き坊の近況 (2011年11月)


旧 「き坊の近況」

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日々の見聞や関心事を示して、自分の心的近況を表そうとしている。

とくに準備なしで書けるような、「朝刊を開いてひとこと」というようなことを試みている。さらに、生活上の随想なども書く。





11/1-2011

九州電力は31日、復水器の異常で10月4日に自動停止した玄海原発(佐賀県玄海町)4号機を、11月上旬にも再起動する方針を明らかにした。経済産業省原子力安全・保安院が同日、九電による原因調査と再発防止策を妥当と判断したのを受け、佐賀県と玄海町に「再稼働は事業者(九電)の判断で行う」との意向を伝えた。12月中旬の定期検査前にいったん再稼働したい考えだが、地元の意向を確認しない形の再稼働方針に反発の声も上がっている。

同保安院原子力事故故障対策室は「過去、慣例では国が妥当と判断すれば再起動している」として、電力会社に安全評価を課している定期検査中の原発再稼働とは異なるとの考えを示した。

これを受け九電は同日夜、「準備ができ次第通常運転に復帰し、12月に定期検査に入る予定」と発表。九電によると、再起動に向けた送電準備は数日で終わる。いつから準備に入るかは未定としているが、早ければ今週末か来週初めにも再起動する考えとみられる。再起動から1週間程度でフル出力での通常運転に戻り、再稼働となる。

古川康知事は「自動停止の原因と対策の妥当性は国が責任を持って判断されたと認識している。4号機の通常運転復帰は、国の考えを聞いてみたい」と再稼働についての評価は避けた。一方、同町の岸本英雄町長は「(再開に)私の同意は必要ではなく、口を挟めるものではない」とした上で「地元が納得した上で動かすのが筋。誠意ある対応とは言えず、賛同できない」と批判した。九電幹部が1日にも同町を訪れ、あらためて再稼働方針を説明する見通し。

同県議会の徳光清孝県議(社民)は「原発事故で不安が広がり、やらせ問題で九電の信頼性が失われている中、県民の気持ちを無視した再稼働は絶対に許されない」と反発。一方で、ある自民県議は「トラブルの原因と対策を国が妥当と認めれば、再稼働をするな、とまでは言えない」と理解を示した。(西日本新聞11/1)

今回のトラブルは作業手順を間違えて、「電源ケーブルを引き抜かれた」のが原因(産経Biz)であったという。保安院が九電の報告を妥当と認めたので、そのあとは事業者の判断で再開する、というのが過去の慣例だという論理である。
311大震災と福島原発事故・九電のやらせ問題の発覚の後に、過去の慣例のまま再起動を実施してかまわない、とする判断がおかしい。地元の了解を求めた上で事業者の判断をする、という順序になるのが当然だ。

そもそも、九電は第三者委の答申を無視して古川知事を守り通し、会長・社長も居座るというツッパリ路線を強引に貫こうとしている。4号機再稼働を許してはならない

【追記】(11/1 夕方):「美浜の会」から、 経済産業大臣 枝野幸男宛の抗議・アッピール文(本日付)が送られてきた。その中に、つぎのような部分があり、10月4日の復水器の異常は、単純な人為ミスによるものではないという。
(前略)10月4日に起きた玄海原発4号の原子炉自動停止は、単なる「人為ミス」ではなく、経済性を最優先にする九電の強行運転の姿勢がもたらした事故だった。この事故は、これまで定期検査で運転停止中に行ってきた検査を、運転中に行い、検査の手順を停止中と同じ手順でやったために、復水器の真空度が異常となりタービンが停止し、原子炉も自動停止したものだった。より重要な機器で同様のことが起きれば、作業員の被ばく、大事故につながる。5名もの死者を出した2004年の関電の美浜3号事故はこのような典型であった。

九電の事故報告書(10月21日付)でも、保安院の「確認結果について」でも、このような経済性を最優先させたことに起因したという、本質的な問題にはいっさいふれていない。福島原発事故後であるにもかかわらず、単なる「人為ミス」として軽く扱っている。(後略)
(美浜の会11/1)
わたしは、技術的な詳細は分からないが、本質的に重大な事故であったという美浜の会の主張は信頼できると思う。

なお、美浜の会へメールをすればメール・ニュースなど送ってくれる。
 美浜の会     http://www.jca.apc.org/mihama/
 メール・アドレス  mihama@jca.apc.org


11/2-2011

玄海原発4号機は、1日午後11時に再稼働した。それの続報。

九州電力玄海原発4号機の運転再開問題は、原発の再稼働を巡る政府の対応に矛盾があることを改めて浮き彫りにした。震災後、正規の手続きで定期検査に入った原発の再稼働には安全評価(ストレステスト)という新たなハードルを課し、審査に「数カ月」(経済産業省幹部)をかける一方、トラブルで停止した原発には早期再開を認める形になるからだ。

ストレステストには、定期検査中の原発が対象の「1次評価」と、深刻な事故を起こした福島第1原発など再稼働の可能性がない原発を除く全原発が対象の「2次評価」の2種類がある。経産省原子力安全・保安院は玄海原発4号機を「1次評価の対象ではない」と判断したが、森山善範・原子力災害対策監は「トラブルによる停止は想定していなかった」と認めた。

その上で、森山氏は「運転再開はケース・バイ・ケースで決めていく必要がある。(今回は)相対的に軽微なミスで、原因分析と対策はクリアしている」と説明。枝野幸男経産相は「最終的な稼働は、地元と協議した事業者が決めること」と述べたが、地元首長はいずれも「安全管理は国の責任」とかみ合っていない。

玄海原発4号機は12月中旬にも定期検査に入り、ストレステストの2次評価結果を年末までに提出することになる。NPO法人「原子力資料情報室」の澤井正子さんは「原発の安全確保のためにストレステストが必要だと言うなら、トラブルを起こした炉にこそ課すべきだ。やらせ問題が片付いていないにもかかわらず、それほど必要性のないわずか1カ月余の運転を認めるなど、国の安全規制は破綻している」と批判している。(毎日新聞11/1)

11/3-2011

東京電力福島第1原発2号機の原子炉格納容器内で、核分裂によって生じる放射性のキセノン133やキセノン135とみられる気体がごく微量検出された問題で、経済産業省原子力安全・保安院は2日、検出されたのはキセノン133と135だったと発表した。東電も同日、気体を再度測定した結果、同濃度のキセノンとみられる気体を検出したと発表。保安院は「核分裂反応が起き、キセノンが発生した可能性は高い」と話している。

東電は、日本原子力研究開発機構に気体の詳細分析を依頼。同機構がキセノンの検出を確認し、保安院が公表した。保安院は「1、3号機でも同様に核分裂が起きている可能性がある」としている。

東電は、格納容器内の気体を浄化して外部に放出する「格納容器ガス管理システム」(10月28日稼働)を使って1日午後に採取して測定した物質を再び調べた。その結果、キセノン133とキセノン135がそれぞれ1立方センチあたり10万分の1ベクレル程度含まれるデータが得られた。

さらに、2日昼にも物質を採取して測定し、同濃度のキセノン135を検出した。キセノン133は検出されなかった。

東電の松本純一原子力・立地本部長代理は会見で「(1日午後に採取した)同じ気体から2回検出されたので核分裂が起きた可能性は高い。ただ、核分裂が起きていたとしても小さいレベルで、大量のエネルギーを出している状況ではないので問題はない」と説明。圧力容器の温度や圧力のデータに大きな変化はなく、核分裂が繰り返し起こる臨界が続いた可能性を否定した。

2号機の格納容器内では、8月にも今回と異なる方法で調査を実施。2種類のキセノンが発生していた可能性があったが、ごく微量で検出できなかった上、再臨界の可能性は低いとして詳しい測定をしていなかった。

保安院の森山善範原子力災害対策監は「今後、連続的な核分裂で局所的な臨界が起きたかも含め、専門家の意見も聞きながら確定していきたい」と述べた。(毎日新聞11/3)

キセノン(原子記号Xe 原子番号54 原子量131.2)は、希ガスのひとつで空気中にもごくわずか存在する。放射性キセノン133,135が今回2号機で検出された。いずれも、検出量は微量であるが、2号機で核分裂が生じていることの証拠になる。
なぜ、今ごろになって発見されたかというと、これまでは検出装置がなかったからで、今回「格納容器ガス管理システム」を付けて稼働し始めたからである。これまでにも、おそらく核分裂が生じていたが検出装置がないために知られていないだけ、という可能性が大きい。1,3号機ではまだガス検出が行われていないが、同様に核分裂が生じている可能性がある。

融けて容器などと一緒になり不定形になった核燃料が、一時的に局所的に臨界に達して核分裂が起こっているだろうと考えるのがまず第一。保安院は第2の可能性として臨界を伴わない自発的核分裂を挙げているが(NHK11/3)、一般論を述べているに過ぎないのだろうと思う。
融けた炉心がどうなっているのか分かっていないので、可能性を推論するだけなのである。核分裂の際に出る中性子を直接検出する装置をつけて監視する必要がある。

