き坊の近況 (2017年1月)


旧 「き坊の近況」

【2017年】: 01 月

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ブラウザで読むのに目に入りやすいことを考えて、文字の色分けをしています。
1. 新聞などからの引用は黒字
2. わたしのコメントなど注釈的なものは茶色
3. コメント内の引用などは水色
4. トップページに使っている生物写真に関連したものは緑色
これを原則にしていますが、使い分けできていない場合もあります。

日々の見聞や関心事を示して、自分の心的近況を表そうとしている。とくに準備なしで書けるような、「朝刊を開いてひとこと」というようなことを試みている。さらに、生活上の随想なども書く。

311大震災後は、原発事故および震災に関連したニュースを取り上げている。

1/3-2017
「廃炉」...未踏の世界へ 福島第1原発、デブリ取り出し方法検討(福島民友)

東京電力は今年、福島第1原発1~3号機の原子炉内に調査用ロボットを投入する。事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)の状態や位置などを調べる狙いで、初めてデブリが撮影される可能性がある。政府や東電は6月までに、内部調査で得られた情報などを基に、最難関となるデブリの取り出し方針を決める。廃炉作業は、未踏の世界へ深く分け入る局面にある。

号機ごとのデブリの取り出し方針を決めるためには、原子炉内の情報をできるだけ多く集めて詳しく分析する必要があり、ロボット調査の成否が鍵を握る。

2号機は今月中にも、サソリ型のロボットが投入される見込み。ロボットを圧力容器の下部まで遠隔操作で走らせ、燃料デブリの落下状況などを調べる。1号機は3月まで、3号機は6月までにロボット調査が実施される予定だ。

また3号機では、物質を通り抜ける性質を持った宇宙線の一種「ミュー粒子」を使って原子炉内を透視し、デブリの状況を調べることが検討されている。

デブリ取り出しを巡っては、原子炉上部まで水を張る冠水工法、デブリがある原子炉底部だけに水を張る気中工法などを、デブリのある場所に応じて組み合わせることが検討されている。取り出し方針の決定で、戦略の立案や技術開発が加速するとみられる。

ただ廃炉作業の進み具合は順調とは言い難い。3号機使用済み核燃料プールからの燃料取り出しは、原子炉建屋上部の放射線量が下がらないため、目標としていた2017年度中の取り出し開始が遅れる見通し。2号機は早ければ昨秋開始予定だった原子炉建屋上部の解体が始まっていない。

汚染水対策では、建屋地下への地下水流入を抑制するため、井戸から汚染地下水をくみ上げ、浄化後に港湾内に放出する「サブドレン計画」の一日も早い機能強化などが求められている。1~4号機建屋周囲の地盤を凍らせる「凍土遮水壁」は、いまだ明確な効果が示されていない。(福島民友1/2)

すでに本欄では、12月25日に1~3号機のデブリ取り出しにむけての予定を扱っている。いずれも、ロボットを投入する高線量下の探索で、困難が予想されている。水中での作業となる可能性が大きい。

まず初めに、デブリがどこに存在しているのかを見つけることが課題である。ついで、どういう状態・形状で存在しているのかを把握し、取り出し方法を考究することになる。しかし、デブリは何カ所かに分散し、構造物を溶かし込みながら流れ落ちていると考えられるので、探索自体が困難な工程であり、重要なのである。

高線量であることはもちろんであるが、原子番号の大きい重金属のデブリはきわめて堅く、取り出し方法を新たに研究・開発する必要があるだろうとされている。

◇+◇

今年もそろそろスタートいたします。
自分のこのサイトは、なによりも自分の知的満足のために書いています。
この国の大状況は、無意識のうちに、自分の心的状況の底辺を造っていると考えています。

読者が居て下さることは、とても励みになります。
本年もどうぞよろしく。




1/4-2017
第一原発タービン建屋 汚泥処理課題に 汚染水かき混ぜ回収検討(福島民報)

東京電力福島第一原発1~3号機のタービン建屋で高濃度汚染水の底にある汚泥の処理が新たな課題となっている。東電は汚泥を直接吸い出すのは難しいとして、汚染水をかき混ぜて汚泥を回収する手法を検討しているが、効果や安全性は不透明だ。

1号機のタービン建屋には深さ80センチほどの汚染水が残っており、放射性物質を含む2センチほどの汚泥が沈殿している。東電は来年3月までに、ポンプを使って約5300トンの汚染水を抜き取るとしている。2、3号機のタービン建屋内の汚泥の量は判明していないが、汚染水は平成32年度内に移送を完了させるとしている。

東電は汚染水を抜き取る際、「攪拌(かくはん)機」と呼ばれる特殊な機材で汚染水をかき混ぜ、汚泥を浮かせてこし取る方針だが、汚泥をどの程度除去できるかは見通せていない。さらに、汚泥と混じり合った汚染水が外部に流出する危険性があり、原子力規制委員会は26日の会合で「攪拌を始める時期を検討すべき」と東電に注文した。

汚泥が取り除けずに乾燥した場合、作業員の被ばく線量が高まる上、解体の際に放射性物質が外部に流出する可能性がある。東電は「安全性や効果を十分に検討したい」としている。(福島民報12/31)

1号機タービン建屋では、約80cmの汚染水の底に、2cmほどの汚泥が沈殿している。全量が約5300トン。汚泥は高濃度の放射性物質を含む可能性があり、汚染水がそれにフタをした状態になっている(水は放射線のよい吸収材)。
汚染水を吸い上げて処理へ回すのだが、不用意に吸い上げを行うと、(1)「フタ」が取れた状態になる、(2)底に残る汚泥が乾燥すると飛散してさらにやっかいなことになる。

東電はかき混ぜて、汚泥を水中で舞い上がらせて汚染水とともに吸い上げて、処理へ回すことを考えている、という。水中に配管など構造物などがあるだろうから、舞い上がらせるのもそれほど簡単ではないだろう。

1号機タービン建屋で成功すれば2,3号機でも同じ手法が使えるのだろうが、2,3号機では、まだ汚泥量などは判明していない。

事故を起こした原子力施設の廃炉工程では、思いがけないやっかいなことが起こるということ。


1/5-2017
もんじゅ後継、議事録なし 官民会議、検証できず(中日新聞)

経済産業省と文部科学省、電気事業連合会の幹部らが、2006年から14年にかけて高速増殖炉の実用化に向けて話し合った「五者協議会」の議事録が作成されていないことが分かった。協議会は開発体制や費用の分担のあり方などを原子力委員会に報告し、実証炉開発で重要な役割を担ってきた。会合は非公開。議事録もないことで、核燃料サイクル政策の意思決定過程の一部が、検証不可能な「ブラックボックス」になった形だ。

協議会は、日本原子力研究開発機構が高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」と並行し、後継となる実証炉の研究を実用化につなげるため、06年7月に設置された。経産、文科両省と電事連、日本電機工業会、原子力機構の幹部が出席し、事務局は資源エネルギー庁原子力政策課が務めた

エネ庁によると、14年までに8回の会合が開かれ、高速増殖炉のほか、サイクルに必要な新しい再処理工場のあり方なども話し合われた。議事録を作成しなかったことは、本紙の経産省への情報公開請求で判明。エネ庁の担当者は「(法定の)審議会とは違い、半分私的な研究会のような位置付け。なぜ議事録が作られなかったのかは分からない」と話す

当初から原子力機構の副理事長として出席した岡崎俊雄氏は「新型転換炉ふげんは原型炉で成功したのに、電力会社の反対で実証炉へ進めなかった。協議会はその教訓から、着実に実用化につなげるためにできた」と説明。非公開の理由は「率直に議論する場。実効性ある議論を第一に考えた」と話す。

協議会は06年12月には、実証炉の設計開発を中核企業1社に集中させることを決め、原子力委員会が了承。翌年には1カ月間の公募の結果、原子力機構幹部や学識者による選定委員会で三菱重工業が中核企業に選ばれた。だが、原子力機構は入札した企業名や数などを明らかにせず、選考過程には不透明さも残る

政府は昨年12月、ほとんど動かせなかった原型炉もんじゅの再稼働を諦めて廃炉としつつ、一段階先の実証炉の開発を再開させることを決めた。政府方針の検討会議には三菱重工社長も出席し「中核メーカーとして取り組んでいきたい」と発言。五者協議会など従来の枠組みがある程度踏襲されるとみられる。

NPO法人原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「たとえ公的な位置付けでなくとも議事録を残していくことで、後々の判断材料になる。今後の実証炉開発で五者協議会がどんな役割を果たすのかは不明だが、公開のもとに進めるべきだ」と指摘する。
<実証炉開発> 高速増殖炉は使う以上の燃料を生み出す「夢の原子炉」と呼ばれ、国は基礎研究の実験炉(常陽)、発電技術を確認する原型炉(もんじゅ)、経済性を検証する実証炉の段階を踏んで実用化を目指してきた。実証炉は、もんじゅの建設が始まった1980年代に電力業界中心の開発が動きだしたが、95年のもんじゅナトリウム漏れ事故をきっかけに白紙化。99年に当時の核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)を中心とした研究が再び始まったものの、2011年の東京電力福島第一原発事故で凍結されていた。
(中日新聞1/4)

この「五者協議会」なるもの(経産省、文科省、電事連、日本電機工業会、原子力機構)は、もんじゅ後継の実証炉をつくることを頭から決めてかかっている。「私的な研究会のようなもので、議事録はつくらない」というのは、この連中が核燃料サイクルを私物化していることの何よりの証だ。
この連中は、何兆~何十兆円という税金をつぎこむ金食い虫を、自分らの好きなように手元に置いておきたいという、欲望でこりかたまっている。

もんじゅの失敗を国民にわび、次にどのように進むのがよいか国民に相談を投げかけるのがまっとうなやり方である。しかし、五者協議会は議事録も作らないような会合で実証炉へ進むことを決め込んで、三菱重工が中心となることまで決定している。このような、やりたい放題がまかり通っていいのか。

もんじゅ廃炉を決定したことをきっかけに、今こそ、核燃料サイクルを止めるための議論を進めるべきである。


1/6-2017
福島第1原発事故 汚染土議事録 環境省、発言削除し開示 再利用誘導、隠蔽か(毎日新聞)

東京電力福島第1原発事故の除染で出た汚染土の再利用を巡る非公開会合の議事録を環境省が「全部開示」としながら、実際には自らの発言の一部を削除していたことが分かった。削除したのは環境省が議論を誘導したと受け取れる発言。その発言から放射性セシウム1キロ当たり8000ベクレルを上限値とした汚染土再利用の方針決定につながっていた。情報公開の専門家は「意思形成過程の隠蔽(いんぺい)で極めて悪質」と批判している。

この会合は「放射線影響安全性評価検討ワーキンググループ」。放射線の専門家や環境省、事務局の日本原子力研究開発機構(JAEA)の職員ら約20人が出席し、昨年1~5月に計6回開かれた。当初は会合の存在自体が非公表だったが、情報公開請求が相次ぐなどしたため、環境省は8月に議事録などをホームページで公表。事務取り扱い上は「全部開示」とされた。

