き坊の近況 (2018年9月)


旧 「き坊の近況」

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日々の見聞や関心事を示して、自分の心的近況を表そうとしている。とくに準備なしで書けるような、「朝刊を開いてひとこと」というようなことを試みている。さらに、生活上の随想なども書く。

9/1-2018
<福島第1>公聴会終了 トリチウム水処分、長期保管含め議論へ(河北新報)

東京電力福島第1原発の敷地内にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む水の処分方法を巡り、政府の小委員会は31日、国民の意見を聞く公聴会を東京都内と郡山市で開き、計30人が持論を述べた。有力な選択肢に浮上した「海洋放出」への賛成は皆無で、結論を急ぐ政府や東電への不信感が噴出した。

公聴会は30日の福島県富岡町を含め3回開催した。終了後、小委委員長の山本一良名古屋大名誉教授は公聴会で複数挙がった「タンクでの長期保管」を処分の選択肢に加え、期限を切らずに議論する考えを明らかにした。公聴会の追加開催も検討する方針。

東京・内幸町のイイノホールでは16人が意見を語った。トリチウム(三重水素)の健康被害について、北海道がんセンター名誉院長の西尾正道さん(71)=札幌市=は「(トリチウムは放射線の影響だけでなく)水素としてDNAに取り込まれ、遺伝子情報が変化する」と懸念。トリチウムの環境放出を「実害が遅れて出てくる。人類に対する緩慢な殺人行為だ」と非難した。

トリチウムの半減期は約12年。原子力市民委員会(事務局東京)の細川弘明事務局長(63)=京都市=は「大型タンクで100年以上保管すべきだ。技術的、経済的に可能。長期保管は放射能を減衰させる積極的効果がある」と強調した。

郡山市商工会議所での公聴会では、汚染水を多核種除去設備(ALPS)などで処理した水にトリチウム以外の放射性物質も残っている問題に関し「議論の前提が崩れた」と訴える人が相次いだ

郡山市から札幌市に避難する会社員鈴木則雄さん(60)は「ALPSでどこまで再処理するかが示されないと意見の出しようがない」と疑問視。福島県三春町のヘルパー大河原さきさん(66)は「処分は漁業との関係ばかりが問題にされがちだが、広く国民や海外にも意見を聴く必要がある」と指摘した。(河北新報9/1)

西尾正道氏の指摘は、科学的な正論である。低線量の長期的な内部被曝がどのような悪影響をもたらすかは、いまだ未知な所がある。はっきりしていないが長期間かかって悪影響が出るリスクがあることは事実である。それが安全側に立った科学的な正論である。
重大な影響は知られていないのだから薄めて海洋投棄してよい(現に、全世界の原発がそうしている)という論は、原発運転を続けたい側の結論である。東電が主張するのならともかく、原子力規制委員会の更田豊志委員長が海洋投棄を勧めるのは全く筋違いだ。

この公聴会について河北新報は上引9/1と、昨日8/31(ここ)と連日報じているが、どちらもとても優れたレポートになっている。発言内容を的確に要約して報じている。他社とと読み比べて、わたしはそう思った。河北新報 8月31日から。
「なぜ土、日にやらないのか」。同県新地町の漁師小野春雄さん(66)は木曜午前という開催の設定にかみついた。「漁師は午前は仕事。平日の午前では、来たくても来ることができない」と強調。海洋放出の影響を最も受ける現場への配慮を欠いた対応だと憤りをあらわにした。 (河北新報 8月31日)


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9/3-2018
MOX燃料の再処理断念 電力10社、核燃サイクル崩壊(東京新聞)

通常の原発でプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を燃やすプルサーマルを巡り、原発を持つ電力会社10社が、一度使ったMOX燃料を再処理して再び燃料として利用するための費用の計上を、2016年度以降中止していたことが2日、分かった。政府は核燃料サイクル政策の一環としてMOX燃料の再利用方針を掲げていたが、資金面での根拠を失い、事実上、MOX再処理の断念となる。

MOX再処理には新たな再処理工場の建設が必要で、巨額の費用がかかることが断念の理由とみられる。核燃料の再利用は一度のみとなり、核燃料サイクルの意義は大きく崩れることになる。(東京新聞9/2)

日本で使用済みMOX燃料の再処理を行ったのは、「東海再処理工場」において新型転換炉「ふげん」の使用済MOX燃料を約20トン,というのが実績なのだが、「ふげん」も「東海再処理工場」も廃炉・解体作業にかかっている。MOX燃料のための再処理を行うためには、そのための再処理工場を新たに建造する必要があり、莫大な費用が求められる。残されている方法はフランスのラ・アーグ再処理工場等で再処理を依頼することだが、往復の船便のリスクがあり、高額な費用が必要である。