東電は、炉の底部の温度を測ってそれが定常的に100度を切っていることで“冷温停止”と言いたいようだが、そうはいかないことが今度のことで、よく示されている。炉内の燃料が設計通りにきちんと配置されている場合には温度が重要な指標として使えるのだが、炉の内部がとけてウランや核分裂生成物がぐちゃぐちゃになっているであろう事故炉では、温度が低いから炉が安定であるとは言えないのである。

【追記11/4】:東電は11/3に、「キュリウム242とキュリウム244の自発核分裂によるものであった、という発表をした。」キュリウムはウラン燃料の核分裂でできる放射性廃棄物のひとつで、その自発的核分裂で生じるキセノンは、正常な炉であれば燃料管の中に閉じこめられているが、事故炉では燃料管の被覆が破れているために、格納容器内に出てきたもの。臨界が生じたと仮定した場合にはキセノンの濃度が1万倍になる計算だという(毎日新聞11/4)


11/4-2011

原発事故が起きた時の対策拠点として、国が約百二十五億円かけて全国十六カ所に建設したオフサイトセンター(OFC)の多くが、原発から近すぎるとして見直しを迫られることが分かった。国は重点的に対策を進める区域を、従来の原発から半径八〜十キロ圏を三十キロ圏に拡大するが、全てのOFCが新しい円内に入る。特に十キロ未満にある十一カ所は実際の事故発生時には使えない可能性が高く、見直しは必至。巨費が無駄になる可能性が高くなった。

国の原子力安全委員会の作業部会は一日、事故の影響が広範囲に及んだ教訓から、従来の防災対策の重点地域では狭いとし、三十キロ圏を「緊急防護措置区域(UPZ)」とすることで合意。五キロ圏は、直ちに避難する「予防防護措置区域(PAZ)」とした。

変更後は、全てのOFCがUPZ内に位置することになり、住民が避難して不在になるような場所で住民のケアをするという矛盾した状況が生まれる。このため作業部会は今後、OFCの立地や機能などの在り方を協議し、年度内に見直し方針をまとめる予定だ。

警察、消防を含めた行政関係も速やかな避難を迫られるPAZ内には、泊(北海道)や浜岡(静岡県)、伊方(愛媛県)などのOFCが位置する。OFCが使えない場合の代替となる県有施設なども、福島第二原発を除き、すべてUPZの中に含まれる。
作業部会で主査を務める本間俊充・日本原子力研究開発機構安全研究センター長は、放射性物質の拡散などを考慮すれば、OFCは少なくとも半径十キロ圏より外に置く必要があるとの認識を示している。

OFCは一九九九年九月の燃料加工工場「JCO」(茨城県東海村)の臨界事故をきっかけに整備が始まった。事故時に国や自治体などの担当者が集まり事故対応の拠点となるはずだったが、福島第一原発事故では原発から約五キロのOFCが震災で停電。放射性物質の防護も不十分で、結局は約六十キロ離れた福島県庁に移された。 (下の表も、東京新聞11/4)



トップページの写真を、フタモンホシカメムシから甲虫目クワガタムシ科コクワガタに替えた。

わたしは子供のころ、たいていの男の子が好きだということになっているクワガタムシやカブトムシが苦手だった。捕まえて背の両側をつまんで持つと、太く黒い脚がうごめいているのが見える。あれが怖かった。つまんで持つ指から逃れるように強い力で頭や背を動かすが、指に伝わる力がこちらを咎めているように感じられて、イヤだった。たいていの男の子は、平気で、手で握るようにして持つことができるが、わたしはできなかった。トゲのある脚などが手の平に抵抗する感じががまんできなかった。

今もなお、クワガタの区別などがまるでできないのは、そういう子供時代を過ごして、“基礎ができていない”からだと思っていた。ところが、虫の写真の仲間にそれとなく聞いてみたら、ほとんどの人がクワガタ♀の区別はできないことを知って、自分が少し大げさに考えすぎていたのかな、と安堵した。それで、いつも教えてもらっている“甲虫屋”さんに、思い切って質問して、教えてもらうことにしたのである。

次は、コクワガタ♂。浅間山(せんげんやま)公園、6月10日(2011)。大顎の途中に内向きのトゲがあるが、それの位置が大顎の中央〜やや先端寄りというのが、ド素人向けの区別法。
この写真を“甲虫屋”さんにおそるおそる差し出すと、彼は笑って“ええ、間違いなくコクワガタの雄です!”と太鼓判を押してくれた。彼が笑ったのは“そんなに弱気にならなくてもいいんじゃない”と軽くわたしをからかったのである。





11/5-2011

東京電力福島第一原子力発電所の事故で、福島県南相馬市の乳幼児が放射性物質を体内に取り込む内部被ばくをしていないか、尿を検査したところ、7%の子どもから放射性セシウムが検出されました。検査を行った会社では、健康に影響が出るような内部被ばくはなかったとしています。

福島県などが行っている内部被ばくの検査は、ほとんどが専用の装置で姿勢を維持できる小学生以上を対象にしていることから、福島第一原発に近い地域では、検査を受けられない乳幼児のいる家庭から不安の声が上がっています。このため、東京の医療コンサルタント会社「RHCジャパン」は、南相馬市内の6歳以下の子どもを対象に、尿に放射性物質が含まれていないか検査しました。その結果、これまで分析を終えた1500人余りのうち、7%に当たる104人から放射性セシウムが検出されました。ほとんどは検出限界を僅かに超える1リットル当たり20から30ベクレルの範囲で、最も値が高かったのは1歳の男の子で187ベクレルでした。

生涯に受ける放射線量は最大でも0.37ミリシーベルトと推定されるということで、検査を行った会社では、健康に影響が出るような内部被ばくはなかったとしています。今回の結果について、放射線医学総合研究所の明石真言理事は、「検証が必要だが、一つの目安にはなる。チェックを受けた食品をとれば今後も被ばくが大きく増えることはないと思う」と話しています。(NHK11/5)

幸いに放射性セシウムの検出量は少量であったのだが、福島原発事故がなければ検出されていないはずのものであったことを考えると、深刻だ。それに、今後も放射線のある環境下で生きていかなければならない子供たちであることを思うと、つらい。
放射線医学総合研究所の明石真言のコメントを付けるのがNHKが“あちら側”であるしるしだ。明石真言はもっぱら食べ物や授乳などの経口摂取で放射性セシウムを取り込んでいると考えているようだが、子供たちが放射線のある環境下で生活していることから眼を逸らさせるような評言である。
放射線のない(少ない)地域へ引っ越すことが望ましいが、個々人にはそうはいかない多くの事情があることも当然に想像される。効果的な除染作業が早急にできることを祈るばかりだ。

本欄で先月10日(10/10)に扱ったが、福島県の18歳以下の子供たちの甲状腺のエコー検査が今後生涯にわたって行われる。エコー検査で異常があった場合に「病変の恐れがあれば後日、採血や尿検査のほか、細胞を採取する詳細検査を行う」(中国新聞10/10)ということだった。
11月2日発売の「週刊ポスト」に次のような記事があることを知った。ポイントは、エコー検査で異常が検出される前に血液異常・ホルモン異常の徴候が出ているという点だ。

談話は、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實

(前略)僕が理事長をしている日本チェルノブイリ連帯基金がお手伝いをして、信州大学附属病院で、血液検査と尿検査2 件の健康診断を行なった。受診したのは、生後6か月から16歳までの130人。

現在行なわれている福島県の検査は、エコー検査である。これは本来腫瘍を見つけるのが目的だが、僕らはヨウ素131の影響が出ていないかを検査するのが主目的なので、血液と尿の検査をした。今回の検査では、1人が甲状腺ホルモン(遊離サイロキシン)の基準値を下回り、7人が甲状腺刺激ホルモンの基準値を上回った。

刺激ホルモンの値がさらに高くなれば、甲状腺機能低下症になっていく可能性がある。今のところ病気ではないが、経過観察が必要な状態である。

チェルノブイリでは、甲状腺がんや機能低下症が多発した経緯があり、多項目の検査をしたほうがよいと考えた。腫瘍を見つけるだけのエコー検査だけでよいのだろうか。血液に異常がある子を見つけ、厳重に管理することで腫瘍の早期発見も可能になってくる。

腫瘍が出来るのは、4〜10年後の可能性が高い。10月9日の福島県の第1陣の検査を受けた子ども144人に異常は見られなかった。ある母親は「子どもに異常がなくて安心した」と話していたが、いまのエコー検査だけでは異常がなくて当たり前なのだ。(以下略 週刊ポスト11/11号)



11/6-2011

防災科学技術研究所は(10月)31日、千葉県の房総半島沖で、地下のプレート(板状の岩盤)がゆっくりと滑る「スロースリップ」を観測したと発表した。

過去30年間、約6年ごとに確認された現象が、今回は最短の4年2か月間隔で発生した。東日本大震災の影響とみられ、同研究所の広瀬仁・主任研究員は「大地震の予測に結びつくわけではないが、大震災が関東地方での地震発生を早めている可能性も考えられ、解析を続けたい」と話している。