公表分には議事録になる前の「議事録案」も含まれているが、毎日新聞はそれ以前の「素案」を入手した。議事録なと比べると、発言の削除や変更などが複数あった。素案では2月24日の第4回会合で環境省職員が「8000ベクレルの評価で災害時など年間1ミリシーベルトを少し超えるケースが出ているが、これが1ミリシーベルトに収まるとよいのだが」と発言。しかし、公表された議事録からは削除されていた。

8000ベクレルを超えると特別な処理が必要な「指定廃棄物」となるが、一連の会合では同ベクレルを上限とする汚染土の再利用を協議。この日の会合で、8000ベクレルの汚染土を使った防潮堤が災害で崩れた際の復旧作業では、一般人の年間被ばく線量上限の1ミリシーベルトを超えるとの試算値がJAEAから示された。このままでは再利用の上限値を同ベクレルから下げる可能性もあったが、環境省職員の発言を呼び水に、専門家らが「崩れれば他の土と混ざり合って希釈される(薄まる)」などと試算のやり直しを求めた

その後、希釈で年間1ミリシーベルト未満に収まるとの試算結果が公に示され、環境省は6月、8000ベクレルを上限に汚染土を再利用する方針を正式決定した。(毎日新聞1/5)

従来からあった「原子炉等規制法」では、100Bq/kg以下の廃棄物の再利用を認めていた。したがって、原発などでは100Bq/kgを超える廃棄物はドラム缶に入れて保管している。ところが311フクイチ事故で膨大な量の汚染土(東京ドーム18個分)が発生し、環境省は特別な処理が必要な指定廃棄物は8000Bq/kg超とする「放射性物質汚染対処特別措置法」を成立させた(2011年8月30日法律第110号)。

上引の毎日新聞によると、この新しい法律に8000Bq/kgという数字を盛り込むために、「放射線影響安全性評価検討ワーキンググループ」という会合を環境省に組織し、たくみに議論を誘導しつつ法律成立までこぎつけた。その痕跡を消した議事録を開示し、それを「全部開示」であるとしていた。非常に悪質で陰険な情報隠しである。

非公開会合6回目(昨年5月17日)の冒頭で問題発言があったという。
冒頭、環境省の担当者が議事録について「チェックのうえ修正、差し替え」などの考えを述べ、一部の配布資料については「席上配布資料」として回収し、「会議次第」から削除する方針も示したという。 (毎日新聞1/5)
毎日新聞が議事録の情報公開請求した(同6月13日)あとで、環境省は開示期限の延期を通知し(同7月8日)、会合出席委員たちにメールで「追加での修正がございましたらご指摘いただければ幸いです」と通知していた。

これらの環境省による誘導や事後修正などは議事録から削除されて「全部開示」された(同8月1日)。つまり、黒塗りはないということ。開示期限延期は、議事録を修正・削除するためだったとしか思えない。再言しておく、非常に悪質で陰険な情報隠しである。

毎日新聞1/5の記事は大きい二本からなっている。本欄では、かいつまんで示している。必要なら元記事を読んでください。
一面トップ「環境省、発言削除し開示 再利用誘導隠蔽か
社会面「「差し障るなら修正」職員、会合で隠蔽発言


1/7-2017
<全町避難>浪江3月帰還「準備整った」(河北新報)


東京電力福島第1原発事故で全町避難する福島県浪江町の有識者委員会は5日、今年3月を目標とする(帰還困難区域を除く地区の)帰還開始に向け「生活を始める準備はおおむね整った」と総括した新たな報告書を町に提出した。町は今月26日からの住民懇談会で、報告書を基に町の現状を説明する。

昨年3月の報告書では(1)除染(2)インフラ復旧(3)生活環境整備(4)放射線対策-の4分類の計16項目で帰還への課題を整理。町は町民を交えた会合で、各項目の進展状況などを確認し、新たな報告書に反映させた。

具体的には「宅地除染の進捗(しんちょく)率が約9割」「診療所が3月開所見込み」などと記載し、今年3月には最低限の生活環境が整うと評価した。今後の課題には「町民に分かりやすい放射能関連の説明」「商店街の復活」などを挙げた。

馬場有町長は5日の会合後、「報告書の内容を軸に、住民懇談会で町の考え方を説明したい」と語った。町は26日~2月10日、町内を皮切りに仙台市、東京、大阪など県内外10カ所で懇談会を開催。避難指示解除などを巡る意見を聞く。(河北新報1/6)

上の浪江町地図は、「浪江まちの現況」(2016年12月28日現在)から。東日本大震災当時の浪江町人口は、約21,400人だった。そのうちの約4割が図のA区域に住んでいた。そこを町の「復興拠点」とするという町の構想。ただし、A区域は津波の被害もあった。


<全町避難>大熊町 秋にも一部解除(河北新報)

東京電力福島第1原発事故で全町避難する福島県大熊町が、帰還困難区域を除く地区について、今年秋の避難指示解除を目指していることが6日、分かった。対象住民は全町民の約4%で、町は今後、政府と協議する方針。解除が決まれば、第1原発の立地自治体(大熊、双葉両町)としては初めて。

対象地区は居住制限区域の大川原地区と避難指示解除準備区域の中屋敷地区。昨年12月末現在、大川原に132世帯362人、中屋敷に11世帯22人が住民票を置く。町民の約96%は2地区以外の帰還困難区域に住居がある。

町は大川原地区を復興拠点と位置付ける。2018年度中に町役場新庁舎を建設するほか、商業や町民交流、医療・福祉の各施設、災害公営住宅を整備する方針。昨年7月に東電の単身寮が完成し、700人弱の社員が入居している。

2地区では昨年8月、夜間の自宅滞在を認める「特例宿泊」を初めて実施。今春、3度目の特例宿泊が行われる予定。町は今夏には長期滞在できる「準備宿泊」を始める方向で検討している。

渡辺利綱町長は「大川原地区には既に多くの東電社員が暮らし、町からも早く住みたいという声が高まっている。政府と協議しながら避難指示の解除時期を決めたい」と話す。(図も 河北新報1/7)

大熊町のサイトにある「大熊町管内図」という大きい地図をぜひ見てほしい。「中間貯蔵施設建設候補地」という広い地域や、「熊川地区仮置場」などが確認できる。国道6号(2014年9月15日に一般車両通行可能となった)がどこを走るのか、よく分かる。

帰還困難区域には「町民の約96%が居住していた」という。
町の主要機能を含む町土の大部分が帰還困難区域に指定され、当該区域については本格除染の計画がない状況にあるなど、復興に向けた多くの課題に対して明確な時間軸の設定が出来ない状況にあり、全町民の避難から5年以上が経過した現在においても、具体的な復興への取り組みが出来ておりません。(大熊町復興サイト)
大変な状況であることが、伝わってくる。



<全町避難>双葉町 23年度に居住可能目指す(河北新報)

東京電力福島第1原発事故で全町避難が続く福島県双葉町は20日、今後5~10年の指針となる第2次復興計画を決定した。2023年度ごろに低線量区域で居住可能となることを目標に、環境整備を進め、26年度ごろに2000~3000人の居住を目指す。双葉町が住民の帰町に向けた目標年次を示すのは初めて。
第1原発が立地する双葉町は帰還困難区域が96%を占め、津波被災地にある4%が避難指示解除準備区域に指定されている。(以下略)(河北新報12/21)

双葉町は最も困難な状況にあると言ってよい。上引にある「今後5~10年の指針」を示していると考えられる図は「帰還環境整備の進め方イメージ」。

「双葉町 復興まちづくり計画(第二次)」(ここ)にある「住民意向調査結果」


回収率48.5%で、「戻らないと決めている」が62.3%であることは、厳しい。町からの「意向調査」に回答するのは、それでもまだ町との繫がり意識がある方たちである。回答しなかった方たちの中には更に高い率で「戻らないと決めている」方たちがいるであろう。


1/8-2017
川内620ガル、大飯856ガルなのにトルコ400ガル 輸出原発 揺れ小さめ想定(東京新聞)

日仏合弁会社がトルコ北部で建設を目指しているシノップ原発を巡り、原発を襲う地震の揺れ想定は最大加速度400ガル程度と、日本側が小さめに評価していたことが7日、原発立地の調査関係者への取材で分かった。

日本の原発よりも小さく見積もられ、国内なら原発規制基準を満たさない可能性が高い。専門家は、予定地周辺の地質や地形を考えると「日本の基準に照らせば、少なくとも500ガル程度は必要だ」としている。耐震化工事などで建設コストが高くなるため、小さくしたのではないかとの見方もある。

トルコも日本と同様、有数の地震国。日本では、九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)で620ガル、関西電力大飯(おおい)原発(福井県)で856ガルを想定し、1000ガルを超える原発もある。

評価は経済産業省資源エネルギー庁の委託事業で、日本企業がからむトルコやベトナムの原発立地での調査の一環。事業費は約24億円で、日本原子力発電(東京)が請け負った。原電は、活断層調査や地震の揺れ評価を日本の調査会社などに再委託した

シノップ原発は、三菱重工業とフランスの原子力大手アレバ社との合弁会社が加圧水型原発(出力110万キロワット級)を4基建設する計画。トルコ政府との契約に成功すれば、2023年の運転開始を目指す。

日本の研究者によると、黒海沿岸にあるシノップ原発予定地の周辺には活動性が疑われる断層も多く、1968年には西側でマグニチュード(M)6程度の地震もあった。トルコの研究者の中には大地震が起きる可能性を指摘する声もあるといい、現地では反対運動が起きている。

地震の揺れ評価について原電は、2016年3月に国に提出した報告書では一切言及していない。原電は共同通信の取材に対し「経産省からの委託業務の内容は公表できない」、エネ庁は「承知していない」としている。
<シノップ原発計画>   原発メーカーの三菱重工業と、フランスの原子力大手アレバの合弁会社「アトメア」が開発した、出力110万キロワット級の加圧水型原発4基をトルコ北部のシノップに建設する計画。トルコの発電会社と三菱重工、伊藤忠商事などによる連合体で事業を行う。三菱重工によると、現在は事業化可能性の調査段階にあり、2017年中に契約に至る見通し
(東京新聞1/8)

このシノップ原発建設の話を引っ張ってきたのは、安倍晋三首相でエルドアン首相と「計画の契約」に調印した(2013年5月)。日仏の原発大手(三菱重工業、アレバ)の合弁企業「アトメア」によって建設が行われる。2・2兆円規模となる予定。

今回の地震評価も経済産業省資源エネルギー庁に発しており、官民合体した原発推進の典型である。
日本国内の耐震基準を引き下げてトルコに適用するというキタナイやり方をしようとしている。311フクイチ事故の原因究明さえ出来ていないのに原発輸出を強行する日本政府のやり方は、けして世界を納得させるものではない。加えてこのたび明らかになった「最大加速度」の評価疑惑は、トルコ国内にも議論を湧きおこすものと思う。

