当然だろう」と述べた。
(福島民友9/18)
本欄9月11日に、9月9日に行われた「3・11甲状腺がん子ども基金」設立記者会見のことを取り上げている。


9/20-2016
<福島第1>排気筒、ドローンで線量調査(河北新報)

東京電力は、福島第1原発1、2号機共通の排気筒の解体に向け、小型無人機「ドローン」を使った放射線量調査を実施する。解体工事を行う際の作業員の被ばく線量評価や解体工法の検討作業に役立てる。

調査用と監視用の2機を使用する。ドローンが、地上とワイヤでつながった線量計を排気口から投下し、内部の線量を測る。筒の外側はドローンに線量計を装着し、解体作業時に足場を設置する可能性がある数十カ所を調べる。今月下旬に着手する。

排気筒は高さ120メートル、内径3メートル。原発事故時にベントを行ったため、底部で毎時3シーベルトの放射線が今も計測されるなど線量が極めて高い。支柱には水素爆発の影響とみられる亀裂が、高さ66メートル地点に複数見つかっている。

空間放射線量の低減と倒壊防止のため、東電は2018年度中に解体に着手する方針。計画では、亀裂部分を含む上半分を遠隔操作で撤去し、排気筒に雨水が入らないようふたを取り付けるが、具体的な工法は決まっていない。
第1原発では14年12月〜15年2月、ドローンを使って1〜4号機のタービン建屋の線量を調査した。(図も 河北新報9/19)

そばに近寄れないほど高線量に汚染されている排気塔は、フクイチの難題のひとつ。これは非常に大きな建造物で、高さ120m、内径3mの巨大な円筒形であるが、水素爆発で損傷があり、海岸沿いで腐蝕も進んでいる。嵐や地震で倒壊するようなことがあったら、周辺地域へまき散らされる汚染物質は大変な量となり、心配されている。

とりあえず、まず放射線量調査を行おうという計画。ドローンを使って線量調査をし、排気塔内部にも線量計を投入するという。

この排気筒について、本欄は何度も取り上げているが、根元の部分で25シーベルト毎時を測定(推定)したときの写真があるのが、2013年12月8日


9/21-2016
地下水上昇、地表面に=台風16号の降雨で−福島第1(時事通信)

東京電力は21日未明、福島第1原発の護岸近くで、台風16号の降雨で地下水の水位が上昇し、地表面に達したと発表した。護岸近くの地下水は放射性物質に汚染されている可能性があるとして、ポンプなどでくみ上げ作業が行われていた。

東電によると、護岸の東側は同原発の港湾となっている。20日午後10時前に護岸近くの観測用井戸で地下水が地表面に到達。地下水の噴き上げはないが、雨水が地下に浸透せず地表面を通って港湾に流れ込む可能性があるという。

東電は地下水のくみ上げ作業を継続するとともに、今後港湾内の海水の放射性物質濃度分析などを行うと説明している。第1原発1〜4号機の周辺では地下水が広範囲に汚染されており、東電は港湾への流出を抑制するための遮水壁を設置。さらに、その手前で地下水のくみ上げ作業を行っていた。(時事通信9/21)

台風16号により秋雨前線が活発化、雨量が増えている。地下水位の上昇は降雨と時間差があり、今後の推移が心配される。フクイチの汚染地下水問題がここまで切羽詰まったことはなかった。

FCT(福島中央TV)は、バキューム車4台を用意している、とも伝えている。NHKは「雨が地下に浸透できない状況になり、敷地内で汚染された水が地表を通って港湾内にあふれ出るおそれが高まった」と述べている。

【追記9/22】:実際に地下水があふれた、という報道があった。
東京電力は21日、福島第1原発の海側にある井戸「地下水ドレン」の水位が地表面を最大で5センチ上回ったと発表した。汚染水が舗装面のひび割れなどから地表にしみ出し、港湾に流れた可能性があり、海水の放射性物質濃度を調べている。(河北新報9/22)


9/22-2016
原子力政策の限界鮮明に 廃炉費をすべての電力利用者負担へ(東京新聞)