防災科研が10月26日、地下に埋設した高感度加速度計の観測結果を解析したところ、千葉県勝浦市沖合の海面から深さ約20キロ・メートルにある、海側のプレートと陸側のプレートの境界の地盤がゆっくり移動していた。移動した地盤は東西約80キロ南北約20キロの範囲で、31日までに南東方向に約6センチずれ動いていた。(読売新聞10/31)

このニュースは多くの報道機関が取り上げた。たとえばNHKは「こうした活動は数年ごとに繰り返され、やや規模の大きな地震が起きることもあるため、気象庁は、念のため揺れに注意するよう呼びかけています」(NHK10/31)と、かなり“乗り出した”感じになっていた。

「スロースリップ」とは別の内容だが、Ustream にある渡辺満久(変動地形学)の講演活断層と原発(約1時間40分、10/26)は、活断層をどのようにして発見するかということについて、とても分かりやすい解説。従来の地学系の説明はよく理解できなかったが、「変動地形学」というアプローチはすぐれていると思った。
大間原発についての海成段丘(離水ベンチ)の説明も分かりやすかった。
また「地震・津波関連指針等検討小委員会」の「専門家」集団なるものがいかに無能で無気力であるか、渡辺氏が憤慨しているのも見る価値があります。
講演用に用意してあるPCのソフトも周到で、分かりやすい。赤−青の眼鏡で立体視できる画像なども使われます(ただし、わたしは立体視できなかったです)。お勧めの動画です。


トップページの写真を、コクワガタから甲虫目クワガタムシ科ヒラタクワガタに替えた。

11/7-2011

津波の到達点を後世に伝えたい――。東日本大震災の津波で壊滅的被害を受けた岩手県陸前高田市で6日、市内の津波到達点に10メートル間隔に桜を植えて線を描く「桜ライン311」の取り組みがスタートした。

この日は地元有志を中心に組織した実行委員会が神奈川県松田町から寄贈された河津桜など28本をボランティアらとともに、市中心部が見渡せる浄土寺など15カ所に植樹した。同市の津波到達ラインは173キロに及ぶが、地権者の同意が得られた場所から進め、1万本以上を植えたいとしている。

自宅の敷地内に苗木2本が植わった農家の佐々木輝昭さん(27)は津波で父親を失い、波をかぶった畑はごく一部しか再開できていない。佐々木さんは「花を見ることで津波を記憶にとどめ、励みにもしたい」と話した。(毎日新聞11/6)

これはよいアイディアだ、と思った。山桜系の寿命の長い桜を植えていったらいいと思う。陸前高田市だけじゃなく、津波被害のあった地域を広く結ぶようにこのラインが伸びたらいい。防災意識の観点からも重要であろうが、何十年後か何百年後かまで、「桜ライン311」が2011年の大震災が語り継がれる手がかりになるとすれば、いくらか胸ふくらむ思いがする。

トップページの写真を、ヒラタクワガタから甲虫目クワガタムシ科ノコギリクワガタに替えた。

11/8-2011

 東京電力福島第一原子力発電所事故で、国が福島県内の警戒区域と計画的避難区域で来年1月に本格的な除染作業を始めるのを前に、環境省は7日、対象地域で詳細な放射線量の測定を始めた
同省は測定結果を基に、優先地域の順番などを定めた除染作業の実施計画を作成する。

7日は、計画的避難区域に指定されている同県飯舘村飯樋(いいとい)地区に独立行政法人・日本原子力研究開発機構と東京電力の社員ら約30人が入り、測定機器を積んだ無人ヘリや線量計を積載した車両で測定した。

内閣府などが今夏実施した対象地域の放射線量調査は、測定の単位が1地点につき500メートル四方だった。今回は、居住地など細かなデータを把握したい地点では100メートル四方と狭め、データがない地点についても新たに測定する。内閣府のデータも活用し、除染計画を作成する。

今月中旬には警戒区域内での測定も始め、今月だけで約3000にのぼる地点で実施する。(読売新聞11/7)

「警戒区域」は20km圏内で、全住民が避難している。「計画的避難区域」は年間被曝線量が20mSv/yを超える地域。
じっさい警戒区域内は線量が高く、人が住めるような状況に程遠い。8月19日に文科省が発表したデータで、双葉町長塚地区(原発から5q)の測定地点で、172.4mSv/yだった(毎日新聞8/22)。

詳細な線量の分布地図を作成しそれをもとに除染作業をし、除染後にどれだけ線量が下がるかを確認することは最低限必要だ。線量の高い地区は「高水圧洗浄や表土除去では歯が立たず、家を取り壊すなど徹底的な除染が必要で、元通りの町並みを残したまま帰還するのは困難」であるという(災害対策本部の職員談話、同前)。


トップページの写真を、ノコギリクワガタからカメムシ目カメムシ科チャバネアオカメムシに替えた。

次図は、10月31日に拙宅に飛び込んできたチャバネアオカメムシ秋型。



11/9-2011

福島大災害復興研究所(所長・清水修二副学長)は8日、福島県双葉郡8町村の住民を対象に住居などについて調査した結果、以前の居住地に「戻らない」との回答が、34歳以下で52.3%に上ったことを明らかにした。特に若い世代で放射能汚染への不安が強いことがあらためて示された。

浪江、双葉、大熊、富岡、楢葉、広野町、葛尾、川内村の全世帯主計2万8184人に調査票を郵送、9月末までに47.8%、1万3463人から回答を得た。
避難前の居住地に戻るかどうかについては「ほかの町民の帰還後に戻る」が27.8%で、「戻らない」26.9%、「除染実施後に戻る」22.7%と続いた。「安全宣言後すぐに戻る」は4.9%しかなかった。

「戻らない」との回答は34歳以下のほかは、35〜49歳が36.5%、50〜64歳が25.8%で、年代が上がるにつれて帰還への意欲が強かった。戻らない理由では「除染が困難」が83.1%で最も多く、次いで「国の安全レベルが低い」65.7%、「原発事故の収束が期待できない」61.3%の順だった。

職業では、「無職」が震災前の状況に比べ約2倍の54.5%に上った。自営業の60.7%、会社員の32.5%が震災後に職を失った。

調査を実施した丹波史紀准教授(公的扶助論)は「子どもへの放射能の影響を心配する声が若い世代では特に目立った」と分析。「居住地と職場が異なる住民も多く、自治体の枠を超えた双葉郡全体の取り組みが必要だ」と指摘している。(河北新報11/9)

この福島大のアンケート調査の結果は、ほとんどの新聞が取り上げていた。意味のある有用なアンケートを実施した地元の福島大を賞讃したい。毎日新聞は図表・地図を付けアンケートの全項目を示したもので力作であった(ここ)。本欄は、地元紙を取り上げることにした。

「戻る気はない」と回答したのは26.9%で、その人たちに理由を尋ねたところ(複数回答可能)、83.1%が「除染が困難」をあげた。本欄で昨日も取り上げたことだが、警戒区域(20km圏)では除染はまったく手付かずの状況であり、その除染も従来の町並みが残らないような徹底したことをする必要があるという。そういう現状を受けて「最終処分場にするしかないのでは」といった悲観的な回答も多くみられた(産経ニュース11/9)。

「戻れる状況になる」と仮定して、何年待てるか、という問いに、「1〜2年」と「2〜3年」を合わせて61.3%になっている。子育て世代にとっての2,3年と年配者にとっての2,3年とはまったく質が違う。34歳以下の半分以上が「戻らない」と回答したのも、もっともなことだと思う。
このアンケート結果に、原発事故のもたらす残酷さを強く感じる。


11/10-2011

(福島)県は9日、佐藤雄平知事と各部長で構成する「原子力関係部長会議」を開き、年内策定予定の復興計画に県内の原発の廃炉を明記し、どう進めるか盛り込む検討を始めた。今月中に素案をまとめ、12月上旬からパブリックコメントを募集。将来的には福島第2原発も含めた県内全10基の廃炉を視野に入れるが、どこまで具体的な表現になるかは不透明だ

県は8月に策定した復興ビジョンで「原子力に依存しない社会」を目指すとしたが、廃炉は明記していない。佐藤知事も第1原発1〜4号機の廃炉は明言しているが、同原発5、6号機と第2原発については「再稼働はあり得ない」と言葉を濁している。県議会が9月定例会で全基の廃炉を求める請願を採択したため、復興計画に県の考えを示す必要があると判断した。

会議では今後、廃炉による雇用や地域経済への影響を検討し、具体的なスケジュールと表現を詰める。野崎洋一企画調整部長は会議後、「復興ビジョンで既に脱原発をうたっており、その先には当然、原発の無い福島がある。(復興計画に)どこまで書くのかは決めていないが、ビジョンの文言を分かりやすく整理する」と話した。(毎日新聞福島県版11/10)

県に廃炉についての直接の権限はないので、廃炉を前提とした復興計画などを示すことで“脱原発”を表明する形になる。
なお、東電は「福島第一原発(双葉町、大熊町)にある原子炉6基のうち、水素爆発などで大きく損壊した1〜4号機については廃炉にすると決めているが、5、6号機と第二原発(富岡町、楢葉町)にある4基をどうするか、判断を先送りにしている」(朝日新聞11/10)状態である。