トルコの原発は、トルコ南部・地中海沿岸にアックユ原発をロシアが受注し2016年に着工予定(着工は未確認)。ついで、日仏合弁企業が受注するシノップ原発。この2カ所に建設計画が進行中であるが、トルコでは原発は1基も存在していない。
反対運動も盛んであることと、政情不安(クーデター、ロシアとの難しい関係)があり、これらの原発建設は簡単には進まないと思われる。

トルコでの原発建設などについては、3年前のレポートだが「トルコの原発事情 シノップに原子力発電所はいらない」(原子力資料情報室)がある。


トップページの写真を、キボシカミキリからチャタテムシ目マルチャタテ科イダテンチャタテに替えた。

1/9-2017
福島第1原発事故 規制庁、汚染土再利用の諮問認めず 環境省基準「説明不十分」(毎日新聞)

東京電力福島第1原発事故の除染で出た汚染土を再利用する環境省の方針に対し、管理方法の説明が不十分などとして原子力規制庁が疑義を呈していることが分かった。再利用に伴う被ばく線量については本来、規制庁が所管する放射線審議会に諮られるが、同審議会への諮問も認めていない。規制庁は環境省の外局で、再利用は「身内」から疑問視されている。

環境省は昨年1~5月、放射線の専門家らを集めた非公開会合で汚染土の再利用について協議した。原発解体で出る金属などの再利用基準は放射性セシウム濃度が1キロ当たり100ベクレル以下(クリアランスレベル)の一方、8000ベクレルを超えると特別な処理が必要な「指定廃棄物」になることなどを考慮し、汚染土の再利用基準を検討。6月、8000ベクレルを上限に、道路の盛り土などに使いコンクリートで覆うなどの管理をしながら再利用する方針を決めた。

関係者によると、その過程で環境省は8000ベクレルの上限値などについて、放射線審議会への諮問を規制庁に打診。規制庁の担当者は、管理の終了時期や不法投棄の防止策など具体的な管理方法の説明を求めた。その際、「管理せずに再利用するならクリアランスレベルを守るしかない」との原則を示した上で、「普通にそこら辺の家の庭に使われたりしないのか」との懸念も示したという。これに対し環境省が十分な説明をできなかったため、規制庁は審議会への諮問を認めなかった。

放射線審議会は法令に基づき設置され、放射線障害を防ぐ基準を定める際に同審議会への諮問が義務づけられている。指定廃棄物の基準を8000ベクレル超と認めたのも同審議会だった。

再利用を進める環境省除染・中間貯蔵企画調整チームの当時の担当者は「規制庁に相談したが、諮問までいかなかった」と取材に回答。原子力規制庁放射線対策・保障措置課は「どういう形で何に使うのか、管理はどうするのかという具体的な説明をしてもらえなければ、情報不足で安全かどうか判断できないと環境省には伝えた」と話している。

 ■解説  8000ベクレル上限は矛盾

汚染土の再利用を巡り、原子力規制庁が所管の放射線審議会への諮問を認めないのは、8000ベクレルを上限とする矛盾を認識しているからに他ならない。

そもそも8000ベクレルは、これを超えれば特別な処理が必要になる「指定廃棄物」の基準だ。環境省は今回、この8000ベクレルを上限に、管理しながら汚染土を再利用する方針を決めたが、これはすなわち「特別なゴミ」が、ある一線から突然「再生資源」に変わることを意味する。規制庁が環境省に「管理せずに再利用するならクリアランスレベル(100ベクレル以下)しかない」と原則論を強調したのも、こうしたことを疑問視しているからだとみられる。

にもかかわらず、法令で義務づけられた審議会への諮問を経ずに汚染土の再利用基準を決めたのは異例だ。環境省の強引な姿勢が問われている。(毎日新聞1/9)

本欄がなんども取り上げてきた問題だ。最近では1月6日に、環境省が議論を再利用許容へ導く発言をしていたのを隠蔽しようとしていたことを取り上げた。

規制庁は常識的な線を打ち出したに過ぎないが、日本のお役所の中では珍しい。
放射性汚染物の利用は100Bq/kg以下のものに限るというのが長年守られてきた原則で、それを超える場合にはドラム缶に詰めて保管している。311フクイチ事故のあと急遽できた法律で8000Bq/kgを超える場合には「指定廃棄物」とし特別な処理と管理を要求することにした。これら新旧二つの法律を認める立場に立てば(官僚にとっては当然の立場であるが)、100~8000Bq/kgの廃棄物は、利用するにしても「何らかの管理をしつつ利用をする」ということになる。

道路や堤防の盛り土に使えばアスファルトや表土で覆われるので心配ないとして、再利用を認めたいのが環境省である。しかし、当初の工事の後、数年後、数十年後に別の業者が道路を掘り返すことがあるだろう、堤防が崩れたり補修したりすることがあるだろう。日本の道路はしょっちゅう掘り返されている。セシウムの半減期30年を考えると、汚染物が無害化するのに数百年を要する。申し送りや管理がきちんとなされるとはとうてい思えない。
環境省案を認めれば、数十年経過する間に、事実上全国に「東京ドーム18個分」の汚染土をばらまくことになってしまう。


1/10-2017
ニューヨーク州、インディアンポイント原発の閉鎖を決定(Business Newsline)

ニューヨーク州がインディアンポイント原発(Indian Point Energy Center)を2021年4月で運用停止することで運用事業者と合意に至ったことが6日、The New York Timesの報道で明らかとなった。

インディアンポイント原発はマンハッタンから北に50キロ離れたハドソン川沿いに設置されている原子力発電所で、1~3号機の内、1号機の運転開始は1962年9月、2号機は1974年8月、3号機は1976年8月と、米国内にある原発としてはもっとも古い原発の一つとなっていた(1号機については既に2013年9月に運転停止)。

インディアンポイント原発1号機の営業運転許可は、運転開始から40年が経過したことから2014年に失効となり、現在は、「拡張運転期間(Period of Extended Operation)」と呼ばれる原子力規制委員会(NRC)の特例条件の元での運転期間に入っていた。

米国では、地震が起きない東部を中心に現在、約100基の商用原発が運転しているが1979年に起きたスリーマイルアイランド原発事故以降は、規制強化の影響から新規の原発着工が進まない状況となってきた。その後、2000年代以降になり地球温暖化が問題化するとCO2を排出しないクリーンなエネルギー源として、原発を見直す動きが生じたが、2011年3月11日に起きた福島第一原発事故の影響を受けて、改めて規制強化が進められたことを受けて、現在では、原発は電力業界では「金食い虫(Money Pit)」として敬遠されている。

今回、インディアンポイント原発が閉鎖されることが決まったことを受けて、米国では、運転開始から40年が経過した古い原発に関しては、順次閉鎖となる可能性が強まってきたこととなる。(Business Newsline1/8)

米国と日本の違いは、電力業界が原発を「金食い虫(Money Pit)」と見なすことが出来るかどうか、にある。金をいくら投げ込んでも吸い込んでしまう穴ぼこ、のイメージだろう。
官僚専制のわが国では、電力企業にとって政府の方針に「YES」を言い続けることが重要である。原発それ自体に合理性があるかどうか、営利性があるかどうかは問題じゃない。

311フクイチ事故の原因究明さえ出来ていないし、6年前の大地震の余震がまだ続いているというのに、国は原発の再稼働を強行してきた。40年超の老朽原発をも60年まで「拡張運転」を許す審査を次々にパスさせようとしている。動いたとは言えない「もんじゅ」(原型炉)を廃炉にすることにしたのはいいが、次の段階の高速炉(実証炉)を引き続き造る計画を手放さない。核燃料サイクルを手放さない、という。正気の沙汰とは思えない。
官僚専制のわが国は、内発的に引き返すことが出来ない。


1/11-2017
【社説】 病院長の死が問うもの 原発被災地の医療(中日新聞)

福島県広野町の高野英男・高野病院長(81)が昨年末、亡くなった。老医師の死は、避難指示解除や地域医療など、被災地が抱える問題を明るみに出した。

高野院長は昨年12月30日、火事で亡くなった。病院は福島第一原発から南に約22キロ。2011年3月の原発事故後、院長は患者は避難に耐えられないと判断し、患者やスタッフと共に病院にとどまった。おかげで震災関連死を出すことはなかった。30キロ圏内で唯一、診療活動を継続している病院となった。

院長の死は、81歳の老医師の活躍で隠されていた不都合な真実を明らかにした。そのうちの3点について書いていきたい。

常勤医ゼロの非常事態
政府は今春、富岡町、飯舘村の大部分で避難指示を解除する方針だ。浪江町も一部が近く解除される見通しである。政府は解除の要件として
    (1)年間の放射線量が20ミリシーベルト以下
    (2)インフラの整備、医療・介護などがおおむね復旧
    (3)県、市町村、住民との十分な協議
を挙げている。住民の間では特に医療環境と商業施設の充実を望む声が強い。

だが、医療の実情は、おおむね復旧とは言い難い。福島県が昨年9月に公表した医療復興計画によると、双葉郡内の八町村では原発事故前の11年3月1日現在で、6つの病院が診療活動をし、常勤医は39人いた。それが1昨年12月には、病院は高野病院だけ、常勤医は高野院長1人だけになった。

精神科が専門の院長は、救急患者の診察や検視までやっていた。院長の死で、双葉郡は常勤医がいなくなった。

国や県は「一民間病院の支援は公平性を欠く」という理由で、これまで積極的な援助をしなかったと病院関係者は話す。県内の他の病院と差をつけられないという発想だが、民間企業の東京電力には巨額の税金が投入されている。民間だから、というのは役所が得意の「できない理由」でしかない。

院長の死後、病院の存続が危うくなり、国も県も町もやっと支援を表明した。

高齢者を支える
2つ目は少子高齢化、人口減の地域での医療についてだ。

原発から30キロ圏内を中心に、原発事故後、国や自治体が住民に避難指示を出した。双葉郡の場合、ほぼ全員が避難した。患者がいなくなれば、病院の経営も成り立たず、医療も崩壊する。

すでに避難指示が解除された地域で、帰還しているのは比較的高齢の人だ。しかも「自分で軽トラックを運転できる」など自立して生活できる人が多いという。
三世代、四世代が同居していた避難前であれば、お年寄りの体の異変に家族が気づき、適切な医療ができた。今は一人暮らしか、老夫婦だけとなり、病気の発見が遅れているという話もある。

この問題は被災地に限らない。過疎地でも高齢者を支えないと、医療機関の整っている都市部へ移動する。政府は医療や社会福祉の支出削減を目指しているが、地方の医療が壊れれば、過疎を加速させる可能性がある

3つ目は、原発事故に病院は耐えられないということだ。
院長は町が出した全町避難の指示に従わなかった。その方が寝たきりの患者らにはよかった。政府は再稼働に際し、原発から5キロ以遠は屋内退避とした。教訓を生かしたように見える。

しかし本当の教訓は「とどまることは無理」である。スタッフの中には、子どもを連れて避難しなければならない人もいた。医薬品だけでなく、入院患者の食事、シーツの交換なども必要だが、継続できたのは善意や幸運が重なったことも大きかった。(原発)事故が起きれば、医療は継続できない。医療がなければ、人は住めないということである。