経済産業省が東京電力福島第一原発をはじめとする大手電力会社の原発の支援に乗り出すことで、国民には「底なし沼」のような負担が迫る。「原発は安い」という説明を続けながら、綻(ほころ)びが生じるたびに国民負担を増やすことで覆い隠そうとする政府の原子力政策。有識者からは「限界にきている」と厳しい批判が相次いでいる。

実質的に国有化されている東電と政府は2013年に福島第一原発の廃炉費用を2兆円と見積もり、東電が工面する計画を立てた。しかし、今後の作業は溶け出た核燃料の取り出しなど世界でも前例のない段階に入り、「十兆円はくだらない」(経産省関係者)などとみられている。除染や賠償費も、すでに13年の見積もりを超えた。東電関係者によると、今年7月に、東電が政府に支援を求める声明を書いたのは、経産省から出向中の西山圭太執行役で、同省の「自作自演」だった

今後、費用の上乗せを議論する「東京電力改革・1F問題委員会」は、国民に負担を求める議論にもかかわらず、経産省は「東電の経営に直結するので」(電力・ガス事業部の畠山陽二郎政策課長)と一部を非公開にする構えだ。

一方、ほかの原発の廃炉費用は電力会社が40年かけて積み立てる規則だった。同省の資料によると13年3月末時点で全国の原発50基の廃炉費用1・2兆円分が不足している。「原発が安い」というならば、原発を持つ大手電力会社は廃炉費用に悩む必要はないはずだが、それも結局は国民に頼るという

電力問題に詳しい立命館大の大島堅一教授は「矛盾は明らかで、福島第一原発のように最終的にいくらになるのか分からない費用があったり、超長期にわたって費用を積み立てなければならない不安定な電源を『安い』とは言えない」と話す。
原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「原発を保有する東電や大手電力会社を生かすために付け焼き刃の対応と国民負担を増やし続けている状態で、原子力政策の行き詰まりは明らかだ」と批判している。(東京新聞9/21)

311フクイチ事故で、国民は原発が安全ではないことをはっきり知った。こんどは、廃炉費用まで国民負担に上乗せすることで、原発が安くないことを知らされた。原発には取り柄がないのである。

太陽エネルギー・風力・水力など、再生可能な発電方式が技術進歩とともに、すでに、実用化されている。この分野は今後もさらに発展する可能性が大きい。

「原子力政策の行き詰まりは明らかだ」(伴英幸)。そうであるからには、国策「核燃料サイクル」を廃止する抜本的改革をなすべきである。
今、もんじゅの廃炉をめぐって政府見解が毎日大量に報道されている。しかし、「原子力関係閣僚会議」の根本方針の第一は
核燃料サイクルを推進し、高速炉の研究開発に取り組む方針を堅持 (毎日新聞9/22)
であって、「核燃料サイクル」も「高速炉」も手放そうとしていないのである。いったい、どこが、「抜本的見直し」(菅義偉官房長官9/21)なんだ。


トップページの写真を、フタテンオエダシャクからハエ目チョウバエ科オオチョウバエに替えた。

9/23-2016
【社説】もんじゅ廃炉へ  核燃サイクルは限界だ (京都新聞)

当然の決断だ。政府は高速増殖炉もんじゅ(福井県)を廃炉にする方針を関係閣僚会議で決めた。1兆円を超える国費を投入しながら、事故や不祥事が続いてほとんど稼働できなかった。年200億円近い維持費もかかる。決断はむしろ遅きに失した感がある。

原発の使用済み核燃料を再処理して燃料とする「もんじゅ」は、国が進める核燃料サイクルの中核である。もんじゅの挫折によって、危険な使用済み核燃料をどう扱い、処分するのか、改めて重い課題を突き付けられたといえる。

ところが政府は、核燃料サイクルを放棄するどころか、原発大国フランスの技術協力を得て、新たな高速炉の研究開発を進める方針を決めた。「抜本的見直し」という菅義偉官房長官の説明とは裏腹の、かたくなな姿勢に驚く