猪苗代第一発電所ができたのが大正3年(1914)で(当初3万7500kw)、猪苗代-東京の「長距離高圧送電」の成功が有名(ウィキペディア「阿賀野川」の中の「猪苗代発電所」)。戦後東電になってからも、この地域が首都圏の電力生産拠点として重要であった。その歴史的背景の中で、東京電力の原発が、東北電力圏内に作られることになった。
福島県の“脱原発”への方向転換は、こういう福島県の近代史からの転換の意味がある。


11/11-2011

東日本大震災は11日、発生から8カ月を迎えた。警察庁のまとめでは、死者は計1万5836人。行方不明者は、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の6県でいまだに3652人に上る。7月以降は海で見つかる遺体の比率が大きくなっており、岩手、宮城、福島の3県警は沿岸部を中心に捜索を続けている。

3県警管内では9月は、宮城で50人、岩手で11人、福島で1人の計62人が見つかったが、このうち7割以上の47人は海上や海中で漁業者などに発見された。

10月に入ると、遺体の発見は大きく減少し、宮城で10人、岩手、福島の両県ではゼロ。福島では9月19日以降、見つかっていない。

一方、仮設住宅は岩手、宮城両県で計画した約3万6千戸の整備を終え、福島県では約1万6千戸のうち9日現在で1万5545戸が完成。3県全体の9割で入居が済んでいる。(産経新聞11/11)

トップページの写真を、チャバネアオカメムシからチョウ目タテハチョウ科アサギマダラに替えた。

11/12-2011

東京電力福島第一原発事故による放射能汚染の実態について、文部科学省は11日、航空機で測定した放射性セシウムの蓄積量を新たに6県分追加し、計18都県の汚染マップを公表した。これで東日本各地がほぼ出そろった。文科省は西側は群馬・長野県境、北側は岩手県南部で汚染の広がりはとどまったとみている。

追加されたのは岩手、富山、山梨、長野、岐阜、静岡の各県。セシウム134と137の蓄積量でみると、1平方メートルあたり3万ベクレルを超えた地域は岩手県南部(奥州市、平泉町、一関市、藤沢町)、長野県東部(軽井沢町、御代田町、佐久市、佐久穂町)の一部。奥州市と一関市の境、佐久市と佐久穂町の境では6万ベクレルを超える地域があった。

岩手県南部については、事故後に放射性プルーム(放射性雲)が流れ、そのとき宮城県北部にかけての範囲で雨が降っていたため、飛び地状に汚染地域ができた。長野県東部は群馬県から南下したプルームで汚染された可能性がある。(朝日新聞11/11)

この地図は、文科省のサイトhttp://radioactivity.mext.go.jp/ja/にある。11月11日発表分(それだけで17ファイルある)の中の、「文部科学省による、岩手県、静岡県、長野県、山梨県、岐阜県、及び・・・・・」というpdfファイルです。
下図は縮小してあるので、詳しくみたい場合は文科省のサイトからダウンロードすることを勧めます。



ヘリコプターを飛ばしての測定なのだからいつでも可能であり、本来は事故直後から自衛隊などを動員して国家の総力を挙げて緊急調査をすべきであり、それを住民避難の資料として使うためにただちに公表すべきであった。8ヵ月も経ってから文科省が、いわば“参考資料”ないし“除染のための資料”という格で発表したのであり、じつに不満である。

国民の健康を守ることを第一とせず、パニックが起こらないことを第一にする“寄らしむべし、知らしむべからず”の官僚国家のやりかたである。


11/13-2011

事故を起こした福島第1原発の報道陣取材が昨日初めて行われた。バスで周回してくるだけの、きわめて制限された取材であった。しかし、その間バス内で測定した放射線量は正門で毎時15マイクロシーベルト(μSv/h)、最高値は毎時200μSv/hという強烈なものであったという。

その後、緊急時対策本部で吉田所長の記者取材が、これも事故後初めて行われた。
以下は、吉田所長の談話の一部。


同原発では東日本大震災の発生直後、すべての電源を喪失し、原子炉が冷却できない状況になった。吉田所長は「想定が甘かった部分がある。これからほかの発電所もそこを踏まえて訓練、設備を充実させていく必要がある」と事前の想定の不備を認めた。

3月12日の1号機の水素爆発時は免震重要棟にいたが、「まずボンという音を聞き、1号機が爆発しているみたいだという情報が入ってきた」だけで原子炉の状況は分からず、14、15日には3、4号機でも爆発が発生。原子炉格納容器の損傷した2号機への注水も進まず「一寸先が見えない。最悪、メルトダウン(炉心溶融)も進んでコントロール不能になる、これで終わりかなと感じた」という。

その後も高濃度の汚染水漏れなどがあり、危機的な状況を脱したと感じたのは「7、8月」。今後は「(年内に原子炉を冷温停止状態にする)ステップ2を確実に終了させるのが一つの目標。中長期のステップを考え、いろいろな提言をし、作業をこなしていくことが福島県民のニーズに応えることになる」と中長期の取り組みになる覚悟を語った。(毎日新聞11/13)

所長は現場の最高責任者であり、その立場で比較的フランクに語っていると思う。過酷事故を真剣に想定してこなかったのだから、まともなマニュアルがなく、もちろん事前に訓練をしていない。そういう中で「一寸先が見えない」というのが象徴的な表現だと思う。
しかしこれは、恐ろしい、お寒い限りの言葉である。


(追記:11/13)上をアップしてから、東京新聞の同じ取材の記事を読んだが、それには毎時1ミリシーベルト(=1000μSv/h)を計測したと書いている。

しばらく走っていよいよ原発の正門に差しかかると、線量はJヴィレッジの十倍の毎時〇・〇一五ミリシーベルトに上昇した。
 「特に高いのが3号機。近くへ行くと、数値が跳ね上がります」
社員が“予告”した通り、原子炉に比較的近い海沿いの道に差しかかると線量はさらに十倍以上に。
そして、空高く煙を上げ水素爆発した3号機のタービン建屋横に差しかかると、最高値の一ミリシーベルトを記録。ここに一時間いれば、一般人の年間被ばく線量限度に達する値だ。バスもやや速度を上げて走り抜けた。(東京新聞11/13)

11/14-2011

11/12の報道陣への初めての事故原発公開のニュースの中でNHKは、原発事故を振り返って、2つの課題をあげている。ひとつは「冷温停止」を実現すること、もう1つが大量の汚染水の処理だとしていた。そして、その汚染水の処理が困難である理由のひとつに地下水の流入を指摘していた。

もう1つの課題は汚染水の処理です。
福島第一原発では原子炉に注水した水が高濃度の放射性物質を含む汚染水になって施設にたまり、6月中旬には12万トンに上りました。その後、汚染水を浄化処理して原子炉の冷却に使い始め、今月上旬には汚染水はおよそ9万トンに減り、外部に漏れ出すおそれは低くなったとしています。この間、浄化処理した汚染水は15万8000トンに上っていますが、東京電力は、地下水が流入しているため、当初の想定より汚染水が減っていないとしています。このため、今後、地下水の流入を防いで、いかに汚染水を減らすかが大きな課題です。また、浄化処理したあと、低濃度になった汚染水や処理の過程で発生する放射性廃棄物をどのように処分するかも課題になってきます。(NHK11/12)

本欄9/23で、事故原発付近の地下水脈のことを取り上げている。また、東電は地下水の流入量が1日200〜500トンであることを発表している。
産経BIZでは、この問題を10月に取り上げていた。


地下水の流入は、処理した汚染水の量に比べ、原子炉建屋の汚染水の水位が思うように下がらないことから明らかになった。東電の試算では、1日200〜500トンが流入しているとみられる。当初20万トンと見積もっていた処理量が増えるため、作業が遅れるほか、処理に伴って出る高濃度の放射性廃棄物の量が増えることになる。最も懸念されるのは地下水側への汚染水流出だ。原発周辺の地下水は海に向かって流れており、漏れ出せば海洋汚染につながる可能性がある。(産経BIZ10/24)

山側から海側へ流れる大量の地下水脈があり、福島原発はその水脈に底部を浸している。流入量が1日500トンというのであるから、原発敷地付近を流れる地下水脈の全体がいかに巨大なものであるかが分かる。
それゆえ地下ダムの必要性が早くから指摘されてきたのであるが、東電は海側に地下ダムを建設することを発表している(着工は年明け以降)。山側の地下ダムはむしろ悪影響があるという理由で建設を見合わせることにしたようである(この理由など、よく分からぬ)。


トップページの写真を、アサギマダラからハエ目ミズアブ科アメリカミズアブに替えた。

11/15-2011

東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質のうち、半減期が約30年と長いセシウム137が、3月20日からの1カ月間に中部や中国、四国地方の山岳地帯や北海道の土壌に沈着した可能性があることが分かった。米大学宇宙研究協会(USRA)や名古屋大、東京大などの国際チームが14日までに行ったシミュレーションの結果で、米科学アカデミー紀要電子版に発表される。