明日の日本の姿

原発事故からもうすぐ6年。関心が薄れ、遠い出来事のように感じている人が少なくない。

院長の死は「原発事故は終わっていない」と訴えているようだ。「被災地の現状は、明日の日本の姿」と警告している。

政府や自治体は一病院の存続問題と事態を矮小化してはならない。被災地に真摯に向き合えば、将来、日本が必要とする知恵を得ることができるはずだ。(図も 中日新聞1/11)

12月30日の火事による高野英男院長の死は、お気の毒であるし残念であった。今朝の中日新聞の社説は、地図まで付いた力こもったものであった。高野院長の死を通して、原発事故からの完璧な避難は事実上不可能であること、「日本の明日の姿」を見ることが出来ることを述べて、すぐれた論になっている。

国や県は「一民間病院の支援は公平性を欠く」という理由で、これまで積極的な援助をしなかった。民間企業の東京電力には巨額の税金が投入されているのにと、よくぞ書いてくれた。

東京新聞1/9の「原発事故当時の病院 移送の難しい患者抱え『美談なんかじゃない』」も良い記事だった。高野英男さんの在りし日の穏やかな温顔を見ることが出来ます。


1/12-2017
県民健康調査受診率 低下に歯止めかからず 「3・11」から5年10カ月(福島民報)


東日本大震災と東京電力福島第一原発事故を受け、県と福島医大が行っている県民健康調査(詳細調査)の平成27年度分(2015)の受診率(速報値)がまとまった。甲状腺検査、避難区域を中心とした住民向けの健康診査とも低下に歯止めがかからず、いずれも前年度を下回った。関係者は「震災、原発事故の健康への影響を把握するため、必ず受診してほしい」と訴えている。

詳細調査の受診率の推移は原発事故発生当時、18歳以下だった県民を対象に、市町村を持ち回りで実施している甲状腺検査(27年度の対象・16万4406人)の受診率は67・7%となり前年度を5・7ポイント下回った。健康診査は15歳以下(同2万5296人)が30・1%で5・5ポイント、16歳以上(同19万19人)が21・7%で0・5ポイントそれぞれ低下した。
一方、県民健康調査の一環で行い、震災、原発事故後のストレスや生活習慣などを調べる「こころの健康度・生活習慣調査」(同20万8433人)の回答率は21・6%で前年度を2・2ポイント下回った。妊産婦の体調の変化や避難生活への不安などを聞く「妊産婦に関する調査」(同1万4569人)の回答率は40・3%で、前年度から6・9ポイント低下した。

■健康維持へ受診呼び掛け

福島医大の神谷研二放射線医学県民健康管理センター長は「避難生活が長期化する中、心身に新たな負担が生じている可能性がある」と指摘する。対策を講じるためには全体傾向の把握と分析が不可欠だとして甲状腺検査と健康診査を受診するよう呼び掛けている。
県県民健康調査課は、検査を行う協力医療機関が市部に集中している点を受診率の低下が続いている要因に挙げる。医療機関までの交通費が負担になっているケースもあるとみている。民間病院などに検査の実施を求めているが、機器導入が必要となることなどから協力医療機関は増えていないという。
同課は県内をはじめ県外にも協力医療機関を増やす働きかけを続ける一方、調査の回答率を上げるためインターネットの活用も検討している。(福島民報1/11)

平成28年度はまだ終わっていないのだから、これが最新年度の結果である。甲状腺検査の受診率が7割をはじめて切った。受診率低下の傾向は今後さらに進むと思われる。とても深刻な状況だ。

福島県で1巡目・2巡目を合計して、発見された甲状腺がん(「疑い」を含む)は183人、そのうち手術後確定が145人という多数に上っている。さらに、一斉調査が行われていない近隣県で重症化して発見されていることが、深刻だ。
満田夏花「福島県民健康調査で甲状腺がん・疑い183人に ~福島県外では重症例も」(Rief1/9)を参照する。
「3・11甲状腺がん子ども基金」(代表:崎山比早子氏)は、2016年12月から、東日本の15の都県に対する甲状腺がんの子どもたちへの療養費給付事業を開始した。12月27日の発表によれば、第一回の給付は、福島県および近隣県・関東の子どもたち35人に対して行われた(うち福島県26人、福島県外9人)。

福島県外の症例は、自覚症状によって受診して発見が遅くなったと思われる患者が多く、腫瘍径が大きかったり、肺転移したりと、重症化しているケースが目立った。また、福島県の26人の給付対象者のうち、福島県民健康調査では見つからず、自主健診で甲状腺がんが見つかったケースが複数あった。また、長期間、手術を待ったり、何度も検査をしながら経過観察が続いたりしているケースが目立った。

同基金の崎山比早子代表は、「県外において発見が遅れ、重症化しているケースがみられた。現在、福島県の検査を縮小するという話があるが、実態をみればむしろ逆。拡大・充実させ、早期発見・早期治療に努めるべき」とコメントした。
(Rief1/9)
甲状腺手術が行われた患者は、「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」であって、「放置できるものではない」ものであったと鈴木眞一教授(福島県立医大)は述べている。県民健康調査委員会の清水一雄委員も「医大の手術は適切に選択されている」と述べた。(上引満田論文より。清水一雄氏については、本欄10月24日で取り上げたことがある)。
すなわち、「過剰診断」論に対しては、既にはっきりと否定的な結論が示されていると言ってよい。

満田論文の最後の一文こそ、重要だ。
チェルノブイリ原発事故後、甲状腺がんだけではなく、腫瘍、甲状腺疾患、白内障、内分泌系、消化器系、代謝系、免疫系、血液、造血器官、神経、呼吸器、など多くの疾病が報告されており、包括的な健診や国家事業としての保養プロジェクトがおこなわれている。しかし、日本においては、被ばくによる健康影響を把握するための体系だった健診は行われていない。(Rief1/9)
放射線によるダメージは、すべての臓器に及ぶ可能性がある。被曝による健康影響が包括的・体系的に行われるべきである。原発再稼働や核燃料サイクル維持のために何兆~何十兆円もの税金が投ぜられることに比べたら、問題にならないほどの予算で実施できることだ。
日本国家の劣化を思うし、それに対して怒らない国民の劣化もはなはだしいことを感じる。


1/13-2017
台湾立法院、脱原発法を可決 再生エネ切り替えがかぎ(朝日新聞)

台湾で2025年までの脱原発を定めた電気事業法改正案が11日、国会に当たる立法院で可決され、成立した。台湾では電力の約14%を3カ所にある原発でまかなっており、太陽光や風力などの再生エネルギーへの切り替えが進むかどうかが実現のかぎとなる。

脱原発は昨年5月に就任した蔡英文(ツァイインウェン)総統の公約で、行政院(内閣)が電気事業法の改正案を提出していた。再生エネルギー分野での電力自由化を進めて民間参入を促し、再生エネの比率を現在の4%から25年には20%に高めることを目指す。将来的には公営企業の台湾電力の発電事業と送売電事業を分社化する。

台湾では第一~第三原発が稼働しているが、東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故を受け、反原発の機運が高まった。第一原発1号機が18年12月に40年の稼働期限を迎えるのを皮切りに、稼働中の全原発が25年5月までに期限を迎える。電気事業法は「25年までに原発全てを停止する」と定め、稼働延長の道を閉ざした。

立法院の審議では、離島に保管されている放射性廃棄物の撤去問題などが焦点となったが、25年までの脱原発については大きな異論は出なかった。ただ、産業界を中心に電力供給の不安定化や電気代の高騰を懸念する声も出ている。(図も 朝日新聞1/11)

台湾は地震の多い島としてよく知られている。昨年も高雄地方で117人の死者を出した「台湾南部地震」(2016-2/6)があった。「921大地震」(1999-9/21)は2415人の死者であった。

311フクイチ事故の深刻さをよく知っている台湾で、脱原発法が可決されるのは納得がいく。脱原発と電力自由化を組み合わせて、再生エネルギーへの切り替えを図るという。台湾島の未来図も自ずと想像される、自然エネルギーと観光立国。
中国本国では多数の原発建設計画がはなばなしく打ち上げられていることを考えると、台湾の行き方がいっそう対極的に見えてくる。その未来図が成功することを期待する。


1/15-2017
大飯原発1・2号機、40年超の運転延長申請方針 関電(朝日新聞)

2019年に運転開始から40年を迎える福井県の大飯原発1、2号機について、関西電力は最長20年の運転延長を原子力規制委員会に申請する方針を固めた。年内にも正式に決める見通し。安全対策費用はかかるが、火力発電の燃料費を減らす効果が大きいとみて、申請の準備を進める。

原則40年と定められた原発の運転延長が認められた例は全国に3基(高浜1、2号機、美浜3号機)。いずれも関電の原発だ。

岩根茂樹社長は朝日新聞の取材に、大飯1、2号機の運転延長の申請についても「基本的にはしていきたい」と話した。関電経営陣は保有する原発9基を「将来的に全て稼働させたい」(八木誠前社長)としてきたが、この2基については明言してこなかった。

大飯1、2号機は1979年に運転を開始。出力は各117・5万キロワットと大型だ。1号機は2010年、2号機は11年に定期検査に入ったが、東京電力福島第一原発事故の影響で、運転を止めたままだ。

運転延長には、計1千億円超の安全対策費用がかかる見通し。だが、関電は2基を再稼働させれば、代わりに動かしている火力発電の燃料費を年1200億円分減らせると試算する。岩根氏は「経済合理性は十分ある」と話した。

福島原発の事故後、原発の運転期間は原則40年と定められた。だが、規制委の審査に合格すれば、1度に限って最長20年延ばせる。運転開始から40年経つ前に規制委に延長を申請し、合格する必要がある。大飯1号機は17年12月~18年3月、2号機は18年9月~12月が申請期間となる。

これまで運転延長が認められた関電3基には、巨額の安全対策費用がかかる。現時点で高浜1、2号機が計約3千億円、美浜3号機は2千億円超にのぼる。「これ以上の負担増は厳しい」(関電関係者)との見方も出ており、関電は今年、新たな申請に向けて必要な安全対策の内容や費用を慎重に詰める。

一方で、古い原発の運転延長に多額の費用と労力をかけても、司法判断で止められる可能性はある。関電の高浜3、4号機は大津地裁の運転差し止め仮処分決定を受けて、運転できない状態が続く。(朝日新聞1/15)

関西電力の原発は美浜(福井県御浜町)・高浜(福井県高浜町)・大飯(福井県おおい町)の3箇所にある。全部で合計9基あり、現在いずれも止まっている。

美浜には3基あったが1,2号機は2015年に運転終了、残っているのは3号機で現在定期検査中。
高浜には4基あり、1,2号機は規制委が20年運転延長を認可した(16-6/20)が、現在定期検査中。3,4号機は大津地裁が運転停止を命じた(16-3/9)。
大飯には4基あり、いずれも定期検査中。