原発の燃料となるウランの産出は、カザフスタンとカナダ、オーストラリアで世界の3分の2を占める。中国など新興国の原発増設で需要が高まっており、ウラン価格は上昇している。高速増殖炉が「夢の」と形容されるのは、従来型原発では燃料に適さない種類のウランを炉内でプルトニウム燃料に転換しながら発電するため、資源の利用効率が飛躍的に上がるからだ。天然資源が乏しい日本にとって、技術によって「国産エネルギー」を生み出す高速炉は魅力的ではある。

しかし、試運転から25年の歳月が教えるのは、実用化を阻む技術的な壁の厚さと膨大なコスト、事故時に予想される過酷な事態だ。戦後、先進国がこぞって開発に取り組んだが実用化には至っていない。現在、フランスとロシアがなお前向きだが、その成功をあてにして巨額の国費を再び無駄にする愚は犯してはなるまい。

ピーク時に54基が稼働していた原発の使用済み核燃料は約1万8千トンもあり、大半が原発敷地内のプールで保管されている。その再処理を担うはずの六ケ所再処理工場(青森県)は、2兆円超を投入してなお、トラブル続きで稼働が見通せない。もんじゅと六ケ所という「両輪」が行き詰まった今、未来の見えない核燃料サイクルにしがみつくべきではない。いったん放棄し、「国策民営」と揶揄(やゆ)される原発とエネルギー政策を根本から見直すときだ。

日本が保有する使用済み核燃料から分離したプルトニウムは、核兵器数千発分にも相当する48トン。その安全で確実な処分方法こそ、真剣に考えねばならない。(京都新聞9/22)

「もんじゅ廃炉」に関する社説で、良いと思うものを掲げる。
関係閣僚会議が「もんじゅ廃炉」の方針を発表したが、同時に、「核燃料サイクルを推進」すること、および「高速炉の研究開発」の方針を堅持することをも発表した。国の方針は何一つ変わっていないのである、少なくとも言葉の上では。

“もんじゅは失敗だった、しかし、核燃料サイクルは推進する、高速炉の研究開発も堅持する(もんじゅは高速増殖炉で、高速炉の一種)。”
国の官僚たちが考えていることは、「もんじゅの失敗」を認めないで廃炉にする理屈をひねり出すことだろう。失敗を認めれば、責任者を追及せざるを得ないことになるからである。かつて日本軍が、「退却」を「転進」と言い換えたような屁理屈を考え出そうとしているのだろう。

核燃料サイクルの「両輪」のもう一方は、青森県六ケ所村の再処理工場である。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すことだ。再処理の工程は複雑で非常に危険だ(放射性物質の環境への拡散も、原発より桁違いに多い)。その再処理工場は93年の着工以来23回も完成延期を繰り返し、建設費用は当初の3倍、2兆円以上に膨らんだ。しかし、まだ運転できない。
核燃料サイクルという国策も、ほとんど破綻状態なのである。

原子力を発電に使うという発想そのものに無理があった。発電はもっと小規模な軽工業で実現できる。遠隔地に大発電所を造って送電線を延々と消費地まで引いてくる、というやり方はすでに時代遅れだ。まことに「原発とエネルギー政策を根本から見直すときだ」。


9/24-2016
セシウム評価を矮小化 福島第1原発港湾内、最高値を「やや高め」(福島民友)

東京電力は22日、福島第1原発の港湾内で21日に採取された海水の分析結果について、2地点でセシウム137の濃度が過去最高を更新したことを明らかにした。ただ、分析結果を知らせる報道関係者への一斉メールでは「最近の変動から見るとやや高めの傾向」と評価を矮小化するような表現で発表していた。

東電によると、「1号機取水口」のセシウム137の濃度は1リットル当たり95ベクレルで、それまでの最高値だった2015(平成27)年9月の同82ベクレルを13ベクレル上回った。

「1〜4号機取水口内北側」のセシウム137は同74ベクレルで、13年10月の同73ベクレルを1ベクレル上回った。排水路などから港湾内に雨水が流れ込み、濃度が上昇したとみられる。