これらの地域の大半は人体に影響を及ぼしたり、除染が必要だったりする汚染濃度ではないと推定される。ただ、局所的に濃度が高いホットスポットが存在する可能性があり、詳細な調査が必要という。

USRAの安成哲平客員研究員や名大の安成哲三教授、東大の早野龍五教授らは、ノルウェーで開発された地球全体の大気輸送モデル(20キロ四方単位)とヨーロッパ中期予報センターの気象データ、文部科学省の降下物観測データを組み合わせシミュレーションした。

その結果、日本列島へのセシウム137沈着量は1カ月間で1000ペタ(ペタは1兆)ベクレル以上と推定された。福島県を中心に東北、関東の太平洋側の沈着量が多いのは文科省の航空機モニタリング結果などと一致したが、中部、中国、四国の山岳地帯や北海道でも、低気圧が通過した際に同原発からセシウム137の微粒子を含む風が流入し、雨で沈着した可能性が示された。(朝日新聞11/15)


上図は NHK11/15より

本欄11/12 に示した文科省の図は実測値であるが、このシミュレーションはそれも含めた日本全体をカバーするもの。

トップページの写真を、アメリカミズアブから甲虫目ハムシ科サンゴジュハムシに替えた。

11/16-2011

原発の再稼働や運転継続を判断するための安全評価(ストレステスト)について、経済産業省原子力安全・保安院は14日、有識者の意見を聞く会合を東京都内で開いた。出席者からは「ストレステストの有効性を検証する上でも、事故が起きた東京電力福島第1原発を対象にストレステストを実施すべきだ」など、評価の手法などに疑問や注文が相次いだ。

会合には、原子炉工学や安全解析、地震の専門家ら8人が出席。井野博満東京大名誉教授が「ストレステストを運転再開に結びつけるのはおかしい。福島原発の事故は従来の安全審査に不備があったことを示しており、これらの見直しを検討しないままストレステストが行われれば、安全評価が混乱する」と指摘。「原発に批判的な市民らからも意見を聴取すべきだ」と注文をつけた。(毎日新聞11/15)

「ストレステスト」の問題点は、従来の安全審査の枠組をそのままにしているところにある。つまり、“原子力村”の内部の論理をそのまま持ってきて、従来の枠組の何%増しまで堪えられる、という評価をしようとしている。それを運転再開の条件にしようとしている。

何よりもまず、福島事故の原因が何であったかの究明が重要であること。ついで、従来の安全審査の枠組のどこが問題であったのかの究明を行うこと。最低限、そのような議論をする必要があり、それを国民に対して公開する義務がある。なぜなら、犠牲になるのは国民だから。


11/17-2011

東京電力福島第1原発事故による放射能汚染を調べている内閣府原子力被災者生活支援チームは16日、土壌や森林、建物、河川などへの放射性セシウムの蓄積や線量の詳細結果を発表した。地表から深さ2センチ以内にセシウムの大半が含まれており、内閣府は「2センチまで削れば大部分を除去できる」としている

土壌の調査は7〜9月、警戒区域(原発から半径20キロ圏内)の福島県富岡町と、同区域と一部が計画的避難区域にある浪江町で実施。学校や庭、公園、田など地面が比較的固い場所では、セシウムの80〜97%が地表から深さ2センチ以内にあった。森林や果樹園など軟らかい場所では地下に浸透しやすい傾向があったが、落ち葉を含む深さ2センチ以内に75〜88%が存在していた。

森林では、事故後に育った落葉樹の葉が重さ1キロあたり60〜2万6000ベクレルだったのに比べ、事故前からある松や杉など常緑樹は同1万8000〜22万ベクレルと10倍以上蓄積量が高かった。ただし土壌濃度が高い場所でも、果樹の実には、ほとんどセシウムは移っていなかった。

学校は両町で8月に調査。放射線を遮る鉄筋コンクリート造りの校舎では線量が室外の6%にとどまったが、鉄骨造りの体育館では20%に達した。木造住宅では40%だった。河川水はセシウム濃度が1キロ当たり数ベクレルで、飲用に問題のない数値だった。(毎日新聞11/16)

「地面が比較的固い場所」ではセシウムの大部分が深さ2cmまでのところにある。これは、地表を削ることを考えている除染には好都合な情報だ。
しかし、重大で深刻な内容も含まれている。事故以来何ヶ月も風雨にさらされてきたのに、セシウムは流されていかず表層に固着しているということだ。このことは、高圧水洗滌による除染の効果はほとんど期待できないことを意味する。したがって、地表をはぎとる除染しかない、とも言える。

「日刊ゲンダイ」(11/16)に次のような東大の児玉教授の発言があった。
住宅の屋根に付着した放射性物質は素材の中まで染み付いたペンキと同じ。いくら高圧水洗浄しても取り除けません。福島の雨量はチェルノブイリの10倍で、水で落ちる分の放射能はすでに流れ落ちています。放射能を抜本的に隔離するには屋根を交換するしかない。雨どいも交換する必要があります。(日刊ゲンダイ11/16)
児玉教授は同記事で「大成建設、鹿島、大林組」の大手ゼネコン3社に除染の利権を渡そうとしている国のやり方を批判して、来年度除染予算1.2兆円は地元自治体へ渡すべきだとしている(「日刊ゲンダイ」記事はblog「日々坦々」からいただきました)。


11/18-2011

福島市大波地区(旧小国村)のコメから国の暫定規制値(1キロあたり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されたことを受け、政府は17日、原子力災害対策特別措置法に基づき同地区で今年収穫したコメの出荷停止を県に指示した。コメの出荷停止は初めて。

大波地区では農家1戸のコシヒカリ(玄米)から630ベクレルの放射性セシウムを検出。県は16日に同地区の稲作農家全154戸に出荷自粛を要請し、放射性物質の全戸検査をすることを決めたが、政府は消費者の不安を払拭するには、いったん法的に出荷を止めて原因を究明することが必要と判断した。(中略)

 ◇二本松と似た環境

福島県内では予備検査で二本松市小浜地区の農家から規制値と同じ500ベクレルを検出したが、早場米を含め1275地点で実施した本検査では98%が50ベクレル以下。大波地区では本検査2カ所に加え、福島市が独自に4カ所で検査し、すべて検出限界値以下〜53ベクレルだった

今回630ベクレルを超えた大波地区と500ベクレルの小浜地区の2農家から突出して高い値が出ているが、農林水産省は「環境的な共通点がある」とみる。

福島県は小浜地区で高い数値が出た水田について、(1)セシウムを吸着しやすい粘土が少ない(2)稲の根の張り方が浅く、セシウム濃度の高い地表近くから多く吸収した−−などの要因があったとする中間報告を出した。

今回630ベクレルのコメが収穫された大波地区の水田も山あいにあり、森林が近くに迫っているため、農水省は(1)木の葉などに付着したセシウムが雨に流され水田に入った(2)日当たりが悪く、根の張り方が浅くなった−−などが考えられるという。

県は小浜地区のケースを受け、同様の地形をした県内47地点で追加の予備検査を行った。このときの最大値は154ベクレルだったが、47地点に大波地区は含まれなかった。(後略 毎日新聞11/18)

国-県が実施してきた米の放射能検査が、穴だらけの“ザル状態”だったということだ。この地区の農家が「自主的に検査」を受けたことで、たまたま発見されたのである。ということは、すでに出回っている米に高い線量を持つものが含まれている可能性がある、ということになる。
もう一つの問題は、この地区154戸の農家に対して6地点でサンプルを採って検査をした、という検査体制が“ザル状態”であったことになる。15ヘクタールに1地点ということだったそうだが、均一な水田環境(土質、水源、陽当たり)の場合と、山沿いなどの田一枚ごとに環境の違う場合とを区別せず同じ基準でサンプル調査をしている。それでは“穴”が開くのは当然である。

セシウムは半減期が長い(約30年)ので、長期的な検査体制を組む必要がある。今年だけの問題じゃないのである。人手と時間がかかるが、食品の場合は全量検査がやむをえない、ということになるように思う。


トップページの写真を、サンゴジュハムシから甲虫目ハムシ科ドウガネサルハムシに替えた。

11/19-2011

土壌に放射性物質の蓄積が確認されている福島県の水田の一部で、除染をしないまま、土をかき混ぜる「田起こし」が進められていることが本紙の調査で分かった。国などによる除染の実施時期が不透明で、雑草が茂り土地が荒れるのを恐れた農家が行っている。汚染は表土近くに集中し適切に除染すれば安全な農地に戻るが、混ぜると放射性物質が拡散、除去が困難になり汚染長期化の恐れもある。

農林水産省も把握しているが、担当者は「田起こしをして下の土に放射性物質が混じっても根さえ汚染土に触れないよう深く耕せば、問題ないのではないか」と、静観の構え。ただ、実際にそうした耕作が可能なのか確認はしていないという。