このうち、大飯の1,2号機が運転開始40年目が近づくために、関西電力は20年間延長を申請する方針を固めたというのである。

関西地方では福井県に原発が集中しており、長い海岸線を持つ和歌山県に原発がまったく存在しないことが目立つ。関西電力は当然のことのように和歌山県にも目を付け、執拗で陰険な工作を行っていた。それに反対する人々の粘り強い運動があり、ついに撃退したのである。
若い世代のひとは知らないかもしれない。世界文化遺産を擁する豊かな自然に恵まれた紀伊半島でも原発建設を巡って三十年近くも大きく揺れ動いてきたことを。和歌山県内のいくつもの町が原発建設予定地として関西電力のターゲットとなり、しかしそれを拒否してきた人々がいたということを。(汐見文隆ら『原発を拒み続けた和歌山の記録』壽郎社2012 p3)
もし、和歌山県各地で展開されたこの原発建設反対運動がひとつでも敗れていたら、熊野古道をまわる歴史的遺産の旅も、原発から原発を巡る旅になっていたかも知れない。同書巻末の年表によると、最初に日高町に「原子力誘致反対同志会」が結成されたのが昭和42年(1967)で、日置川原発、日高原発の電源開発重要地点の「指定解除」は平成17年(2005)である。よく戦った先人たちに、感謝と敬意をささげる。


1/16-2017
玄海原発、18日合格へ 規制委審査(佐賀新聞)

原子力規制委員会は13日、九州電力玄海原発3、4号機(東松浦郡玄海町)が再稼働の前提となる新規制基準に適合していると認めた「審査書」を、18日の定例会合で議論することを決めた。委員の了承が得られれば、審査書は正式決定され、合格となる見通し。

合格となるのは、原子炉の構造や設備、事業者の技術的能力が新規制基準を満たしているかをみる「設置変更許可」の審査。その後も各施設の詳細設計に関する「工事計画」や運用管理体制を定めた「保安規定」の審査、認可手続きが残っている。

加えて、地元同意を得る必要もある。佐賀県の山口祥義知事は再稼働を容認する姿勢を示す一方、県内各界の代表からなる委員会を立ち上げるなど判断までには広く意見を聴くとしている。

再稼働時期について、九電の瓜生道明社長は当初、3月末までを目指していたが断念し、現在は目標時期を示さず、「できるだけ早く」としている。再稼働した原発はいずれも審査合格から再稼働まで1年程度かかっている。

九電は2013年7月12日、川内原発より4日遅れで玄海3、4号機の審査を申請した。規制委は昨年11月9日に審査書案を了承し、公募で寄せられた約4200通の科学的、技術的意見を精査している。(佐賀新聞1/14)

玄海原発には1~4号機があるが、1号機は老朽化のためすでに廃炉が決定している(2015-4/27)。佐賀県は「廃炉税」を課すと表明している(時事通信16-12/31)。
2号機は定期検査中。2021年3月で運転開始以来40年となるが、九州電力は運転延長を申請するかどうか、いまだ、あきらかにしていない。出力55・9万kWと小さめであるため、九電がどうするか不透明。
3,4号機は、このニュースのように、規制委が延長審査の合格を出すだろうという見通し。いずれも118万kW。


1/17-2017
老朽原発も実態不明=運転延長の高浜、美浜―配管厚さ1ミリ未満も・原発配管腐食(時事通信)

腐食が見つかった島根原発2号機(松江市)の空調換気配管について、中国電力は運転開始から昨年12月までの約28年間、保温材を外した点検をしていなかった。

原発を保有する各社は、ほぼ同様の(方法で)点検を行っており、運転期間が長い老朽原発ほど腐食が見落とされている可能性が高そうだ。

全国の商用原発42基のうち、最も古いのは関西電力高浜原発1号機(福井県)で運転開始から42年が経過している。高浜2号機は41年、関電美浜原発3号機(同)も40年を過ぎた。この3基は昨年、原子力規制委員会が運転期間を原則40年とするルールの例外として、20年間の運転延長を認めた。

だが、延長を認可した時点で島根2号機の配管腐食問題は明らかになっていなかった。運転開始から28年に満たない原発でありながら、保温材の下から多数の腐食や穴が見つかり、衝撃が広がった。

新規制基準によって再稼働した九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)や高浜3、4号機の運転期間は31~32年。島根2号機より古いが、いずれも保温材を外した点検は行われていない。

中国電によると、島根2号機の換気配管で長さ約1メートルの穴が見つかった部分は厚さ0.8ミリ。腐食が確認された配管の材料は、腐食に強いとされるステンレス鋼板や亜鉛めっき鋼板だ。原発を保有する各社も同様の材料を使っている。

だが、配管を水分や塩分を含んだ空気が通り続ければ、腐食やさびの発生は避けられない。全ての保温材を外して確認しない限り、腐食がないと言い切れない状況だ。(時事通信1/15)

島根原発で中央制御室の空調ダクトに1m×30cmの大穴が見つかったと報道されたのは1月以上前のこと(12/9Riefなど)。再稼働を申請するために配管金属の厚みを測定しようとして、周囲に巻かれた結露防止用の保温材を外した際、配管の底に穴が開いているのが見つかった。

全国の原発では、通常、保温材をはずして配管を点検しておらず、海の潮風のために空調配管が腐食していることに長年気づいていない原発が他にもある可能性が高い。すでに再稼働をしている九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)や四国電力伊方原発3号機(愛媛県)、高浜3、4号機(福井県、ただし差止命令で停止中)、についても保温材をはずして配管を点検していない。

全国に42基ある原発のうち、島根2号機のように保温材をはずして点検したのは、北陸電力志賀原発1号機(石川県)だけで、残る40基はすべて未検査である。
時事通信は1月14日に関連するニュースを流しており、それには島根原発の腐食穴の写真が掲げられ、未検査40基がすべて列挙されている(ここ)。


1/18-2017
泊原発安全説明会 市と市議会が要請書 「市民の不安払拭を」(北海道新聞)

北電泊原発(後志管内泊村)の安全対策に関する説明会を江別市内で開くよう、市議会と市が16日、同社に要請書を提出した。市議会が昨年12月、全会一致で採択した請願を受けての要請。請願を出した市民団体は「江別だけでなく、道内各地で開催されることを願っている」としている。

市議会は三角芳明議長と干場芳子副議長、市は三好昇市長がともに札幌東支社(札幌市厚別区)を訪ね、それぞれ真弓明彦社長あての要請書を坂谷英司支社長に手渡した。北電によると、議会と自治体から説明会開催の要請を受けたのは初めてという。

江別市は泊原発から直線距離で約85キロ離れた位置にある。市議会は要請書で「万が一、事故が発生した場合、市民生活や健康に多大な影響を及ぼすことが危惧されるため、市民の不安を払拭(ふっしょく)してほしい」と訴えた。市は市議会の要請を受け、「民意を重く受け止めている」として説明会開催を求めた。

要請書の提出は、北電側の要望で非公開で行われた。提出後、三角議長は「ぜひとも開催してほしい」、三好市長は「市議会の意向を踏まえたもの」と北電側にそれぞれ伝えたという。(北海道新聞1/17)


赤丸:泊原発、青丸:江別市 (ヤフー地図です)

江別市の市議会が全会一致で請願を可決した(12月議会)という。なかなかあることではない。請願の「紹介議員」のひとり高橋典子氏のブログ(ここ)から、
北電は、後志管内での説明会で終わりにしようとしていたところ、札幌市や北海道からも説明会の要請があり、「北海道内にお住まいの方を対象に」ということで、(2016年)9月18日に札幌市で説明会を開いています。

請願の内容は、泊原子力発電所と江別市は、85㎞ほどしか離れておらず、チェルノブイリ原発事故の際は半径80㎞が避難対象となったことから、泊原発で事故があればどのようにして安全確保すればよいかわからないこと、福島第一原発の問題は未だに解決しておらず、原発事故は一民間企業の問題ではないことなどを訴え、万が一、泊原発で事故が発生しても、市民とともに適切な対応ができるように、江別市で泊原発の安全対策等についての説明会が開催されるよう、江別市議会として求めてほしいという内容です。
(高橋典子ブログ12/25)
この全会一致の請願可決をもとに、16日に北電に対して説明会開催の要請を行ったのである。「北電によると、議会と自治体から説明会開催の要請を受けたのは初めて」という。その点でも、なかなかだ。
内容のある説明会となることをのぞむ。


1/19-2017
玄海3、4号機「適合」決定 規制委新基準 地元同意 焦点(東京新聞)

原子力規制委員会は18日、耐震補強などをすれば九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県)は新規制基準に適合するとの審査書を正式決定した。しかし、原発30キロ圏内の離島には1万9000人が住み、重大事故が起きた時の避難に課題を残したまま。九電は年内早期の再稼働を目指す。

規制委の意見公募(パブリックコメント)には、安全性への懸念など4200件が寄せられた。だが示された審査書は、字句の修正にとどまった。

九電は基準に適合させるため、配管の耐震補強などの工事を3月までに終えるが、格納容器を守るフィルター付きベント(排気)設備の設置時期は未定。事故時の対策拠点は、揺れを緩和する免震構造にする予定だったが、設計が難しいことなどを理由に一般的な耐震構造に変えた。
規制委は、九電の設備改善や想定を妥当とした。

一方、避難計画は規制委の対象になっていない。計画が義務付けられた原発30キロ圏内に入るのは佐賀、長崎、福岡3県の7市1町の住民約27万人。うち離島は長崎の壱岐島などを含め17あり、住民は約1万9000人に上る。このほか橋1本でつながる島が4つあり、約7000人が住む。

離島からの避難は船やヘリコプターを使うが、荒天時は使えず取り残されかねない。その場合、学校体育館などに放射線防護機器を取り付けた施設(シェルター)に退避する。ところが離島の中で人口が最多の壱岐島にはシェルターがなく、避難の受け入れ先も決まっていない。

再稼働の是非を見極めるため、佐賀県は農水産業や経済、医療など各界代表ら30人からなる第三者委員会と、専門家から技術的な助言を受ける部会を設置。山口祥義(よしのり)知事はこれらの意見を踏まえて判断する。
原発がある玄海町の岸本英雄町長は、再稼働に同意する意向を示している。
<玄海原発>  佐賀県玄海町にある九州電力の加圧水型軽水炉。1号機は1975年、2号機は81年、3号機は94年、4号機は97年に運転を始めた。3号機は2009年、使用済み核燃料から抽出したプルトニウムを再利用するMOX燃料を使った「プルサーマル発電」を日本で初めて開始。2、3号機は東日本大震災前に定期検査で停止し、1、4号機も11年12月に定期検査で停止した。運転開始後40年が経過した1号機は15年4月に運転を終え、九電が廃炉を決めた。
(図も 東京新聞1/18)

原子力規制委は、「規制基準」に適合しているかどうかだけを審査する。万一の事故の際の避難計画は規制委の審査の対象外である。原発周辺の自治体に丸投げの形である。国は再稼働のためには、佐賀県と玄海町の二つの自治体が同意すれば良いとしているが、周辺自治体のなかには再稼働への懸念を示しているところもある(伊万里市、壱岐市)。被害を被る可能性のある周辺住民の意見をきちんと反映する仕組みになっていない。