分析結果は21日午後10時50分ごろ、報道関係者に一斉メールで通知された。2地点の数値が記されていたがメールの本文に最高値更新を示す表記はなかった。

一方、メールには詳しい分析結果の資料が表示されるサイトのURLが掲載されており、詳細資料には最高値更新が示されていた。
最高値更新を本文に表記しなかったことについて、東電の担当者は福島民友新聞社の取材に「大変申し訳ない。23日の会見でしっかり説明したい」と弁明した。(福島民友9/23)

「メルトダウン」という語を使わないように、という指示を出すような会社だから、「過去最高を更新」を「やや高めの傾向」ということ位は何でもないのだろう。一旦矮小化した印象を与えておいて、目の利く記者に批判されたら、「申しわけありません、しっかり説明します」と頭を下げるまでのことだ・・・と。

地下水位が地表より高くなり、雨水が地表から下へしみこまなくなる。逆に地下水が地表の割れ目などから出てくる。汚染された水は港湾へ流入する。それは数日のうちに外海へ出て行く。
港湾内のセシウム137の濃度が21日に最高値を更新したのは、汚染水が流出した可能性を強く示唆している。心配されていたことが、起こっていると考えるべきだ。

まだ報道されていないが、今回の豪雨で、凍土壁が溶け出すことがまた起こっているかも知れない(先の報道は9月1日参照)。

台風などによる豪雨は年々ひどくなっている。今年は東北地方を何度も豪雨が襲った。地下水位が地表より高くなることが、今後、度々生じると考えておかないといけない。つまり、東電がフクイチでやっている汚染水対策は、現実の気象状況に追い越されてしまっている。


9/25-2016
福島第1原発事故 ダム底、高濃度セシウム 原発周辺、10カ所8000ベクレル超(毎日新聞)

東京電力福島第1原発周辺の飲料用や農業用の大規模ダムの底に、森林から川を伝って流入した放射性セシウムが濃縮され、高濃度でたまり続けていることが環境省の調査で分かった。50キロ圏内の10カ所のダムで指定廃棄物となる基準(1キロ当たり8000ベクレル超)を超えている。ダムの水の放射線量は人の健康に影響を与えるレベルではないとして、同省は除染せずに監視を続ける方針だが、専門家は「将来のリスクに備えて対策を検討すべきだ」と指摘する。

貯水線量、飲料基準下回る
同省は原発事故半年後の2011年9月、除染されない森林からの放射性物質の移動を把握するためダムや下流の河川などのモニタリング調査を開始。岩手から東京までの9都県のダム73カ所で1カ所ずつ数カ月に1回程度、観測している。

このうち底土表層濃度の11〜15年度の平均値が指定廃棄物の基準を超えるダムは、いずれも福島県内の10カ所で、高い順に岩部(がんべ)ダム(飯舘村)1キロ当たり6万4439ベクレル▽横川ダム(南相馬市)同2万7533ベクレル▽真野ダム(飯舘村)同2万6859ベクレル――など。ただ、表層の水は各ダムとも1リットル当たり1〜2ベクレルで、飲料水基準の同10ベクレルを下回る。

同省の調査ではダム底に堆積したセシウム総量は不明だが、10ダムのうち福島県浪江町の農業用「大柿ダム」で、農林水産省東北農政局が13年12月、総量を独自調査。ダム底の110カ所から抜き取った堆積土の数値をもとに10メートル四方ごとの堆積量を試算。セシウム134と137の総量は推定値で約8兆ベクレルになった。

国立環境研究所(茨城県つくば市)は近く、複数のダムで本格調査に乗り出す。環境省は「ダムに閉じ込めておくのが現時点の最善策。しゅんせつすれば巻き上がって下流を汚染する恐れがある」としている。(地図も 毎日新聞9/25)

農業用ため池の底に高濃度の放射性汚染ヘドロが堆積している問題はこれまで何度か報道されている(本欄では 例えば、2013年1月12日)。大規模ダムについての調査の報道は初めてではないか。

フクイチから放出された放射性物質が森林に降下し、雨などの際に時間をかけて土とともに流下し、ダム底に溜まる。高濃度セシウムが蓄積している。泥の沈殿は年に5pほどと見積もられ、5年半で30p程度の厚みとなっているとされる。