十月まで緊急時避難準備区域だった南相馬市原町区で本紙が取材した結果、二割ほどの水田で田起こしが行われていた。同じく準備区域内だった他の四市町村でも、自治体やJAへの取材で、楢葉町を除く田村市と広野町、川内村で田起こしの事例が確認された。
これらの地域では福島第一原発事故後、無条件に水田に作付け制限がかかり、荒れ放題の状態だった。

汚染土壌は地表の土を除去するか、表土と、作物の根が触れない深部の土を入れ替える「反転耕」で耕作可能となる。しかし、安易に田起こしをすると放射性物質が根が触れる範囲にも拡散。除染が極めて難しくなる。

厚生労働省は食品による内部被ばくの規制値を従来の五分の一に厳しくする方針。それに伴い現在の作付け制限値(放射性セシウム濃度が土壌一キログラム当たり五〇〇〇ベクレル)も厳格化の方向で見直しが必要となる可能性が高い。(東京新聞11/18)

水田や畑の除染は、きわめて困難だと思う。「表土をはぐ」といってもデコボコの激しい畝のある表面を、パワーショベルなどの機械できれいにはぎ取るのは無理だ。「プルシャンブルーで染めた布を、畑の畝の溝に敷いておくだけという方法」を開発したという記事を読んだが(人民新聞11/18)、どうなのだろうか。

除染問題では東京新聞がなかなかいい記事を書いている。高圧洗浄機にコンクリの壁 除染で線量低下2割の値も(東京新聞11/16)は現在読める。この記事の中で、高圧水洗滌の効果があまりない理由を、山田国広さん(京都精華大)は「放射性物質は時間とともに岩石成分の結晶にはまりこむ。事故から八カ月たち、コンクリートなどはもはや高圧洗浄では落ちない」と述べている。


11/20-2011

東京電力福島第1原発2号機で、原子炉格納容器下部の圧力抑制プールが地震の揺れで早期に損傷したか、劣化した可能性が高いとする解析結果を19日までに、原子力安全の専門家がまとめた。

東電は、地震による原子炉の明らかな損傷はなく、津波による電源喪失が事故原因との立場。揺れで損傷していれば、福島第1と同様に従来の耐震基準が適用されている他の原発への影響も必至だ。東電や政府の事故調査・検証委員会の調査結果が注目される。
解析したのは日本原子力研究開発機構の元研究者で、社会技術システム安全研究所(茨城県ひたちなか市)の田辺文也所長。(共同通信11/19)

311震災の際、福島原発では地震(14:46)の揺れの後約40分後に津波が到達している。この40分間に何が起こっていたかが、問われている。
東電は、原発被害は津波により全電源喪失したのが原因である、と津波にすべての原因をかぶせようとしている。

地震の揺れに即座に反応して福島原発は緊急停止したのであるが、長い激しい揺れによって津波の来る前にすでに原発は何らかの損傷を受けていた可能性がある。とくに「圧力抑制プール」には大量の水が入っているために水の異常な揺れが装置の損傷や異常作動を引き起こしていた可能性があることが早くから指摘されてきた。
例えばUstreamの政府・東京電力の福島第一原発事故報告批判(11/1、2時間18分)が参考になる。

少なくともこの問題は、福島原発事故の原因究明の重要部分のひとつであることは自明である、とわたしは思う。
上引記事にあるように、この問題が重要であることが認められれば、すくなくとも福島第一と同型の他の原発について同じ問題があることになり、影響が深刻である。影響が深刻であるために、“原子力村”では311原発事故の原因を津波だけに限定しようと意識的に動いているようである。


11/21-2011

政府の行政刷新会議(議長・野田佳彦首相)は20日、東京都豊島区の会場で、国の重要政策の問題点を公開で議論する「提言型政策仕分け」を開始した。初日のこの日は、東京電力福島第1原発事故を受け、抜本的見直しを迫られている原子力政策を検証。40年間研究を続けても実用化のめどが立たない高速増殖炉「もんじゅ」に批判が集中し、来年夏のエネルギー政策策定に当たって「計画の抜本的な再検証を行い、国民の徹底的な納得が必要だ」と、事業の見直しを提言した。

今回初めて実施した閣僚間の討論では、枝野幸男経済産業相がもんじゅの開発について「原子力への投資を省エネルギーに振り向けるべきだ」として、蓮舫行政刷新担当相とともに見直しを主張。それに対し、細野豪志環境相と中川正春文科相は「(もんじゅの廃止後に)使用済み核燃料をどう処理するかをよく考えないと、結論は出せない」などと述べ、検討すべき課題があると指摘した。

仕分けは「もんじゅ」をめぐり、文部科学省が概算要求に含めた来年度の出力試験再開予算の計上見送りを提言。それ以外の研究開発予算も「合理化を図り、事故対策や安全対策に重点化すべきだ」と求めた。 (後略 時事通信11/20)

本欄では「もんじゅ」に関してはかなりよくフォローして来ているつもりだ。最近では先月(10/31)、「もんじゅ」を運営している日本原子力研究開発機構の鈴木篤之理事長が「実用炉をめざす従来の路線」から撤退し研究炉にすべきだ、と述べている。これは、上のニュースの先取りになる。
一年前の本欄(11/10-2010)でわたしは、「もんじゅの試運転再開ははるか先に遠のいた、というより、もう不可能かも知れない」と述べている。
本欄の一番古い記事は2002年で(11/17-2002)、1996年のナトリウム漏れで頓挫し「事実上ストップしている」と書いているが、それから14年半ぶりの2010年5月に運転再開、ところがわずか3ヶ月後に燃料交換装置の一部が炉心に落下する事故を起こし停止。それをやっとのことで引き抜いたのが今年の6月24日だった。


11/22-2011

東京電力福島第一原子力発電所事故で海に流出した放射性セシウムが、原発から東に約3500キロ・メートル離れた海域まで達している可能性が高いことが、海洋研究開発機構の想定実験でわかった。
機構は「濃度は低いため、健康には影響のないレベル」としている。

機構の升本順夫プログラムディレクターらが海水中の放射性物質濃度の測定値や、海水の流れ、風向きの変化などから、拡散状況を推定。その結果、11月1日時点で、放射性セシウム137は、解析範囲の東端に当たる原発東方の沖合約3500キロの日付変更線付近まで拡散していることがわかった。ほとんどは濃度が海水1リットル当たり0・01〜0・5ベクレルだったが、一部には1〜5ベクレルの場所もあった。

事故前の平均的な濃度は0・001ベクレル程度。今回の推計値は、その10〜5000倍に高まっているが、国が定めた飲料水の摂取制限の暫定規制値(1リットル当たり200ベクレル)は大きく下回っている。(読売新聞 11/22)

原発事故による海洋汚染は世界的な問題であるので重要であると同時に、日本人の食生活に直接かかわるので深刻である。グリーンピースによる神奈川・千葉などのスーパーで売られている魚の調査で、「マダラやメバチマグロといった大型魚にセシウム汚染が広がっていること。生物濃縮が進んでいる表れとみています」と発表している(日刊ゲンダイ11/17)。

また、海洋汚染は表層だけでなく、深海にまで及んでいることも発表されている。


東京電力福島第一原発から出た放射性セシウムが事故から約1カ月後に、2千キロ離れた深海5千メートル地点まで到達していたことが、海洋研究開発機構の観測でわかった。大気中のセシウムが海に落ち、プランクトンの死骸などに付着して沈んだようだ。20日、都内で開かれた報告会で発表された。

同機構は4月18〜30日、福島から2千キロ離れたカムチャツカ半島沖と、1千キロ離れた小笠原列島沖の深海5千メートルで、プランクトンの死骸や砂などからなる1ミリ以下の粒子「マリンスノー」を採取して分析した。この結果、両地点でセシウムを検出した。セシウム137と134の比率などから、原発から出たものと判断された。濃度は解析中という。海洋中の放射性物質は、海流のほか、様々なルートで移動、拡散している実態が裏付けられた。(朝日新聞11/20)

この海洋研究機構の発表は、事故から1ヵ月後のサンプルによる実測値であることが重要である。そのプランクトンなどを食べた魚に放射性セシウムが移り、いまは大型魚に放射能が現れつつあるということである。

11/23-2011

東京電力が来年の夏に向け、保有する全ての原発が東日本大震災の影響や定期検査で停止しても、火力発電や揚水式発電の増強により、今夏の最大供給力を上回る約5700万キロワットを確保できるとの試算をまとめたことが22日、東電関係者への取材で分かった。

東電は福島第1原発事故後も「原子力は重要な基幹電源」との立場を変えていないが、実際には原発がなくても計画停電などの影響が出ない可能性が高い。原発を中心とした供給計画を立てているほかの電力会社にも影響を与えそうだ。

国内の商業用原子炉54基のうち、東電は電力会社トップの17基を保有している。(共同通信11/22)

この結論自体は早くから指摘されていたが、東電自身がそれを認め発表したのは初めてだろう。

11/24-2011

東京・霞が関の経済産業省庁舎前(千代田区)など都内三カ所の路上に堆積していた泥から、微量の放射性ストロンチウムが検出されたことがわかった。福島第一原発から約250キロとより遠い横浜市港北区のマンション屋上の泥などからも十月中旬に確認されている。ストロンチウムについて文部科学省は同原発から半径百キロ圏内でしか土壌調査しておらず、専門家などから調査範囲の拡大を求める声が上がっている。
調べたのは、港北区の自宅マンション屋上でストロンチウムを突き止めた教員男性(38)らの住民グループ。