玄海原発は北九州の人口密集地帯を控えていて、避難は容易ではない。特に、離島が無数に散在し、避難計画をたてることさえ難しい。こういう問題について、本欄では先月、12月10日で既に扱っている。

再稼働には今後、各施設の詳細設計に関する「工事計画」や運用管理体制を定めた「保安規定」の審査、認可手続きが残っているほか、地元同意が必要で、再稼働した原発はいずれも審査合格から1年程度かかっている。(佐賀新聞11/18)
3号機ではプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電を行う計画であり、とくに不安を覚える住民が多いはずである。


1/20-2017
【社説】 玄海原発 離島に橋も架けないで(中日新聞)

九州電力玄海原発が再稼働に向かう。重大事故に備えた避難計画をつくれといいながら、離島には逃げ場がない。橋を架ける前になぜ、原発を動かせるのか。人の命が何より大切だとするならば。

玄海原発に併設されるPR館、玄海エネルギーパークの展望室からは、4基の原子炉建屋とともに、玄界灘の島々が見渡せる。
馬渡まだら島、そして「島の宝百景」にも選ばれた加唐かから島、松島…、壱岐島もはっきり見えた。

原発30キロ圏内の自治体には、原発事故を想定した避難計画の策定が義務付けられている。暮らしや命が危険にさらされているということだ。

玄海原発の30キロ圏には20の離島があり、2万6200人が暮らしている。このうち九州本土と結ぶ橋があるのは、長崎県側の3島だけ。四国電力伊方原発のある、日本一細長い佐田岬半島の先端部に住む人同様、ほとんどの島では海が荒れれば逃げ場がない。

荒波で名高い玄界灘、海路による避難訓練が高波のため中止になったこともある。

それでも国の原子力防災会議(議長・安倍晋三首相)は先月、30キロ圏内の広域避難計画を「合理的」とした。

例えば、本土との間に橋のない長崎県の壱岐島は、南部が30キロ圏内だ。計画の中に全島避難は含まれず、約1万5000人が、島の北部に移動することになっている。屋内退避施設は未整備のままで、風が北へ向いた場合の対策は定かでない。

放射性物質は風に乗って遠方まで飛散する。福島第一原発事故が証明済みだ。これほど多くの人々の安全が保証されないまま、原発再稼働を許すのが、どこが「合理的」だと言えるのだろう。

壱岐市の白川博一市長は「100%安全と言えない」、ほぼ全域が30キロ圏内に含まれる佐賀県伊万里市の塚部芳和市長は「避難道路や防災無線の整備が不十分」として、再稼働には明確に反対の立場を取ってきた。

理にかなうとは、こういうことだ。そもそも、避難計画が実行されるようなことが起きてからでは遅いのだ。

政府が避難計画を了承しても、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると書いても、それが「安全」を意味するものでないのは、すでに明らかだ。

再稼働の“お墨付き”が出せるとすれば、そのことで危険にさらされる住民をおいてほかにない。(中日新聞1/19)

《万一の事故の際、避難できない人がひとりでもいる可能性があれば、原発は稼働してはいけない》、これが当たり前の「安全」というものだ。この国では、こういう当たり前が通用しなくなっている。恐ろしいことだ。
恐ろしいことなのに、誰もが気づかないふりをしている。

たかが発電装置じゃないか。誰かが犠牲になりそうな発電装置はやめて、風力発電や太陽光発電にすべきだろう。水力発電や潮力発電もある。地震や津波の頻発するわが国では、原発はやめよう。

こういう当たり前を、どこまでも主張し続けよう。


1/21-2017
高浜原発、建屋にクレーンもたれかかる 屋根が変形(朝日新聞)

関西電力高浜原発=福井県高浜町 関西電力高浜原発構内で20日午後9時50分ごろ、大きな音がしたため職員が現場を点検したところ、2号機の原子炉補助建屋と燃料取り扱い建屋にクレーンがもたれかかっており、屋根が一部変形しているのが見つかった。当時、暴風警報が出ており、強風が吹いていたという。関電が21日未明に発表した。

関電によると、燃料取り扱い建屋には使用済み燃料が保管されているが、建屋天井からの落下物はなく、使用済み燃料ピットへの影響は確認されていない。周辺の環境にも影響はないという。

クレーンは長さ約60メートルで、2号機の格納容器に上部遮蔽を設置する工事のため、燃料取り扱い建屋の脇に設置されていた。(朝日新聞1/21)


写真は、NHK1/21より

高浜原発1、2号機は、去年6月に原子力規制委が原則40年の運転期間の延長を初めて認めた原発。倒れたクレーンは、運転期間延長のための安全対策で、格納容器に上部遮蔽を設置する工事に使われていた。4台の大型クレーンが入っていたがそのうちの1台という。
なお、読売新聞は「クレーンのアームの長さ61メートル」と伝えている。

強風で大型クレーンが倒れかかった事故のようだが、幸い、原発施設への深刻なダメージはなかったらしい。しかし、肝を冷やすニュースだった。


1/22-2017
「風も要因の一つ」=高浜原発クレーン倒壊-関電(時事通信)

関西電力高浜原発(福井県高浜町)の高島昌和運営統括長は21日、同原発内で記者会見し、大型クレーン1台が倒れ、高浜2号機の核燃料を保管する燃料取り扱い建屋などが破損したことについて、「風も要因の一つと考えている」と述べた。

福井県では当時暴風警報が出ていた。高島氏は「クレーンが風で倒壊する恐れがあることは検討していたが、一部検討が至らなかったところがあったかもしれない」と語った。

高浜1、2号機では原子炉格納容器の上部にドーム状の「屋根」を付けるために大型クレーン4台を昨年10月から順次設置。クレーン倒壊時は4台それぞれ先端からワイヤを伸ばし、地面に置いた約5トンの重りにつないで安定させていた。

関電は、約5トンの重りであれば瞬間風速毎秒42メートルまで耐えられると想定。20日夜は「暴風警報が出ているということで20メートル程度の風を考えていた」(高島氏)という。構内の2カ所で実際に計測された風速は瞬間で毎秒約14メートルと同15メートルだった。(時事通信1/21)

クレーンの長さは、112・75mが正しいようだ(毎日新聞1/22)。とても長いクレーンだ。
それを伸ばした状態で、先端からワイヤを垂らし、地面に置いた約5トンの重りにつないでクレーンを安定させていた。工事元請けの「大成建設」は事前に評価し「今回の設置方法だと秒速42メートルまで耐えられる」(毎日新聞1/22)としていた、という。

実際の瞬間最大風速は、秒速15メートルであったという。強い風ではあるがよくある程度の風速で、クレーンが倒れるような強烈な風とは思えない。単に強風が原因だったのではないのではないか。・・・・・そう考えると「風も要因の一つ」と高浜原発の運営統括長が語ったというのが、意味深長に感じられる。つまり、クレーンの扱いに何らかのミス、あるいは見落としがあった可能性があるのではないか。

中日新聞が踏み込んで書いていた。
関電によると、転倒防止のために、伸ばしたアーム部分の先からは5トンの重りが地表まで垂らされていた。元請けの大成建設やクレーンメーカーの調査で、この重りで毎秒42メートルの風に耐えられると評価されていた。

20日夜は暴風警報が出ていたが、関電の担当者は「問題ないと判断して、特段対策は取っていなかった」と説明。事故を受け、別の3台のクレーンは二つ折りの状態に戻した。二つ折りにすると「先端が接地するのでより安全」(担当者)なのだという。
それなら、なぜ最初からこの安全策を取らなかったのか。
(中日新聞1/22)
建物の一部が破損した事故のようだが、放射能漏れなど致命的なことにならなかったのは幸いだった。しかし、関電の原発工事に対する安全対策がずさんなものであったことが、あからさまになったことは間違いない。


1/23-2017
女川原発30キロ圏 施設避難計画策定進まず(河北新報)

東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)の30キロ圏にある医療・介護福祉施設で、原発事故発生に備えた避難計画の策定がほとんど進んでいないことが、県保険医協会の調べで分かった。協会は「国や県、市町が積極的に関わらなければ、実効性のある避難計画作りは難しい」と訴えている。

調査は、立地自治体の女川町と石巻市、周辺5市町を対象に原発30キロ圏の病院や有床診療所、介護福祉施設など114施設にアンケート用紙を送り、37.7%に当たる43施設から回答を得た。このうち避難計画を既に策定しているのは2施設だけだった。

アンケートでは、計画を作る上で困難な点として、
    (1)患者や施設利用者を避難させる施設の確保
    (2)車両などの移動手段
    (3)情報収集や誘導体制の確立
    (4)避難先での患者・利用者のケア方法
    (5)避難経路の選定
などが挙げられた。

施設側からは「避難先や移動手段の確保は施設単独では難しい」「原発事故は広範囲の避難を余儀なくされる」「問題が大きすぎて民間での対応は困難。情報収集できない」などの意見が目立つ。課題解決の責任を市町や県に求めるとの回答は74.2%に上った。

協会は20日、県に対し、施設の避難計画策定に積極的な関与を求める要望書を提出した。協会の島和雄公害環境対策部長は「施設に『自己責任でやれ』というのは無理な話。行政が避難先や車両確保などの具体的根拠を示すべきだ」と強調した。(河北新報1/22)

ここに挙げられている「医療・介護施設の避難計画」の困難さは、女川原発に限ったことではない。どの原発周辺においても共通の困難さだ。

原発の再稼働を進めたがっている国は住民の避難計画を自治体まかせにし、自治体は医療・介護施設に避難計画を策定せよと催促する。医療施設や介護施設にはもっとも災害に弱い人々が居る。そういう人々が無事避難できて事故後の長期にわたる避難生活が保障される必要がある。それが出来るまでは、原発を稼働してはいけない。これが原則であるべきだ。

ところで、女川原発は311大震災の際、間一髪で深刻事故となるのを免れた。しかし、昨年末になってたてつづけにトラブルが報じられた。11月28日(2016)には、停止中の1号機の原子炉建屋で、熱交換器室内に冷却用の海水が12・5トン流れ込んだ。本来閉じているべき弁がなぜか開いていた。塩水をかぶったのであるから、後始末が面倒だ。

もう一つは、再稼働を目指している2号機の原子炉建屋で、ほんの数日前の報道だが、「1130箇所ものヒビが見つかり、建屋の3階より上の剛性が7割低下していた」という。発表は1月17日
NHK動画がまだ生きているので、紹介しておく、ここ。311大震災とそのあとの余震によるものだというが、どうして今頃の発表になったのか。東北電力は「安全上問題はない」とコメントしたようだが、無責任な放言に聞こえる。

この2号機は再稼働を目指して規制委の安全審査を受けているのだが、その会合(1/17)で報告したもの。初めは今年4月以降に運転再開を目指していたが、延期されることになるのは確実である。


1/24-2017
金銭要求「いじめ認定困難」=教育長が見解、原発避難-横浜(時事通信)

