き坊の近況 (2019年6月)


旧 「き坊の近況」

【2019年】: 06 05 04 03 02 01 月

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日々の見聞や関心事を示して、自分の心的近況を表そうとしている。とくに準備なしで書けるような、「朝刊を開いてひとこと」というようなことを試みている。さらに、生活上の随想なども書く。

6/1-2019
福島県のイノシシ捕獲3万頭超 震災前の10倍に(河北新報)


福島県で2018年度に捕獲されたイノシシが3万頭を超え、東日本大震災前の約10倍に達する見通しとなった。イノシシは農業被害や交通事故を引き起こす上、東京電力福島第1原発事故で避難した住民の帰還の妨げにもなっていることから、県は今後も「最大限の捕獲」を続ける方針。

県がまとめた捕獲頭数の推移はグラフの通り。震災前は3000頭台だったが、13年度に1万頭、16年度に2万頭を超え、18年度は初めて3万頭以上になるとみられる。正確な頭数は夏ごろまとまる。

県内では中山間地の人口減少などで、イノシシの生息域が拡大している。県は18年度に策定したイノシシ管理計画(19~23年度)で生息数を5万4000~6万2000頭と推定。前期計画(15~18年度)の4万7000~4万9000頭から上方修正した。

捕獲の手法は、14年度までは市町村による有害鳥獣捕獲と狩猟免許を持つ個人による狩猟で、15年度に県から猟友会などへの委託が加わった。捕獲の機会自体が増えたことも捕獲頭数増加の要因と考えられる。

イノシシは稲などを食い荒らし、県内では毎年5000万~1億円の被害が生じている。原発事故の避難区域ではイノシシが住宅の扉や壁を壊すなどして、避難指示解除後の住民の帰還意欲をそぐケースもある。

現行のイノシシ管理計画は年間の捕獲目標を2万5000頭以上と定める。県自然保護課は「被害を防ぐため、関係機関と連携して捕獲を進める」と話した。(図も 河北新報6/1)

もともとは放射能被害からの住民避難である。強制避難も自主避難もある。東電のフクイチは溶融した核燃料(デブリ)を炉心に抱えたまま、ガス状放射性物質を吐きだし、大量の汚染水を日々作り出している。汚染水のうち補足されていない地下水は海へ流出しているであろう。つまり、8年前の大事故は基本的に少しも押さえ込まれていないし、安心できる状況にこぎつけているわけでもない。強い地震が再び襲う可能性はつねにある。

地域の人口減少によって、イノシシに限らず野生動物の増加が著しい。田畑が荒野化し、人手の入らない山林が荒廃している。それらの相乗効果によって、福島県の山間部ではますます住民帰還が敬遠される。国は、実害があろうがなかろうがすべてを「風評」と言って封じ込めてしまおうとしている。
上のイノシシ捕獲数増加のグラフから、この地方を襲っている様々な災厄が読み取れる。


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6/2-2019
原発事故、がんと関連否定 子どもの甲状腺検査 福島県が3日報告(東京新聞)

東京電力福島第一原発事故後当時18歳以下だった福島県内全ての子どもを対象とした甲状腺検査で、2014、15年度に実施した2巡目の検査で見つかったがんと被ばくに関連性がないとする中間報告を、県が設置した専門家による部会がまとめたことが31日、関係者への取材で分かった。被ばく線量が高いとがん発見率が上がるといった相関関係が認められないことなどが理由。福島市で6月3日に開かれる部会で報告する。

基礎データ収集が目的の1巡目と違い、事故後3~5年目に実施した2巡目は事故の影響を調べる「本格検査」と位置付けている。専門家による2巡目の見解が初めてまとまったことで、今後の検査の在り方に影響を与えそうだ。

関係者によると、国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が県内59市町村ごとに推定した甲状腺被ばく線量を使い、がんが見つかった子どもの年齢や市町村と突き合わせて分析。約38万人を対象とした2巡目で52人のがんが確定し19人に疑いが見られたが、線量の増加に従ってがん発見率が上がるという関連性はなかった。