ダムの表層水そのものの汚染は少なく(飲料水基準を下回る)、水は放射線をさえぎるので、ダム底の放射性セシウムの影響は現状では外部に出てこない。国は「ダムに閉じ込めておくのが最善」という。
しかし、ダムは放射性物質を閉じ込めておく装置ではない。ダムが決壊する場合、水が干上がる場合など危険である。強い地震に伴う土砂崩れやダム崩壊は、(他地域で)現実に起こっており、そのリスクは無視できない。
ダムが水不足で干上がった場合は周囲に人が近づかないようにすればいい。もし除染するとなったら作業期間中の代替の水源の確保はどうするのか。現状では除染する方が影響が大きい
これが国の言い分だ。しかし、そこに住み、農業を行う人にとっては、国の言い方は我慢ならない。
いくら水が安全だと言われても、ダム底にセシウムがたまったままで消費者が浪江産の農産物を手に取るだろうか(毎日新聞9/25)
フクイチの事故による未解決の問題がここにもある。それは先が見通せない難題であって、われわれは子孫にこの大きな負債を押しつけることしか出来ないのである。


トップページの写真を、オオチョウバエから甲虫目ハムシ科ハッカハムシに替えた。

9/26-2016
<福島第1>地下水位上昇 対応苦慮(河北新報)

東京電力福島第1原発の汚染水対策で、岸壁に面したエリアの地下水位が想定を超えて上昇し、東電が対応に苦慮している。地下水の流れ込みを防ぐ凍土遮水壁の効果がいまだに表れない上、雨水の浸透を抑える舗装工事も進まず、8月以降の降雨の影響でポンプによるくみ上げが追いつかない状況に陥った。台風シーズンに入っており、東電はポンプ増設などの対策を検討する。

岸壁に面したエリアは海抜4メートルの「4メートル盤」と呼ばれ、エリア内の井戸の地下水位は20日夜、台風16号接近による降雨で地表面まで上昇。21日朝には地表面を5センチ上回った。東電はバキュームカーでくみ上げを行ったが、23日午前まで断続的に水位が地表面を超える状況が続いた。

第1原発では、台風接近が相次いだ8月15日〜9月19日、500ミリを超す積算雨量を観測。19〜23日は計134ミリの降雨があり、水位上昇に備えて仮設のポンプ2台も稼働させていた。

同原発では昨年秋、鋼鉄製のくいで汚染水の海洋流出を防ぐ海側遮水壁が完成。行き場を失った地下水が地表にあふれ出ないよう、東電は「地下水ドレン」と呼ばれる五つの井戸からくみ上げている。

今年3月に稼働した凍土遮水壁が効果を発揮すれば、1日300トン前後のくみ上げ量が70トンに減るとみているが、明確な変化は今のところ出ていない。
4メートル盤に雨がしみこまないよう進めている舗装や屋根の設置などの対策も、建屋周囲などに工事ができていない場所があるという。

地下水位を観測している井戸には鋼鉄製のふちがついており、直接の地下水流出は確認されていない。港湾内の海水の放射性物質濃度が上昇したが、東電は「排水路からの雨水流入の影響が大きい」と説明している。(図も 河北新報9/25)

海側遮水壁は海底まで鉄板を打ちこんだものだが、この工事の開始は2012年4月であった。完成すれば地下水が遮断されるのであふれてくるので、サブドレンその他の井戸から地下水を汲み上げることと連動する必要がある。濾過した上で海へ放出するという東電の計画が遅れて明らかになり、漁業者は硬化した。結局、海側遮水壁の完成は2015年10月26日だった。トリチウムを含んだ地下水を海へ放出する東電の計画に対して漁業者は強い不信感を持っており、東電の放出計画は実現しておらず、貯水タンクが増えるばかりである。(本欄 2015年11月23日を参照)

海側凍土壁の凍結は今年3月から開始しているが、いまだ、明確な効果が現れていない。山側の凍土壁の全面的稼働は、原子力規制委員会がいまだ承認していない。専門家の間から「凍土壁は破綻している」という意見が出ているほどだ。