東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学1年の男子生徒がいじめを受けた問題で、横浜市教育委員会の岡田優子教育長は20日、「(同級生からの)金銭要求をいじめと認定するのは困難」と述べた。市議会の委員会で質問に答えた。

生徒側は、いじめと認定するよう求めているが、岡田教育長は「第三者委員会の答申を覆すのは難しい」と述べた。

男子生徒はいじめを受けていた小学5年の時、同級生から「賠償金をもらっているだろう」と言われ、自宅から現金を持ち出して1回5万~10万円を渡していた。

市の第三者委が昨年11月にまとめた報告書は、「金銭授受はいじめから逃れるためだった」と指摘した上で、「おごりおごられる関係で、いじめとは認定できない」と判断した。生徒側は今月10日、いじめと認定するよう求める要望書を提出していた。(時事通信1/20)

「いじめの関係」が成立していて、その関係の上に「おごりおごられる関係」があり得たことは明白。したがって、この「おごり」は「いじめ」の中で生じた恐喝事件である、と考えるべきである。

小学5年生が150万円もの「おごり」を行ったこと自体、尋常なことではない。そこには悪質で異常な「いじめの関係」があったことが推定される。大人でも150万円を「おごる」ことは、まず無いだろう。

横浜市の第三者委員会も、その報告をみとめた岡田優子教育長も、正常な判断力を持っていないとしか考えられない。

本欄では、昨年11月20日に高知新聞の「社説」を取り上げた。その一節、
学校に対しては、生徒や親が被害を訴え、金品のやりとりを知った複数の同級生の保護者も連絡をしている。県警からも金銭のやりとりについて情報提供を受けたのに、生徒側によると、学校は積極的に動くことはなかった。両親から指導を求められた市教委も「介入できない」と断ったという。いずれも判断を誤ったとみるしかない。(高知新聞11/20-2016)
横浜市教委は今もって、金銭授受に関し「判断を誤った」とは考えていないということだ。


1/25-2017
2号機格納容器の調査失敗、福島 カメラ付きパイプ入らず(共同通信)

東京電力は24日、福島第1原発2号機の溶けた核燃料(燃料デブリ)の調査に向け、先端にカメラを取り付けたパイプを原子炉格納容器の壁の貫通部分から挿入する作業を始めたが失敗したと明らかにした。原因を調査するが、2号機の格納容器の調査は遅れる可能性がある。

東電によると、同日午前、作業を始めたが、穴の入り口付近でパイプを挿入できなくなったという。

調査では、デブリの位置や形状の把握に向け、原子炉圧力容器の真下にカメラを搭載した自走式ロボットを投入する。(共同通信1/24)

NHKは東電のこの調査によほど期待していたようで、長文の詳しい記事を出している(ここ)。
2号機の調査では、先端にカメラを取り付けた「ガイドパイプ」と呼ばれる棒状の装置を格納容器の内側に挿入し、内部の状況や溶けた核燃料と構造物が混じり合った燃料デブリの撮影を試みます。ガイドパイプは全長10メートルあり、格納容器の外側からその中心部まで届くため、原子炉の真下の状態を調査することができ、燃料デブリもとらえられる可能性があります。(NHK1/24)
この「ガイドパイプ」を挿入して原子炉内部を撮影すれば、原子炉の底にあるデブリをとらえる可能性がある、と期待している。
24日から始まる)調査では、26日にかけて格納容器の外からロボットが通る配管に小型のカメラを入れ、障害物がないか確認しながら、原子炉の底の部分や格納容器の内部を撮影する予定でその際に燃料デブリがとらえられる可能性があります。 (NHK1/24)
ところが、挿入すべき穴の入り口付近でつかえてしまい、カメラが入らなくなった。恐らく周辺が高線量であるために、十分な観察・測定が出来ていなかったのだろう。

デブリが存在するであろうあたりを撮影できたとしても、どれがデブリであるか写真だけで判定できるとは限らない。高温となった核燃料が周辺構造物を溶かし込んで一体化して固まっている可能性があるから。
その次は、細長いロボットを入れて調べる段階が予定されている。まだまだ、先の長いことだ。

1/26-2017
福島第一原発2号機 内部調査トラブルは寒さが原因(NHK)

東京電力福島第一原子力発電所2号機で24日から行われる予定だった、内部を確認する調査で、カメラが入らなくなったトラブルは、入り口に取り付けられたゴムの部品が寒さで縮んだことが原因とわかりました。東京電力は部品を保温材で温める対応をとり、26日に調査を再開するとしています。

福島第一原発2号機では、事故で溶け落ちた核燃料の状態を把握するため、24日から棒状の装置の先端に取り付けたカメラを格納容器の中に入れる調査を始める予定でした。
しかし、内部に通じる配管にカメラを入れる作業を始めたところ、入り口付近でカメラを進められなくなり、24日の作業を取りやめていました。

東京電力が調べたところ、格納容器内部の放射性物質を多く含む空気を遮断するため、配管につながる入り口部分に取り付けられたゴムのリング状の部品が寒さで縮み、カメラが入らなくなっていたことがわかりました。

この部品を保温材で温めたところ、カメラが入ることが確かめられたということで、26日は同じ対応をとって調査を再開するとしています。

今回の調査は、カメラで格納容器の内部を確認した際に、溶けた核燃料と内部の構造物が混じり合った燃料デブリと呼ばれる塊が、事故後初めて捉えられる可能性があるとして注目されています。(NHK1/25)

福島民友が分かり易い説明図を掲げていたので、拝借しました。「ゴム材のリング」が寒さで縮んでいたということのようだ。ちょっとビックリするような、初歩的な原因であった。

この福島民友は、作業を行う場所が高線量であることを次のように述べていて貴重。
作業は1班4人の4班体制で行われた。同日午前5時30分に作業を始め、同8時ごろに作業を中断した。作業計画で定められた1日当たりの外部被ばく線量の上限は1人3ミリシーベルト。初日の最大被ばく線量は1.36ミリシーベルトで、平均は0.13ミリシーベルトだった。現場の空間線量は放射線を遮る遮蔽(しゃへい)体を設置した状態で毎時約6ミリシーベルトある。(福島民友1/25)
4つの作業班を用意しておいて、交代しながら作業して被曝線量を押さえようとしているのである。核燃料が溶融事故を起こした格納容器の、すぐ外側で作業することの困難さがわかる。「遮蔽体」が設置してあるのに、この線量なのである。


1/27-2017
離島の備えは(上)  対岸に原発 向島島民、避難計画関心薄く =考・玄海原発再稼働=(佐賀新聞)


海を隔てた目の前に九州電力玄海原子力発電所がある=唐津市の向島

■「事故ないよう祈るしか」

遮るものが何もないため、実際より近くに感じる。九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)から南西6キロの海に浮かぶ唐津市の向島(むくしま)。人口約60人、周囲4キロの島に田畑はなく、漁業だけで生計を立ててきた。

海を隔てた対岸で玄海1号機が稼働したのは1975年10月。目の前に原発がある暮らしにも歳月とともに慣れていったが、2011年の東京電力福島第1原発事故で見え方が変わった。1年のうち、原発の風下になる日が半数以上あるといい、島の人々は「大事故が起きれば、放射能がすぐ来る」と不安を募らせる。

      *

政府は福島の事故を受け、自治体が避難計画を策定すべき地域を原発の半径10キロ圏から30キロ圏に拡大した。玄海原発では佐賀、長崎、福岡の3県で17の離島があり、島民約2万人の安全・安心を確保できるかが再稼働の重要な論点になる。

唐津市の計画では、市内の7島は重大事故が起きれば船で避難することになっている。態勢が整うまでの屋内退避施設には、放射性物質の侵入を防ぐための対策を施す。今月末には全島で工事が完了する予定で、住民約1700人の当座の安全は確保できるようになるという。

しかし、原発に最も近い向島で、新たな懸念が浮上している。

屋内退避先となっている入野小向島分校。昨年末、土砂災害の危険度が高い「特別警戒区域」になっていることが判明した。鉄筋2階建ての校舎の裏手が急斜面となっており、大地震との複合災害で避難所が使えなくなる恐れがある。

市危機管理防災課の担当者は「ほかに大人数を収容できるコンクリートの建物がなく、代替施設を用意するのは難しい。土砂災害があれば、自宅などに退避してもらうしかない」と話す。住民も複合災害の可能性までは気が回らないのが現状だ。

      *

島は高齢化と人口流出が進み、2012年春には分校が児童数ゼロになり休校した。行政職員は常駐しておらず、事故に備えて島民だけで避難所を運営できるようになる必要があるが、実際にはそうなっていない。

非常食、防護服、簡易トイレ-。避難所となる分校には、1週間生活できる備蓄品が山積みしてある。しかし、その内容を把握している島民は誰もいない。区長の樋口洋二さん(62)は「食料が何日分あって、防護服があるのかないのか。説明がなかけん、よう分からんとですよ」とこぼす。

甲状腺被ばくを軽減するための安定ヨウ素剤についても、分校の隣の診療所に配備されているものの、服用方法を知る人はいない。市は「他の原発5~30キロ圏と同様、事故後に国が必要と判断すれば、職員が説明しながら配布する」としているが、職員が確実に島に行けるのかどうか。長崎県松浦市の鷹島では、全住民が事前配布の対象となっている。

      *

「もう、島を売って金もろて、陸に上がって暮らした方がよか」-。島内だけで言われている冗談だという。島民の防災意識が乏しい背景には、行政の啓発不足とともに、原発が目の前にある島ゆえの諦めがある。避難計画に対する受け止めも冷ややかだ。

「後継ぎでもおれば島の将来が心配だが、地元が再稼働を望むのなら、個人的にはしょうがなかと思うとる。事故がないよう祈るしかなか」と樋口さん。再稼働の手続きが進む中、憂い顔で海の向こうを見つめる人たちがいる。


玄海原発3、4号機が原子力規制委員会の審査に合格し、再稼働を巡る地元論議が本格化する。焦点となる離島避難の課題を探る。(図も 佐賀新聞1/20)

玄海原発の再稼働に関して、本欄は何度も取り上げてきた。最近では1月20日
地元の佐賀新聞は特集を組んできており、「離島の備え」という3回シリーズがある。(上)1/20を紹介した。(中)1/21は「移送手段」を扱っている。(下)1/22は「防護策の遅れ」を追求している。

「防護策の遅れ」にかまわず再稼働することは、「島民切り捨て」にほかならない。
壱岐市の)南部にある特別養護老人ホーム「光の苑」の武原光志施設長(66)は問い掛ける。「福島の事故では、移動による心身への負担のリスクを考え、逃げずにとどまる要援護者が多かったと聞く。海路の避難となればなおさらだろう。放射線防護対策ができていないのに再稼働をするのは、その人たちを切り捨てることにならないか」(佐賀新聞1/22)
堅実でしっかりした主張を持つ地方紙が存在することは、とても重要だとおもう。


1/28-2017
<原発事故>被ばくの不安 町の音変える(河北新報)