対象者が全国に散らばり受診率が低下していることが課題で、各都道府県ががんのデータを集めた「地域がん登録」などを活用していく必要があるとした。

原発事故で放出された放射性ヨウ素は甲状腺にたまってがんを引き起こす恐れがある。福島県は、放射線の影響が表れる前に子どもの甲状腺の現状を把握するため1巡目となる「先行検査」を11~13年度に実施。101人ががんと確定したが、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と比べて被ばく線量が低いことなどから「放射線の影響とは考えにくい」とする中間報告を15年に発表していた。

昨年5月からは4巡目の検査が始まっている。これまでがんの確定は168人、疑いが43人に上っている。(東京新聞6/1)

福島県において、甲状腺ガンの子供(確定+疑い)が211人の多数にのぼっている事実は確かだ。つまり、甲状腺ガンの多発である。これを、どのように説明するのか。

「被曝線量との相関がない」ということの説明を詳しく知りたい。被曝線量をきちんと測定していないのではないか、というような疑いがすぐ出る。放射性ヨウ素(ヨウ素131)は半減期約8日であって、311事故の直後の各地での組織的な測定がぜひ必要であったが、国は積極的に動こうとしなかった。それどころか、ヨウ素剤(安定ヨウ素127によるヨウ化カリウム)の服用をさせなかった(一部の自治体で国・県の指示を無視して服用させた)。

甲状腺ガンの多発の説明は放射性ヨウ素の摂取以外になく、「県の部会」はたんに「被曝に関連性がない」と言うだけでは無責任である。多発の理由を説明する義務がある。
わたしは、被曝線量(ヨウ素131の摂取量)の測定が不充分であったのではないかという推論が否定されない、と考えている。


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6/4-2019
福島第1原発事故 被ばくと甲状腺がん「現時点で関連なし」 福島県が結論(毎日新聞)

東京電力福島第1原発事故後、福島県が当時18歳以下の県内の子どもを対象に実施している甲状腺検査で、有識者による県の評価部会は3日、2014、15年度に実施した2巡目の検査で発見された甲状腺がんと被ばくに「現時点で関連はない」とする結論をまとめた。

検査では甲状腺がんの発見率が、発生当時、原発近くに住んでいた子どもほど高かった。だが、受診時の年齢などを考慮したところ、被ばく線量が高いとがんの発見率が上がる相関関係はなかった。

ただ、個別の被ばく線量が評価されていないことや、検査未受診者のデータがないことなどから、各委員からは今回の結論は暫定的な評価であることを強調する声が相次いだ。鈴木元・部会長は「未来永劫(えいごう)放射線の影響がないと結論付けたわけではない」と話し、当面は過剰診療などのデメリットを提示した上で、甲状腺検査を継続する必要があるとした。
今後、文言を微調整した上で、上部の検討委員会に報告する。

事故後4~5年目の2巡目の検査は原発事故との影響を判断するのに重要で、38万人を対象に実施し、71人にがんが見つかったか疑いがあり、そのうち少なくとも52人が手術した。(毎日新聞6/4)

この会議はOuterPlanet-TVの動画「アーカイブ】第13回甲状腺検査評価部会」(1時間55分)、およびYouTube「記者会見」(40分)で見ることができる。
この会議で使われている資料は福島県のサイトの一括資料(PDF)でダウンロードできる。


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6/7-2019
再処理資金1.6兆円不足 原発減で、市民団体試算(共同通信)

日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村、建設中)の建設や運転、廃止措置などに必要な資金が少なくとも1兆6千億円不足するとの試算結果をNPO法人の原子力資料情報室が4日、公表した。総事業費は13兆9千億円で、資金は、使った燃料の量に応じて電力会社が支払っているが、原発が減って燃料の量が想定を下回るためとしている 。

同情報室は、資金確保のため、電気料金値上げなどにつながる恐れがあると指摘している。

再処理は、使用済み燃料からプルトニウムを取り出す作業。六ケ所工場では合計3万2千トンを再処理する計画とされる。(共同通信6/4)