十月上旬、経産省前のほか、東京国際フォーラム前(千代田区)と都営地下鉄清澄白河駅前(江東区)にたまった土壌を採取し、横浜市鶴見区の民間検査機関・同位体研究所に測定を依頼した。

検査結果によると、ストロンチウムは1キログラムあたり最大が東京国際フォーラム前で51ベクレルを検出。経産省前が48ベクレル、清澄白河駅前は44ベクレルだった。

一方、放射性セシウムについては経産省前の4万8000ベクレルが最大。東京国際フォーラム前が2万955ベクレル、清澄白河駅前は1万9127ベクレル。これらは国や東京都が全く把握していないデータだ。

横浜市は男性の指摘を受け、十月中旬、市内三カ所からストロンチウムを検出し、福島第一の由来であると発表。市はストロンチウムの調査範囲を拡大するよう国に求めたが、文科省はまだ横浜の土壌の検査中という。

ストロンチウムの広範囲な汚染の一端を明らかにした男性は「国は食品のストロンチウムの規制値も示し、食品検査に結び付けてほしい」と話す。
国は現在、食品に含まれるセシウムの規制値を見直し作業中だ。暫定規制値ではストロンチウムが除外されている。

厚生労働省の担当者は「今の規制値でも、セシウムが検出されれば、ストロンチウムは10%を超えない割合で存在しているという前提でいる。来年四月までに新しい基準を示すが、ストロンチウムの具体的な数値を示すかも検討している」としている。(東京新聞11/24)

国(文科省)がはじめてストロンチウムの原発80q圏での飛散状況を発表したのは10/2、民間人によって横浜のマンション屋上でストロンチウムが検出されたというニュースは10/29のことだった。

セシウムと同時にストロンチウムが全国に飛散していると考えておかないといけない。上掲のニュースの末尾の厚労省コメントでも分かるように、国はこの問題について腰が引けた対応に終始している。


(追記11/25)文科省は横浜での土壌について追試を行い、1.検出されたストロンチウムは原発事故以前からあった可能性が大きい、2.横浜での民間機関の測定値は、ストロンチウム以外の自然核種からの放射線を合わせて測定していると思われる、と発表した(朝日新聞11/24など)。「ストロンチウム 横浜は原発と関連なし」というような見出しで各紙が報道した。

11/25-2011

3月の東日本大震災に伴う津波の被害を受けた福島県相馬市の松川浦で、貝など水底に生息する生物(底生生物、ベントス)の種の数が震災後に半減していることが東北大の調査で分かった。底生生物は沿岸の生態系の基礎になり、水産業復興のためにも種の多様性を回復させる取り組みが求められる。

松川浦は水深最大約5.5メートル、面積738ヘクタールの大型干潟。海水と真水が混合した塩分の低い汽水湖で、ノリやカキの養殖、潮干狩りが盛んだ。

調査は、全国約1000カ所で継続的に実態調査を行う環境省や松川浦で水産業支援に取り組む環境団体「世界自然保護基金(WWF)ジャパン」の委託を受けて、鈴木孝男・東北大助教(底生生物生態学)が実施した。

環境省の震災前の調査では干潟全域で約190種の底生生物が確認されていたが、震災後には83種しか確認できていない。特に被害が大きかった調査地点では、昨年5月には55種確認できたが、今年6月には24種、同9月にも26種しか確認できなかった。

津波によって表層の土ごと流されたとみられ、特に表層に生息する種が減少し、巻き貝類で絶滅が懸念されている「カワアイ」や「フトヘナタリ」は震災後見つかっていない。通常は土に潜っている二枚貝の「オキシジミ」「サビシラトリガイ」なども、表面に巻き上げられた死殻が多く見つかった。底生生物全体の個体数も激減しているという。

環境省生物多様性センターによると、松川浦のほか、岩手県大槌町の干潟で、津波の被害で魚の生息場となる藻場のほとんどが消失し、宮城県南三陸町の志津川湾でも海藻に被害が確認されている。

鈴木助教は「干潟や藻場に生息している底生生物は稚魚の餌になり、食物連鎖の中心的な役割を担う。水産業の復興のためには、種が残った場所を保全し、干潟の状態を回復させて多様性を取りもどす取り組みが欠かせない」と指摘する。(毎日新聞11/25)

これは原発事故とは無関係の、純然たる地震-津波による沿岸の底生生物の被害調査である。人間中心に震災被害を考えてしまいがちだが、こういう生物たちにとっても甚大な被害が及んでいることをあらためて思う。

福島第1原発から松川浦は約40km北方である。阿武隈川河口は同じく約70q北方だが、阿武隈川から流れ出している放射性セシウムの量は1日あたり525億ベクレル(8月時点)と見積もられる。これは事故原発か海へ流出した総量(4月時点)での10万分の1ほどという(読売新聞11/24)。
原発事故の観点からも生態系への影響を考えていかないといけない。流出放射能は生物濃縮によって人間にはね返ってくる可能性がある。


11/26-2011

福島県は25日、福島市大波地区(旧小国村)で今年生産されたコメを対象に行っている全量調査で、検査を終えたコメ864袋(1袋30キロ)のうち、15%に当たる131袋から国の暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)を上回る放射性セシウムが検出されたと発表した。検出されたセシウムの濃度は最高で1270ベクレルだった。

同地区のコメはJA新ふくしまの倉庫や、生産農家などに保管されており、市場には流通していない。政府は17日に同地区のコメの出荷停止を県に指示している。

記者会見した県農林水産部の鈴木義仁部長は「複数戸から(暫定規制値を超えるコメが)検出されたことを重く受け止める」とした上で、「不安を払拭するため、なるべく早く全体像を把握したい」と強調した。

県が8月下旬から10月中旬にかけて実施した放射性物質の検査を擦り抜ける形で、暫定規制値を超えるコメが新たに見つかったことで、東京電力福島第1原発事故による食品の放射能汚染に対する消費者の不安や、国・県の安全管理体制への不信感が一段と高まりそうだ。(時事通信11/26)

国や県が“検査をしました、安全でした”と言っても、それを信用できないというあからさまな実例が出た、しかも、主食の米で、15%も、という結果は深刻だ。
そもそも、500Bq/kgという“暫定基準値”そのものが高すぎるという批判が最初からある。加えて、検査手法そのものに対する不信が噴出することは避けられない。


トップページの写真を、ドウガネサルハムシからカメムシ目ヒメヘリカメムシ科スカシヒメヘリカメムシに替えた。

11/27-2011

政府の地震調査委員会は25日、東日本の太平洋沖を震源とする地震の発生確率を公表した。南北800キロに及ぶ三陸沖北部から房総沖の日本海溝付近で起こる地震の発生確率について、マグニチュード(M)8以上の規模が今後30年以内で30%とする予測を公表した。東日本大震災に匹敵する大津波が生じる可能性もあるという。また、大震災と同じ震源域で発生するM9級の巨大地震は平均600年間隔と分析した。

地震調査委は、今回のような巨大地震を想定できず、地震規模や確率の評価手法を見直している。

日本海溝付近の領域では、明治三陸地震(1896年)や慶長三陸地震(1611年)など過去に大きな被害をもたらした津波から、地震の規模を予測、統計処理し直した。
その結果、揺れの割に大きな津波を引き起こす特性から、この領域に限り、津波の高さから地震の規模を算出する「津波マグニチュード」(Mt)を採用し、最大規模をMt9と想定。30年以内の発生確率も20%から30%に引き上げた。明治三陸地震(M8・2)では大震災と同程度の高さ38メートル以上の津波が遡上したことから、同程度の津波が襲う可能性があるとした。

これらの地震と大震災では震源が異なるが、この場所では、貞観地震(869年)や大震災など5回のM9級地震が起きたと認定。ただし、大震災でためこんだエネルギーが解放され、M9級の30年以内の確率は0%とした。一方、地震調査委が予測してきた7領域のうち、宮城県沖はM7・5前後の30年確率を99%と評価していたが、震源が重なる大震災の影響で地殻の変動が続いていることから、発生確率を「不明」とした。三陸沖南部海溝寄りではM7・7前後からM7・9に引き上げられたが、30年確率は90%からほぼ0%になった。(毎日新聞11/26)

巨大地震(マグニチュード8.4〜9.0)が日本付近で生じるのは過去2500年間に5回確認されている、と認定したという(NHK11/25)。そういう歴史的・統計的手法を地震調査委が正式に採用したということ。これは、311大震災を引き起こした巨大地震をまったく予測できなかった(想定さえできていなかった)ことへの、一定の反省に立つものである。
「津波マグニチュード」は阿部勝征(今の地震調査委の委員長)が1981年に考案したもの。津波の高さと到達範囲からマグニチュードを導く(ウィキペディア「マグニチュード」による)。なお、311大地震のまとめとして中央防災会議・阿部勝征東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の特徴と課題(4/27)は、有用。

