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第八巻 59
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山の芋賣

暖簾師と称する者
山の芋の偽物を並て
自ら 極く朴訥なる田舎
者らしき粧をなして
買人を瞞着するもの也

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【暖簾師 のれんし】悪い品をごまかして売りつける商人。インチキ品を売るテキ屋。のうれんし。(大辞泉など)
信用ある店のノレンや商標を利用して欺すところからきた名前。

紀田順一郎『東京の下層社会』(ちくま学芸文庫2000)は、近代東京の下層社会を書いた書物を博捜し紹介している労作であるが、大我居士(櫻田文吾)『貧天地饑寒窟 探検記』(日本新聞社 明治26年)を取りあげている。櫻田が下谷万年町(元の山崎町 安政江戸図はここ)の貧民街に潜行したルポの中に職業多数を列挙しているが、その中の「青物買」は「暖簾師」のことであるとして、興味深い解説をつけている。
青物買というのはおそらく暖簾師というインチキ行商のことだろう。青物市場や八百屋、農家などから残り物を仕入れ、しなびた葉や茎を整えて新鮮な品物のごとく見せかけて売るのである。同じ詐術を腐った魚や鶏卵、干物などにほどこす商売を宮物師といい、悪臭を放つ鯖に石灰を降りかけて信濃まで売りに行ったり、鰹節の虫食い穴に続飯(そくい 飯粒をつぶした糊)をかませて売りつけるなどは朝飯まえだったという。暖簾師を一名方角屋といったのは、二度と同じ方角で商売をすることができないため、毎日出かける方角を変えたことからだそうな。ちくま学芸文庫 p45 強調は引用者
なお『貧天地饑寒窟 探検記』は国会図書館がデジタル公開している。

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