「何のために再処理をするのか」が重要だ。使用済み核燃料から取り出したプルトニウムの使い道は、原爆を作るか、核燃料サイクルの燃料とするかのどちらかしかない。わが国はすでにプルトニウムを47トン余(2017年発表 ここ)も保有しており、国際的にプルトニウムを減らすように圧力が掛けられている。

わが国が原爆製造に踏み切ることは問題外だ、としてよかろう。
核燃料サイクルの要となるもんじゅは解体することになって、すでにその作業に入っている(難航しているが)。つまり、核燃料サイクルもすでに実行は不可能である。

不要なプルトニウムのために電気料金が値上りしかねないなど、ごめんだ。核燃料サイクルをやめ、未完成の核燃料再処理工場は一日も早く建設中止とすべきだ。

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6/9-2019
<福島・中通り原発集団訴訟>住民側提案で和解勧告「消耗戦」心身ともに限界、苦渋の選択(河北新報)


福島第1原発事故を受け、福島県中通り地方の住民52人が集団提起した損害賠償請求訴訟で、福島地裁は住民、東電の双方に和解勧告することを決めた。原発事故後、各地の住民が提起した集団訴訟で和解勧告が出るのは極めて異例。住民側が望んだ勧告で、事故から歳月を経た中での苦渋の選択だった。

多くは安堵の声
 会議室に女性のすすり泣く声が響いた。
 「毎日不安だったが、頑張ってきて良かった…」
勧告方針が示された5月28日、住民約20人が福島市民会館に集まった。「これからは穏やかに暮らしたい」「正直ホッとした」。率直な思いを次々打ち明け、その多くは安堵感だった。
住民は2016年4月に提訴。訴訟終盤の今年3月、地裁に「和解勧告してほしい」と訴えた。裁判を起こした原告側から「和解を」と切り出すのは一見、真意が分かりにくい。
通常、和解は裁判官が「この事案は話し合いで解決できそうか」を見極め、提案することが多い。原発集団訴訟で和解勧告した例が他にないのは、東電に対する峻烈な住民感情が影響している。
中通り訴訟の住民も「東電は裁判でも不誠実な対応を続け、許すことはできない」と口をそろえる。一方で「心身ともに限界」との本音も共通した。

原発事故から8年3カ月。原告の多くが60~80代で、がんを患っていた女性が提訴後、70代で亡くなった。
原告の平井ふみ子さん(70)=福島市=は「みんな疲れ果て、控訴、上告となれば次々脱落するのが目に見える。訴訟は負担が大きく、普通の主婦が手を出せるものではなかった」と話す。植木律子さん(72)=同=は「訴訟が常に頭にあり、次の人生を歩めない。悔しさと絶望でいっぱいだが、もうこれしか道がない」と語った。

逃げ得との批判
近年、原発集団訴訟はこうした「消耗戦」の様相が顕著になってきた。福島県浪江町の1万5788人が13年に申し立てた和解仲介手続き(ADR)では1000人超が死亡。後の訴訟に参加した町民は現時点で224人だけだ。東電が和解拒否を続けると結果的に請求総額が減り「逃げ得」との批判が出ている
 他方、中通り訴訟で住民代理人を務める野村吉太郎弁護士は「裁判所が命令する判決と異なり、東電が非を自主的に認める和解には大きな意義もある」とプラス面を強調。「既に住民は金銭を期待していない。東電にはただ和解案の受諾を望む」と述べた。

地裁は秋にも和解案を示し、和解が成立すれば原発集団訴訟で全国で初めて。
東電は過去、各地のADRで「個別事情を考慮しない一律の慰謝料増額は公平でない」と和解拒否を度重ねた。福島地裁は今回、各住民の事情を考慮した個別の支払額を示すとみられ、東電の対応が焦点となる。(表も 河北新報6/7)