YouTube(約17分、映像無し)の反原発メッセージソング、 Fryng Dutchiman 「HUMAN ERROR、いいね。


11/28-2011

高速増殖炉「もんじゅ」については、本欄11/21で仕分けの対象になるというニュースを取り上げたが、その後に細野・原発事故担当大臣が「廃炉を含めた抜本的な見直し」という方針を発言した(毎日新聞11/27)。

「もんじゅ」は国が長年掲げてきた「核燃料サイクル」の中核であるから、「もんじゅ」を廃炉にすることは「核燃料サイクル」を放棄することにつながる。ことは重大で、影響するところ大きい。MOX燃料を燃やす「プルサーマル」という欺瞞的な手法をなんとか続けるか、すべてをあきらめて、使用済み燃料をそのまま保管するか、というところまで(国の政策は)追い詰められている。

つぎは、昨日の毎日新聞。


(前略)高速増殖炉は、燃やしたプルトニウム以上にプルトニウムを増やせるため、資源の乏しい日本にとって「夢の原子炉」と言われたが、95年12月、もんじゅで火災事故が発生、運転を停止した。

再開見通しが立たない中で始まったのが、プルトニウムを既存の原発でウラン燃料と合わせて燃やす「プルサーマル」。97年に計画が認められ、2010年までに16〜18基の原発で実施する計画だったが、立地自治体の了解を得るのに難航した。

火災事故以降、政府はプルサーマルを高速増殖炉と並ぶ核燃料サイクルの基軸と位置づけた。高速増殖炉を断念しても、片方の軸のプルサーマルを使っての核燃料サイクルは可能だ。しかし、東京電力福島第1原発事故後、既存の原発の再稼働すら見通しが立たない。また今後、新たな原発を造らず、寿命の原発を廃炉にする「脱原発依存」政策を進めれば、核燃料サイクルは成立しない。そうなれば使用済み核燃料は、再利用せずそのまま処分する道しかなくなる

もんじゅを廃炉にするならば、使用済み核燃料の処分方法や、日本が保有しているプルトニウムの扱いなど、解決の難しい問題にも、道筋を付ける必要がある。もんじゅを含めた日本の原子力政策の全体像は、政府のエネルギー・環境会議が来夏までに決めるが、課題は山積している。(後略 毎日新聞11/27)

なお、アメリカは使用済み核燃料をそのまま保管(最短でも数万年保管)するという“ワンス・スルー方式”であるが、再処理をやっているのはフランス・イギリス・ロシアぐらいで、多くの国はやめている。日本では東海再処理施設で少しやっているが、六ヶ所村の再処理施設が運転できないでいる。ウィキペディア「再処理工場」を参照のこと。

トップページの写真を、スカシヒメヘリカメムシからカメムシ目カメムシ科ナカボシカメムシに替えた。

11/29-2011

飯舘村で、住民団体がおこなったアンケートの結果をもとにした東京新聞のレポート。村の除染や復興の計画と、個々の村民の意識とのズレを示そうとする良いレポートだと思う。ただし、少々古い。住民集会が持たれたのが 10/4。アンケートが公表されたのが 10/20。

福島第一原発事故による汚染に悩まされる福島県飯舘村で、早期の除染と二年後がめどの帰還を掲げた村の復興計画をめぐり、村民と微妙な認識のずれが生じている。住民団体が実施したアンケートでは、除染の効果や早期帰還に懐疑的な声が大半だった。団体のメンバーは「戻っても収入源を絶たれては生活できない」と、移住費用など複数の生活支援策を訴える。 (押川恵理子)

住民団体「負げねど飯舘!!」が先月、村の事故対応を考える村民集会を開き、集まった約160人にアンケートして44人から回答を得た。

村が二年後に住環境の除染を終わらせる目標を立てていることに対し、「可能性はない」「低い」との答えが、合わせて86%に上った。住民が除染を担うことにも、「反対」「どちらかというと反対」が計68%に達した。

二年後に村へ帰って生活するか、との問いには、「しない」「できればしたくない」が計59%を占め、原発事故前の生活に戻る可能性は「低い」「ない」が77%、「ある」は0%だった。

村は除染費用を3千224億円と試算するが、「除染費用で土地を買い上げてほしい。(そうすれば)2年を待たずに次の生活が始められる」「まず現在の生活を安定させるべきだ」などの意見も寄せられた。

村民が厳しい現実認識をもっていることをうかがわせるアンケート結果。実施団体の理事を務める佐藤健太さん(29)は「回答者数は少ないが、村と考えが違う住民がいるのは事実。戻るのも、戻らないのも答え」と、「帰村ありき」の政策を疑問視する。

村の計画では、農地は五年、森林は二十年かけて除染を進める。佐藤さんは「それまで農業、畜産はどうなるのか。再開が難しい中、二年後に戻っても…」と話した。

計画的避難区域の飯舘村は放射線量がいまだに高く、約6千人のほぼ全村民が避難している。総面積約230平方キロのうち除染が困難とされる森林が75%を占め、その中に民家が点在する。

村は希望する高齢者らから帰還を進める方針だが、「被ばくを心配する孫や子どもたちとは離れ離れになる。二世帯、三世帯同居が多かった飯舘村は家族の絆が強く、離れ離れの暮らしが幸せなのか分からないという年配者は多い」と佐藤さん。「家族間でも被ばくや生活への考え方が違い、村民はばらばらになった。放射能は人間関係も切っていく」と原発事故の被害の深刻さを訴えた。(東京新聞11/28)

アンケートの回収率が44/160(約28%)であり、おそらく村の復興計画などに意識的な村民が、より多くアンケートに協力したであろうから、批判的な意見が強く出ている可能性はある。その分割り引いて考える必要があろうが、しかし、難しい問題だ。

あまり効果が期待できない、しかも、時間のかかる除染に大きな予算を掛けることが、本当に正しいことなのか。除染は帰村を前提にして行われるであろう。残る選択肢は集団移住か個々バラバラになるのにまかせるか、ということしかなかろう。
しかしすでに、個々バラバラの現状が進行しつつあるのではないのか。

サイト「負げねど飯舘!!」にこのアンケートが公表されている。ここ

飯舘村の放射能汚染の様子を知るには、つぎの記事が迫力がある。 鳥賀陽 弘道「放射性物質にねらい打ちされた村」(10/6)(飯舘村に入って各所を歩いたレポ。ただしJBpressに登録(無料)の必要があります。)


11/30-2011

TBS報道特集(11/26放送 youtube 約24分)元東電社員の告白 辞めたワケと20年前の“ある事故”

木村俊雄という男優と見まがうようなかっこいい男が、土佐清水の砂浜海岸でサーフィンを楽しんでいるシーンから始まる。氏は40代後半で、東電学園出身。福島第一の運転をしていた。

番組が言う“ある事故”というのは1991年に起こった次のようなトラブル。1号機で、海水配管の腐食穴から海水が漏れ出していて、それが防水していない電気配線管を伝って施設内に広がり、ディーゼル発電機室にも膝上くらいまで溜まっていた。ジーゼル発電機は完全にダウンしていた。
そのトラブルはそれだけで大事には至らなかったのだが、木村氏は上司と、そのトラブルは原発が津波対策をする必要があることを意味しているということについて会話した。上司も肯定した。

木村氏は、自分が社内で出世できないこと、使用済み燃料の捨て場所のない原子力発電に将来性がないことを感じ、2001年11月に依願退職した。

2004年12月のスマトラ沖地震で大津波が伝えられた後、木村氏はミニコミ誌に、原発では津波が炉心溶融を導くことを述べた投稿をしている。それは311福島事故を正確に予言するものになっている。

氏は土佐清水で不耕起の農業をはじめている。その一方で電気設備についての技術を生かして小規模水力発電設備の設置や太陽電池設備の普及の仕事もしている。
番組全体を通して、木村氏が独力で思考して生きていく知的な人間であることが伝わってくる。




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【新たに、き坊のノートにアップしました】

笹谷良造 「天保五年の大臺登山記」

約44kB

仁井田長群 「登大台山記」

約44kB
これらはいずれも、昭和10年(1935)の「大和志」に載ったもので、わたしが読みたいと願っていたものである。このたび、奈良の田村義彦さんのご厚意で、抜刷をお送りいただき、やっと願いを果たすことができた。田村さんのご了解もいただき、ここに、電子化して公開することにした。

上の笹谷良造「天保五年の大臺登山記」が「大和志」に掲載されているものにできるだけ忠実に電子化したもの。下の仁井田長群「登大台山記」はそれに含まれているのであるが、《読みやすさを重視して》ふりがなを施し、漢字を減らしたりの工夫をしたものである。

この種の文献公開は、誤入力などがあっては台無しである。そのことに十分意識して努力したつもりであるが、誤記や、わたしの無学ゆえの誤謬(特に歴史的かな遣いに関して)があると思う。お気づきの方は、ぜひお知らせいただきたい。
しばらくは暫定稿のつもりで、公開いたします。
2011-11/15


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