そういう汚染地下水の処理状況にあるフクイチを豪雨が襲い、地下水位が地表を上まわる高さまで上昇した。汚染地下水はいずれかのすき間から港湾へ流出しているであろう。地上の汚染を洗い流す雨水は「排水路」によって港湾へ流出した。

9月21日に「1号機取水口」のセシウム137の濃度は1リットル当たり95ベクレルであったが、東電がこの数値は何でもないかのように矮小化して発表しようとしたことが問題となった(本欄9月21日)。95Bq/Lという数値がどれほどのものであるか、上の本欄2015年11月23日に示してある図中のグラフを見れば分かる。せっかく落ち着いてきたセシウムの数値が、この豪雨によって一気に15年の8〜9月段階に戻ったのである。
東電の或る広報担当者は95ベクレルに色めき立つ報道陣に「(高濃度の汚染水が漏えいした)事故直後はもっと高かった」と述べたそうである(福島民友9/24)。信じがたい無神経な発言である。

たしかに、2011年4月初めには、岸壁から「1シーベルト毎時」を超すという超々高濃度汚染水がどんどん流れ出していたのだから(本欄2011年4月3日)、港湾内の線量は「事故直後はもっと高かった」というのは本当である。下で示したレポートによると、311事故直後数ヶ月は港湾外の「沿岸部で1万Bq/L超え」であった。
それを1年前から、港湾内で何とか100Bq/L以下に押さえ込めるようになっていたのである。(なお、事故直後の港湾内の線量のデータは見つけられないが、2011年3〜4月は「原発周辺の沿岸域で1万Bq/L超え」という水産総合研究センターのレポートはある。これの4-2です)


9/27-2016
原告264人に 28日、運転差し止め提訴 伊方原発 (大分合同新聞)

 大分県内の住民有志が提訴に向けて準備を進めている四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)の運転差し止め訴訟の原告は、264人になることが25日、住民側弁護団への取材で分かった。28日、大分地裁に訴状を提出する。伊方3号機は8月に再稼働したが、先行して審理が始まった仮処分申請など司法判断次第で運転が停止する可能性がある。住民側は「一日も早く止めたい」としている。

25日は弁護団のメンバーが原告数を取りまとめた。訴訟に向けて7月に発足した市民団体「伊方原発をとめる大分裁判の会」は当初、「原告100人以上」を目標に掲げて原告を募ったが、1カ月で突破。その後も増え続けた。弁護団は「県民の関心の高さを感じる」としており、同会は今後も一定数の原告が集まった段階で追加提訴する方針だ。

伊方原発を巡っては、大分、松山、広島の3地裁に3号機差し止めを求める仮処分が既に申し立てられており、松山と広島では訴訟も続いている。

いずれも四国電が最大650ガルとした基準地震動(耐震設計の目安となる地震の揺れ)の評価などが主な争点となっている。住民側は原発近くの海域に国内最大級の活断層「中央構造線断層帯」が走っていることなどを踏まえ、650ガルは過小だと主張。「大地震で重大事故に至り、放射能被害が及ぶ危険がある」などとしている。四国電側は「安全性は十分確保されている」と全面的に争っている。(大分合同新聞9/26)

伊方原発は佐田岬半島の付け根部分にあり、半島の先端まで約30キロ。30キロ圏内に愛媛・山口両県の12万人以上が暮らす(朝日新聞8/12)。北側の伊予灘には、国内最大級の活断層「中央構造線断層帯」がある。
大分県は伊方原発と豊後水道をはさんで向き合っている。直線距離で45キロほどである。伊方原発の避難計画の中には、佐多岬半島の先端側に住んでいる住民を船で大分県へ避難させるという計画もふくまれている。地震や津波の災害時にそれが可能かどうか、危ぶまれているが。

それゆえ大分県民が伊方原発の危険性について強い関心を持っているのは当然だし、多数の原告が出ていることはとても重たい事実だ。
訴状は明日(9/28)提出される。


9/28-2016
<福島第1>排気筒にドローンから線量計落下(河北新報)