この記事を読んでいて腹が立ってくる。そして、悲しくなってくる。

東電を「逃げ得」にし、何の落ち度もなかった住民に「悔しさと絶望でいっぱいだが、もうこれしか道がない」と言わしめるのが、今の日本の在り方だ。

福島県は、公務員宿舎に入っている自主避難者が「未退去」であるため、家賃の2倍に相当する「損害金」を今月中にも世帯宛てに請求する方針であるという(河北新報6/8)。血も涙もない冷酷なやり方だ。県が損害を蒙るというなら、東電に請求したらどうなんだ。


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6/13-2019
東電「ADR個別に」和解拒否後、被害者にDM(河北新報)

東京電力福島第1原発事故の被害者が集団で申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)の和解案を東電が拒否し、手続きが打ち切られる事例が相次いでいる問題で、東電が被害者に個別の再申し立てを促すダイレクトメール(DM)を送付していたことが10日、分かった。

関係者によると、DMは4月、被害者宅に郵送された。「集団ADR打ち切り後、個別の手続きで和解に至ったケースもある」「個別申し立てで事情を丁寧に伺い、和解成立に向けて最大限努力する」などと記されていた。
送付先は約2万人とみられ、対象者は福島県浪江町や福島市渡利地区などで集団ADRを申し立て、東電に和解を一度拒否された点で共通している。

東電は各地の集団ADRで「一律での検討は公平さに欠ける」として、原子力損害賠償紛争解決センターが示した和解案を拒否し続けた経緯がある。世耕弘成経済産業相は3月、小早川智明社長に「和解案に基づき誠実に対応することは当然の責務」と指導した。

被害者は改めてADRを申し立てるかどうか選択を迫られた形だが、個別損害の立証はハードルが高い。弁護士費用なども再び発生するため、個別申し立てに移行できる被害者は限られるとみられる。
ふくしま原発損害賠償弁護団の鈴木雅貴弁護士は「個別申し立ては被害者の負担が重く、賠償格差を生むことにもつながる。東電は集団ADRで和解すべきだ」と強調。東電広報室は「集団だけでなく『個別』という選択肢もある。個別に申し立てをいただければ最大限努力する」と話した。

センターによると、東電の和解拒否を理由に打ち切られたADR件数は2017年まで毎年1桁だったが、18年は49件に急増した。(河北新報6/11)

そもそも大規模な放射能漏洩事故を引き起こし多数の被害者を出してしまったのは東京電力である。多数の被害者が集団で裁判に訴えるのは当然で自然ななりゆきだ。しかし、裁判が長引くことを考慮した国が「裁判外紛争解決手続き(ADR)」を勧めたのである(ADRは被害者にとって早く決着が付く点は良いが、和解条件は値切られてしまうので不利だ)。
ところが東電はそのADRさえをも幾度も拒否したため、決着が長引いている(東電は「逃げ得」作戦をとっているのだ。本欄6/9)。

この4月から東電は更に陰険であくどいやり方を始めていた。被害者を個々別々に分断し、個別にADRの交渉を行いたいとして被害者にDMを送付していたのである。個人で東電と交渉することは難しく、弁護士費用が必要になるし多くの時間を取られる。高齢の被害者が多く、その方々に個別交渉を要求するのは、残酷なことだ。


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6/14-2019
放射性物質が北太平洋を循環 福島第1原発事故で流出(共同通信)


太平洋に流出した放射性セシウム134の動き

東京電力福島第1原発事故で太平洋に流出した放射性物質が東に進み、北米大陸に到達後、西向きに流れ始めたとの研究結果を海洋研究開発機構などのチームが13日までにまとめた。海水を分析し判断した。今後、親潮によって日本付近に戻ると予想されるという。濃度はごく低く、生物に影響を与えないレベル。長い時間をかけて北太平洋を循環する様子の解明につながりそうだ。

チームは2017年6~8月、北太平洋の計23カ所で海水を採取し、セシウム134を検出した。核実験では発生しない放射性物質で、福島事故で放出されたとみられる。(共同通信6/13)
追記6/15
セシウム134は水に溶け、深さ約200メートルまでの表層に塊のような状態で分布し、300メートルより深くでは検出されなかった。
濃度は海水1立方メートル当たり最大0.8ベクレルで、国が定める飲料水の基準値(1リットル当たり10ベクレル)の1万分の1以下。放射性物質が半減する時間などを考慮すると、事故当時は6ベクレルだったとみられる。
チームの熊本雄一郎・同機構主任技術研究員(海洋化学)は「放射性物質を目印として北太平洋の循環を明確に見ることができた。海の循環を知ることは気候変動の将来予測にも欠かせない」と話した。
(河北新報6/14)