東京電力福島第1原発事故に伴う福島市内の音環境の変化を、福島大の永幡幸司准教授(芸術工学)が記録し続けている。静寂やざわめき、歓声といったさまざまな音の風景から、未曽有の災害の中で揺れ動く人々の心が浮かび上がる。

音の記録は2011年5月1日に始め、今まで約30カ所で実施した。多い場所では80回以上の録音を重ねている。「原発事故で大きく変わった福島市の暮らしのありようを後世にリアルに伝えたい。人の生活に必ず付きまとう音を記録することが、その一助になる」と永幡さんは説明する。

事故の影響が分かりやすいのは、最初の録音場所に選んだ市中心部の新浜公園、市街地に隣接する信夫山、近郊の里山にある小鳥の森の3カ所だ。新緑の季節で事故前なら人の声が響きわたるはずなのに、いずれも鳥のさえずりしか聞こえない。自然の音に満たされた環境が幸せに感じられない。永幡さんが「放射能による沈黙」と呼ぶ皮肉な静寂が伝わる。

新浜公園は11年夏に除染が行われ、放射線量が下がると様相が変わる。12年春、初めて子どもの声が録音され、陽気が良くなるとともに歓声が増えていく。
信夫山は11年秋に除染が始まったが効果が上がらず、人の戻りが遅れた。祭りや花見の時はにぎやかになるが、行事が終わると静けさに包まれる。安心感が生まれ、普段から子どもの声が聞こえるようになったのは、1時間当たりの放射線量が原発事故による追加被ばく線量を年間1ミリシーベルト未満に抑える基準となる0.23マイクロシーベルト前後に下がってからだったという。

一方、小鳥の森は15年に一部の除染がようやく始まったものの、落ち葉のたまる所などは線量が高く、今も訪れる人が少ない。子どもの声はほとんど聞こえない状況が続く。

永幡さんは「音の記録からは人々が放射能を恐れ、被ばくを何とかコントロールしようとする姿が分かる。これが原発事故に遭うということ。福島市のような微妙な汚染地域で暮らす不安感が見える」と話す。

昨年12月にはハワイであった日米音響学会合同会議で、福島の音環境について報告した。欧米の研究者からは「音が人間の生活に密着していることが衝撃的な形で表現されている」と驚かれたという。

永幡さんの記録はホームページ「福島サウンドスケープ」で聴取できる。(河北新報1/27)

福島サウンドスケープ」は、福島大学のウエブ・サイトにある。

2011年5月8日からこの「福島サウンドスケープ」のページ作成が始められたそうだ。うかつにもわたしは知らなかった。「Video Clips」の幾つかをみた。派手なところはないが、つい見続けてしまう。音と静止画と簡単な説明文がある。
「2013年 2月11日公開版」(9分36秒)の中に、福島大学構内の除染を繰り返しやっている状景があるが、8分あたりに「モニタリングポストの周りの除染は、特に念入り」というコメントが付く。

オルタナ altana 2013年12月6日 に「「福島サウンドスケープ」――音が伝える3.11後、そして検閲事件」というレポートが出ている(ここ)。
そこで「音だからこそ(あるいは、音があるからこそ)リアルに伝わってくること」があると知った。特定方向のみ捉えるカメラ撮影と異なり、音収録は全方位の情報を含み、「その場の空気感まで記録」できるのでより的確に実態を伝えられる。
カメラ表現との違いを指摘したこの部分はすぐれていると思った。

「検閲事件」というのは、2013年秋に千葉県立中央博物館で行われた「音の風景」展に永幡幸司さんの「福島サウンドスケープ」も出品されたのだが、その説明文に含まれていた福島大学の学長と執行部の除染対応への批判が削除され、書き換えらたという事件である。
検閲前)「原発事故後2週間程で学長が安全宣言を発表したことが象徴するように、執行部が問題を軽視してきたきらいがあり、若者が集まる場にしては、除染作業が後手に回ったきらいがあることは否めません」

検閲後)「原発事故以降、各地で土壌などに堆積した放射性物質の除去が課題となりましたが、福島大学では、大学構内という若者(影響を受けやすいとされる)が集まる場にしては、除染作業が後手に回ったきらいがあることは否めません」
(オルタナより)
詳細は、永幡幸司さんの「福島サウンドスケープ」の最下段においてある永幡幸司「千葉県立中央博物館の対応をめぐって」を読んで下さい。オルタナも指摘しているが、日本の大学で、学内に籍を置いていて、学長や執行部を批判するのは勇気のいることである。



1/29-2017
福島、住民帰還率がいまだ13% 原発事故の避難解除地域(共同通信)


福島県川内村下川内地区の町並み。時折、車が
通過するばかりで住民の姿は少ない=28日午後

東京電力福島第1原発事故の避難指示が2014年4月以降に解除された福島県田村市、川内村、楢葉町、葛尾村、南相馬市の5市町村で、解除された地域への住民の帰還率が全体で約13%にとどまることが28日、各自治体への取材で分かった。

生活インフラが十分にある避難先での定住が進んだことや、子どもを持つ親が放射線の影響による健康への不安を考慮した結果、帰還が進んでいないとみられる。今春にはさらに4町村の避難解除が控えているが、実際にどのくらいの住民が戻るのか不透明だ。

5市町村に出ていた避難指示は14年4月から16年7月にかけて順次解除された。(写真も 共同通信1/28)

日本経済新聞も同じ共同通信を報じているが、加えて、住民の実数を記している。
5市町村で解除された地域に住民票がある計1万9460人のうち、昨年末から今年1月の時点で、実際に住んでいるのは計2561人で13.1%だった。
中央の官僚はスケジュール通りに避難解除をしたがるが、実質が伴っていない。住民はついて来ていない。13%の帰還率というのは、いかにも淋しい。


トップページの写真を、イダテンチャタテからカメムシ目カスミカメムシ科ケブカカスミカメに替えた。

1/30-2017
第一原発3号機使用済み燃料取り出し 30年度半ばに再延期(福島民報)

政府と東京電力は26日、福島第一原発3号機使用済み燃料プールからの燃料取り出しの開始時期が平成30年度(2018)半ばにずれ込むと発表した。プールのある原子炉建屋上部の放射線量が除染後も想定通りに下がらないことなどが原因。これまで29年度中の作業開始を目標としていた。

3号機使用済み燃料プールからの燃料取り出しは、27年6月に改定した廃炉の工程表(中長期ロードマップ)でも当初の27年度上半期から延期されており、さらに遅れることとなった。

東電は取り出し時に放射性物質の飛散などを防ぐ屋根カバーの設置作業を17日に開始した。終了までには2年近くかかる見通し。作業の進展次第ではさらに開始時期が遅れる可能性も出ている。

3号機の原子炉建屋は水素爆発で激しく損傷し、プールに燃料566体が残されている。

福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏最高責任者は記者会見で「線量が下がらず、追加除染や遮蔽(しゃへい)材の設置を行ってきたが、完了時期はロードマップより後ろ倒しになる」と説明。工程は精査中とした上で、燃料の取り出し開始は平成30年度半ばになるとの見通しを示した。
32年度中の取り出し開始を目指すとしている1、2号機については変更していない。(福島民報1/27)

屋根カバーの設置作業は、先月17日から始まっている。しかし、除染の効果が上がっておらず、線量が高い。次図は、屋根カバーのイメージ図。このカバーの中でクレーン作業などを行う予定という説明なのである。なぜこんなにオオゴトにしなければいけないのか。


東京電力福島第1原発3号機の燃料取り出し用カバーのイメージ図。かまぼこ
型のドームの中に、燃料取り出し用のクレーンなどが設置される(東京電力提供)

3号機は水素爆発で大きく破壊され、燃料プールにも様々な構造物が落下した。本欄2015年8月3日は大物落下物を取り出した際の写真を掲げた。
しかし、どのような形で水素爆発が起き、周辺が高線量に汚染されたのか、十分に解明されているわけではない。この水素爆発に伴って核爆発があったという説もある。
ブログ「院長の独り言」の「3号機の爆発-どう考えても核?」(8/10-2011)や「3号機爆発時、10km離れた福島第二で中性子線が観測されていた」(5/30-2016)を参照のこと。


1/31-2017
福島原発2号機 溶融核燃料の可能性 圧力容器下に堆積物(毎日新聞)

東京電力は30日、福島第1原発2号機の原子炉圧力容器の真下をカメラで撮影し、足場に何らかの堆積物があるのを確認、画像を公開した。6年前の東日本大震災による事故で溶融した核燃料の可能性があるとみて、詳細な分析を進める。炉心溶融は同原発1~3号機で起きたが、これが溶融燃料だとすると初の撮影になる。

東電は、パイプ(長さ10.5メートル)の先端にカメラを取り付け、圧力容器を囲む原子炉格納容器の貫通口から挿入して内部を撮った。この結果、圧力容器の真下にあるグレーチング(格子状の足場)の複数箇所に黒や褐色に映った堆積物があった。グレーチングが無くなっている部分もあり、溶融燃料落下による損傷の可能性も含めて調べる。圧力容器下部に設置されている制御棒の駆動装置やケーブルなどに大きな損傷は見つからず、炉内に大半の燃料がとどまっているとする従来の解析結果と一致した。

堆積物が溶融燃料ならその近くは放射線が特に強いとみられるが、挿入したパイプには線量計が付いていないため確認できていない。堆積物は圧力容器の保温材やケーブルの被覆材である可能性もあるという。

東電は2月から、カメラなどを“尾”の部分に搭載した遠隔操作のサソリ型ロボットを投入し、本格的調査を始める。今回のカメラ挿入は、その準備として、ロボット操作の障害になる物の有無の確認などのため行った。記者会見した東電原子力・立地本部の岡村祐一本部長代理は「今回の調査結果を、溶融燃料の取り出しに向けた基礎データにつなげたい」と語った。

国の廃炉計画では、2018年度に1~3号機のいずれかで溶融燃料取り出しの具体的な工法を決定し、21年中に取り出しを開始する。(毎日新聞1/30)


グレーチング上に確認された堆積物(東電撮影)( The Page による)

核燃料溶融事故を起こした2号機の原子炉真下を撮影することに成功した、ということ。グレーチングは本来点検用に設けられている足場で、何も載っていないはず。黒い堆積物があるのは、溶融事故で生じた物であることは確かである。

その堆積物は燃料デブリの可能性があるが、原子炉下部にある配線被覆や保温材などが溶け落ちたのかも知れない。その一方で「グレーチングが無くなっている部分もあり、溶融燃料落下による損傷の可能性」もある。その場合は、溶融燃料が原子炉の底を突き抜け、圧力容器の下にデブリとして溜まっている可能性がある。さらに、圧力容器を突き抜けている可能性もある。

その一方で「圧力容器下部に設置されている制御棒の駆動装置やケーブルなどに大きな損傷は見つからず、炉内に大半の燃料がとどまっているとする従来の解析結果と一致した」という事実は重要だ。原子炉内部がどのようになっているのか、はやく知りたいものだ。


トップページの写真を、ケブカカスミカメから甲虫目オサムシ科オオヒラタアトキリゴミムシに替えた。



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