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第六巻 55
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金の入歯賣

明治二十五年の夏浅草寺中見せにて
初めて此入歯賣を見た其後類似の者多く
なれり

サア々々わづか三銭にて
金の入歯が出来る二ヵ月
受合ます

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鹿島孝二『大正の下谷っ子』(青蛙房1976)が、面白く金歯を売るテキ屋を紹介している。
大正初年には,浅草公園の六区(映画街)のひょうたん池の前で、テキ屋が台の上に金歯を並べて,客を呼んでいたのである。
「チョイとおねえちゃん、金歯をどう?糸切り歯に金をかぶせると,口をあくたびにチラリと見えて、いいもんだぜ、女っぷりがグンと上がるよ」
足を止めた娘に口を開かせ、金メッキの金冠を犬歯にはめてやる。
次には、吉原遊郭へしけこむらしい若者へ、「金歯を入れて行くと、もて方がちがうよ」と声を掛ける。それに釣られて前歯に金冠をかぶせ、鏡を覗いた若者、
「ちょいとキザじゃないかね」
「飛んでもない、男っぷりが十段も上がったよ」
「少し痛いね」
「少しの痛みくらい我慢するのが、粋ってもんじゃないか。しっかりしてよ、にいちゃん」
前掲書「まえがき」より
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