核実験で生成される放射性核種は数百種類の多数におよぶが、そのうち重要なもの(生成量が多く、半減期がある程度長い)ものは、Sr90(ストロンチウム、半減期29年)、Zr95(ジルコニウム、94日)Cs137(セシウム、半減期30年)、Ru103(ルテニウム、半減期39日),Ba140(バリウム、半減期13日)などが挙げられる。
すなわち、Cs134(半減期2年)は核実験(核分裂)では生じず、原子炉で生成されたと考えてよい。(詳しくは、原子力資料情報室の「セシウム-134」を参照して下さい ここ)。

長年にわたって核実験で汚染された太平洋であっても、フクイチ事故由来の放射性物質であることをほぼ確定できるのである。


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6/15-2019
川内1・2号機停止へ 来春 対テロ施設遅れ 全国初(東京新聞)

九州電力の川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)が来年3月に運転を停止するのが確実となったことが14日、分かった。テロ対策施設「特定重大事故等対処施設」の建設が遅れ、完成が期限に間に合わないためで、特重施設の完成遅れによる原発の稼働停止は全国初となる。川内2号機も来年5月に停止し、全国で2例目になるのは確実。

原子力規制委員会は今月12日、特重施設が期限日の約1週間前までに完成していない原発については、電力会社に運転停止命令を出す方針を決めた。川内1号機の期限は来年3月17日、2号機は来年5月21日で、九電関係者は「特重施設の完成が期限に間に合わず、稼働を停止するのは確実だ」と明らかにした

川内1、2号機が停止しても火力発電などで代替できるため、電力供給自体には支障が出ない見通し。九電は1、2号機が停止した場合、全てを液化天然ガス(LNG)火力発電で代替すると毎月80億円のコスト増となると試算し、業績に冷水を浴びせそうだ。

九電は川内1、2号機とも運転停止期間が約1年間になると見込んでおり、工事期間の短縮により、停止期間をできるだけ短くしたい考えだ。

九電を巡っては玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)についても、特重施設の完成が2022年中の設置期限に間に合わず、運転を停止する可能性がある。

特定重大事故等対処施設> 航空機の衝突などのテロ攻撃で原子炉が大きく破壊された場合も、遠隔操作で冷却を維持し、放射性物質が漏れるのを抑制するための施設。略して「特重施設」。緊急時制御室や電源設備、冷却ポンプを備え、原子炉建屋から100メートル以上離すことで同時に被災する事態を避ける。原発本体の工事計画の認可後、5年以内に設置する必要がある。原子力規制委員会は、特重施設が期限日の約1週間前までに完成していない原発に関し、電力会社に運転停止命令を出す方針を決めている。(東京新聞6/15)

原発は巨大で調節の効かない発電方式であって、しかも、人類と(生物と)共存できない放射性物質を大量に造り出すことで、やっかい極まりない存在である。テロの標的としては決定的とも言えるほど好都合な施設である。

大地震・津波・火山に弱くテロリストに好都合な標的となるのなら、原発を廃止してそれに代わる発電設備(安全で小規模分散型で市民が調節可能なもの)にするという方向へ進むのが利口だと思うが、「特定重大事故等対処施設」というのはまったく逆である。「重厚長大」式に屋上屋を重ねようとするものである。
原子力ムラにつながる産業が利潤を手にするだけで、将来性はまったくない。この方向に突き進むわが国は衰亡の道へ転落しつつあるに他ならない。


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6/20-2019
「柏崎刈羽の原子炉設備に異常」 東電、自治体に誤連絡(朝日新聞)