東京電力は27日、小型無人機「ドローン」を使った福島第1原発1、2号機共通の排気筒の放射線量調査で、ドローンでつり上げていたワイヤがすり切れ、線量計が排気筒の内部に落下したと発表した。排気筒上部の手すりにワイヤが接触したのが原因という。

調査は支柱に亀裂が見つかっている排気筒(高さ120メートル)の解体工法を検討するのが目的。地上からワイヤでつながった線量計をドローンでつり上げて排気口に投入し、10メートル間隔で内部線量を測る計画だった。

トラブルは計測が完了し、上空のドローンを支点にワイヤを巻き上げる途中で起きた。線量計には計測記録が残っているが、排気筒の下部は放射線量が極めて高く、回収は断念した
ワイヤはステンレス製で直径0.6ミリ、線量計の重量は110グラムだった。調査は24日に始め、排気筒周囲の計測を終えた後、27日に内部の調査に着手した。東電は再発防止策を取った後、調査を再開する。(図は9/20のもの、河北新報9/28)

本欄 9月20日 で予告されていた排気筒調査の最終段階でトラブルが生じた。排気筒内部の線量調査は、ワイヤのついた線量計を排気筒内部へ投下して行われ、ワイヤを引き上げる途中でワイヤが切断した。線量計は排気筒底部へ落下したと考えられる。

線量計の回収は不可能で、東電は改めて再度調査を行う方針。


9/29-2016
損傷鉄構一度も点検せず 第一原発5・6号機(福島民報)


東京電力福島第一原発構内で5・6号機の送電線を支える引留鉄構(ひきとめてっこう)の一部が損傷していた問題で、原子力規制庁は27日、東電が5号機の運転を開始した昭和53年(1978)8月以降、一度も点検しておらず、保安規定で義務付けられている保全計画も策定していなかったと発表した。福島第二原発構内にある全12カ所の引留鉄構も保全計画がなかった。東電はこれまで公表しておらず、情報公開の在り方に改めて疑問の声が出ている。

保全計画も未策定第一・第二
5・6号機の引留鉄構は東電が今年8月に引き込みケーブルを工事した際、一部にひび割れや変形などの損傷が約50カ所見つかった。東日本大震災の地震が原因となった可能性もあるとみている。

規制庁が同月25日から開始した保安検査期間中に東電から報告を受けて事実確認をしたところ、東電が過去に点検した記録がなかった。引留鉄構は重要設備であるため原子炉等規制法の改正で平成21年(2009)から保全計画の策定が義務付けられているが、実行されていなかった。

また、規制庁は福島第二原発の12ある引留鉄構についても保守管理状況を調べた。22年に塗装がされた実績はあったが、保全計画は策定されていなかった。規制庁は保安規定違反の疑いもあるとみて調べている。12カ所に異常は見られないという。
東電はその後に引留鉄構の健全性評価を行い、強度不足が確認された部分については溶接などによる補強を進めており、10月中に完了させる方針。

5・6号機では現在、送電線から外部の電気を取り込み、使用済み核燃料プールの冷却などを行っている。規制庁は「何かあれば鉄構が倒壊し、外部電源を喪失する可能性もあった」と事態を深刻視。保全計画の必要な設備は第一原発だけでも数万カ所に上るとみられ、規制庁は「他にも計画未策定の設備がないか、東電に確認させる」としている。
チェックする立場の規制庁が保全計画の未策定を把握できていなかった理由について、規制庁は「保全計画の対象設備は膨大で、より重要な設備を優先して確認していた」と説明している
【引留鉄構】 電気を送電系統に送り込むための設備(開閉所)に送電線を引き込むための構造物。福島第一原発5・6号機は開閉所の屋上に設置され、送電線や鉄塔などを支えている。1〜4号機は鉄塔に送電線を支える機能があり、開閉所に直接送電線を引き込む構造のため、引留鉄構は設置されていない。福島第二原発には2系統の送電線があり、それぞれ福島第一5・6号機と同様の引留鉄構が設置されている。
(2図とも 福島民報9/28 下図の北は左)

わたしは「引留鉄構」という熟語を初めて知った。発電所にとっては重要施設の1つであるが、「保全計画」が未作成のまま38年間も経過していた。今度、損傷状態にあることが分かり、東電が修理した。その写真などが入っている報告書、 引留鉄構の損傷 PDF (興味深いです)。