東京電力が18日夜、山形県沖地震の発生直後に柏崎刈羽原発(新潟県)の状況について地元自治体にファクスで速報した際、原子炉全7基の一部設備で「異常あり」と誤記していた。地元・柏崎市長によると、事態に驚いた市の問い合わせで東電は誤りに気づき、訂正したという。市長は「あまりにお粗末」と19日午後、東電に抗議する。

誤りがあったのは、東電が立地自治体の同市や刈羽村、新潟県などに対し、18日午後10時52分に送ったファクス。使用済み燃料プールを冷却する電源の状況を伝える項目に、全7基とも「異常あり」を示す「有」の欄に「○」がついていた。同原発は全7基が停止しており、現状では燃料プールの事故リスクが最も高い。

桜井市長によると、このファクスを受け取った市長が驚き、市の担当課を通じて電話で問い合わせたところ、東電が誤記に気づき、15分後に「無」の欄に「○」を記入したファクスを送り直したという。

市長は19日午前、報道陣に対し、「緊急時に最も大切な基本的データを誤るのは、あまりにもお粗末」と指摘し、同日午後に同原発幹部から説明を求めることを明らかにした。同社は取材に、「市長への説明を予定しており、その後に取材に答える」としている。

また桜井市長は来月上旬、同原発1〜5号機の廃炉計画を東電から聞く予定になっているが、「緊急時の情報発信が迅速かつ正確な体制に改まるまで、廃炉計画の話を聞く気になれない」とも述べた。廃炉計画の提示は、桜井市長が同原発再稼働への条件として東電に求めている。(朝日新聞6/19)

「あまりにお粗末」というのはその通りだが、このようなうっかりミスが重大事故につながる場合もありうる。その点を強調しておきたい。柏崎刈羽原発の現場に緊張感がないこと、ファックス原稿が出来上がるまでにどのようなチェック体制がとられていたか、など検証が欲しい。

この場合は、「有」「無」の欄に○印を記入するというやり方がミスを呼んでいる可能性もある。手書きで「有り」「無し」と記入するというような、異なる記入方式を考えるのも意味があるのではないか。

◇+◇

緊張感がないという感想ついでに、「イージスアショアの防衛省の調査ミス」でわたしが最初に「えッ」と驚いたのは、山の傾斜を求めるのに、グールグアースを使っていた、ということだった。少なくとも自衛隊が公式文書として外へ出すもの(の基礎数値)であるから、その根拠として外国の私的会社のデータを用いたというのはあり得ないことで、ほんとうに驚いた。戦前の参謀本部陸地測量部などのように自衛隊が自ら測量したというのでなくとも、国土地理院の資料に基づいている、ぐらいのことは言って欲しかった。
断面地図で水平面と鉛直面の縮尺を変えることは、山登りでもやる人には常識のはずで、自衛隊の人材不足も極まれりと思った。

言うまでもなく、「イージスアショア」なる金食い虫の装備が、ほんとうに必要なのかに戻って議論すべきである。今の日本政府が北朝鮮と外交交渉を本気でやる気(と能力)があるのか怪しいが、武器を整備して外敵に対抗するというのは最後の手段であって、しかも、最も頭の悪い手段である。


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6/22-2019
志賀原発差し止め提訴 北電株主「再稼働は経営圧迫」 富山地裁(中日新聞)

北陸電力が志賀原発(石川県志賀町)の再稼働に向けて投じる安全管理費などが経営を圧迫し、再稼働をしても原発事故が起きれば同社に回復できない損害を生じさせる恐れがあるなどとして、富山、石川両県の株主8人が18日、会社法に基づき、金井豊社長らに原発の運転差し止めを求める訴訟を富山地裁に起こした。

原告団によると、電力会社の株主が原告となり、経営陣に原発の運転差し止めを求めて訴訟を起こすのは、東日本大震災以降では全国で初めて。現在停止中の志賀原発の運転差し止め訴訟は金沢地裁で係争中だが、北電本店のある富山にも波及した形だ。