こういう重要な設備について東電が保全計画を作らず、何十年間も放置していたということは驚きだが、それをチェックする立場の規制庁の言い分が恐ろしい。
保全計画の対象設備は膨大で、より重要な設備を優先して確認していた。
「引留鉄構」はそれほど重要な設備ではない、数十年放置しておいてかまわない、と言っているかのようだ。保全計画が策定してあるかどうかは書類チェックで済むことだから、規制庁がサボっていたとしか考えられない。

311大地震・津波でフクイチが破滅的大事故を引き起こした。その原因が何であったか、強い権限を持つ第三者の調査委員会が永続的に調査を続ける必要がある。それは日本国民に対してだけでなく、全世界に対する義務である。上の記事にあったように「引留鉄構」の損傷個所には「東日本大震災の地震が原因となった可能性もある」とすれば、殊にそう思う。

311大地震・津波の際、5、6号機は原子炉に燃料が入っている状態であった。外部電源が断たれたのは1〜4号機と同じで、5、6号機では津波の被害をかろうじて免れた1台のディーゼル発電機で原子炉と貯蔵プールを冷却することができた。危ういところだったのだ。
(右図はフクイチ敷地全体を示しており、赤四角マークの上から6,5号機、少し離れて1,2,3,4号機です。北は上。)


9/30-2016
復水器の汚染水抜き取り、年度内開始へ 福島第1原発1〜3号機(福島民友)

東京電力は28日、原子力規制委員会の廃炉作業に関する会合で、福島第1原発1〜3号機タービン建屋内の復水器に残っている計約2000トンの高濃度汚染水の抜き取りを、年度内に始める方針を示した。タービンを回した蒸気を冷やして水に戻す復水器内には1〜4号機建屋全体の汚染水に含まれる放射性物質の約8割が集中しており、早期抜き取りにより今後、津波などで放射性物質が流出する危険性を低減する考えだ。

東電によると、第1原発1〜4号機の建屋地下などにたまっている汚染水は計約6万8000トン。東電は8月に開かれた規制委の前回会合で、溶融した核燃料の冷却のため注水が続く1〜3号機原子炉建屋の計約6000トンを除いて2020(平成32)年に処理を終える計画を示していた。

計画実現に向け規制委との協議で、事故直後に移送された極めて高濃度の汚染水が復水器内に手つかずで残されていることが判明。汚染水総量のわずかな部分を処理すればリスクが大幅に低くなるため、規制委の更田(ふけた)豊志委員長代理が処理の加速化を求めていた。

東電の計画では、1号機の復水器からの高濃度汚染水の抜き取りを16年度内に始め、2、3号機でも順次実施する予定。復水器からの汚染水の早期抜き取りに加え、建屋全体の汚染水の総量を減らすため、建屋周辺の井戸から地下水をくみ上げる「サブドレン」の能力を高めることや、放射性物質の濃度を下げるためのセシウム吸着装置の増設などの追加対策も併せて実施する。(図も 福島民友9/29)

建屋地下に溜まっている汚染水は合計で6万8000トンという膨大なもの(千トン入りタンク68個分)。このうち、溶融核燃料を冷却するため絶えず注いでいる水のため6千トンは無くせない。残りの6万2000トンのうち、きわめて高濃度の2000トンが復水器の所に存在している。

復水器の所の2000トンは、311事故当初にタンクが出来ておらず、やむを得ず高濃度汚染水をここに溜めておいたもの。他の汚染水より約1000倍高濃度のため、建屋地下の汚染水全体の放射能の8割がここに集中している。まず、これを抜き出して処理すべきだということになった。これらは汚染水流出のリスクを下げるために必要な手順である。

冷却のために注ぎ続けている水、山側から流れてくる地下水、不定期に襲う豪雨など、フクイチの水処理は難問がまだまだいくつも横たわっている。


トップページの写真を、ハッカハムシから扁形動物門ウズムシ目コウガイビル科クロイロコウガイビルに替えた。



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