原告団は金沢地裁に提訴した原告も含め、富山県の5人と石川県の3人。金井社長ら代表権のある取締役5人を訴えた。原告団は原発の再稼働を目指す取り組みが利益追求に逆行し、取締役に求められる注意義務を怠っているとして、経営方針の転換を求めている。

訴状によると、福島第一原発事故では廃炉や賠償などに数10兆円の費用がかかると試算されており、志賀原発で事故が起きた場合、北電は簡単に破綻すると指摘。原発の停止中でも年間450億円の膨大な維持費がかかる上、2号機だけでも1千億円台後半の安全対策費が見込まれているとし、「再稼働に向けた活動を即刻中止すべきだ」と主張している。

原告団や弁護団などが富山地裁を訪れ、訴状を提出した。原告団の和田広治団長(66)=富山市=は「一日も早く廃炉に持ち込みたい。全ての命を放射能から守りたい思い。(富山訴訟は)北電に逃げることができないという強いメッセージになる」と語った。
北電は「訴状の中身が分からないのでコメントは差し控える」としている。

志賀原発を巡っては2012年に富山、石川両県の住民が差し止め訴訟を金沢地裁に提起。敷地内の断層の活動性を調べる原子力規制委員会の適合性審査の結果が出るまで判決を待つ考えが示されており、結審は見通せていない。(中日新聞6/19)

「再稼働に向けた活動」が原発運営会社としてめざすべき利潤追求に反するという。原発の株主の立場をつらぬいた指摘が、わが国ではめずらしい。

原子力分野ではわが国は社会主義国家というべきであり、国が(国民の支払う電気料金を)いくらでも原発へつぎ込める仕組みになっている。また、実際フクイチ事故の処理に数10兆円をつぎこむことにしており、そういう会社であるにもかかわらず東電は、再稼働をめざす東海第二原発(日本原子力発電)に対して、資金援助をしようとしている。
この資金援助は「支援資金の回収が期待できない」という理由を掲げて、東電株主が訴訟を起こした(時事通信6/18)。


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6/25-2019
放射性セシウム長く地表に 森林内に深く浸透せず(東京新聞)


東京電力福島第一原発事故で放出された放射性物質は、森林内で土壌表面から3センチ以内の表層に長期間とどまり、それ以上深く浸透しない可能性があるとの研究結果を、日本原子力研究開発機構(原子力機構)などのチームがまとめた。

チームは福島県内の阿武隈山地の2カ所で2013年から17年にかけて、山林に降る雨や落ち葉、地表を流れる水などに含まれるセシウム137を測定し、土壌表面へのセシウムの流入と流出を観測した。

5年間で、表面に流入するセシウムの量は少しずつ減り、流出量はほぼ一定だったが、流入、流出とも森林に沈着したセシウム全体の1%程度かそれ未満で、動きがほとんどなかった。このため事故時に放出されたセシウムは、長期間にわたり森林環境にとどまるとみられる。

さらに、地下20センチまでを深さごとに4つに分けてセシウム量の分布を測ると、14年以降0~3センチの層のセシウムが最も多く、地下のセシウム総量に対する割合に変化はなかった。表層から下層への移行は、ほぼ生じていなかった。

同機構の福島環境安全センターの新里忠史主任研究員(地形地質学)は「線量が高い地域には山林が多い。セシウムの動きの把握は川の下流や生活圏の今後の濃度予測に重要だ」と強調した。(図も 東京新聞6/21)

森林のセシウム137が土壌表面付近に固着して、そのあとあまり動かないということを本欄が最初に暑かったのはJAEAの研究(11/23-2014)だろうと思う。

今年の3月13日には、セシウム137のふるまいについて、森林の土壌・樹木・川で全体を見た研究の発表を扱っている。土壌表面近くに固着するものが大部分で(9割以上)、谷川に溶け出すものが少なく、落葉や木には1割以下であった。つまり、間伐材などの処分をしてもその効果は余り期待できないという結果であった。

山地のセシウム137濃度を積極的に落とす効果的な方法は見つからない。物理的な放射能減衰を待つ(半減期に従う減衰)のが結局唯一の方途だということになる。


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