電力会社10社は16年以来費用計上をせず、MOX燃料についての「核燃料サイクル」を抛棄したことになる。これは、国策としての核燃料サイクルが理念として崩壊したことを意味している。我が国の原子力政策の重大な転機に結びつく可能性がある。


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9/4-2018
MOX燃料 公の場で議論なく 政府の情報公開軽視、深刻(東京新聞)

東京新聞 日 朝刊 <解説> 電力各社がプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料の再処理に備えた費用計上を中止したのは、核燃料サイクル政策の事実上の軌道修正と言える。政府はエネルギー基本計画で初めて使用済みMOX燃料の「処分」に言及した。ただ、こうした政策転換が審議会など公の場でまともに議論された形跡はない。

元々、MOX燃料の再処理が実現可能だとの声は政府内にもほとんどない。にもかかわらず政府が旗を降ろさなかったのは、MOX燃料の再処理が核燃料サイクルの存在意義の一つだからだ。使い終わったMOX燃料を廃棄物として処分するのであれば、莫大(ばくだい)な費用をかけ、通常の使用済み燃料をMOX燃料として再利用する計画自体に疑問符が付く

実現の見通しが乏しい計画の出口を探ること自体は現実的な判断であり、否定されるものではない。しかし問題なのは、これほど重大な政策転換が国民や関係自治体の目の届かない場所で行われていることだ

2015年に再処理費用の在り方を議論した計5回の経済産業省の審議会では、使用済みMOX燃料の扱いに触れることなく、報告書が取りまとめられ、使用済燃料再処理機構の設立を柱とする法改正に進んだ。議論や情報公開を軽視する国の姿勢は深刻だ。 (下図も 東京新聞 8/3)

    

左図は、日本が国策として掲げ続けている「核燃料サイクル」のうちの「プルサーマル」の概念図である。
「全国の原発」で通常核燃料による発電を行う。そこで発生する使用済み核燃料を「再処理工場」(六カ所村)へ持ち込んでプルトニウムを取り出す。そのプルトニウムとウランを混合して「MOX燃料」を作る。MOX燃料を「全国の原発」で燃やす。その結果「使用済みMOX燃料」が生じる。これは通常の使用済み核燃料と異なるため、特別な「第2再処理工場」(いまだ存在せず)で処理する必要がある。

「第2再処理工場」をつくるためには、巨額の資金が必要なのだが、どうやら政府はそれをあきらめたらしいのである。ということは、核燃料サイクルそのものをあきらめたことを意味する、少なくとも完全な形では。

「プルサーマル発電」というやり方自体が、無理を無理強いしているような極めて合理性を欠く手法である。仮にプルサーマルを認めたとしても、「使用済みMOX燃料」を再処理しないのなら、その先はどん詰まりで「核燃料サイクル」の理念が壊れてしまうことになる。
それは望ましいことだとわたしは思うが、しかし、経産省が密室で議論して決めるというのはまことにひどいものだ。原子力発電の資金は国民の電気代(と税金)によって支えられているものであり、原子力発電の将来をどのようにするべきかという未来設計は国民も参加したオープンな議論の中で決定されていくべきものだ。

MOX燃料をプルサーマル発電で1回しか使わないのなら、なにも無理に「再処理」する必要はない。再処理してもらうために、フランスまでわざわざ使用済み核燃料を運んでいく必要はない。
再処理を止め、プルサーマルも止めるのが合理的である。また、それが原子力発電の世界的な潮流である。


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9/5-2018
福島第1原発 肺がん死の作業員労災認定 死亡事案では初(毎日新聞)

厚生労働省は4日、東京電力福島第1原発事故後に放射線量の測定作業などに従事し、肺がんで死亡した50代男性について労災認定したと発表した。第1原発事故後の被ばくを巡る労災認定は5例目で、死亡事案で認めたのは初めて。

認定は8月31日付。厚労省によると、男性は1980年6月~2015年9月のうち約28年3カ月、第1原発を中心に全国の原発で作業に従事し、累積の被ばく線量は約195ミリシーベルトだった。このうち11年3月の事故後の被ばく線量は、同年12月までが約34ミリシーベルトで、15年9月には約74ミリシーベルトに達した。主に第1原発の構内外で放射線を測定し、作業中は防護服や全面マスクを着用していたという。

男性は16年2月に肺がんを発症した。厚労省は遺族の意向として、死亡時期などを明らかにしていない。
肺がんに関する原発労働者の労災認定の基準は
    ▽被ばく線量が100ミリシーベルト以上
    ▽被ばくから5年以上経過して発症
--など。放射線医学の専門家らで作る厚労省の検討会の意見を踏まえ、認定した。

東京電力ホールディングス広報室は「引き続き、発電所の安全確保、労働環境の改善に努めたい」としている。(毎日新聞9/4)

「28年3ヶ月」もの長期間、全国の原発で作業員として働いていた方。

フクイチを中心とした原発作業による放射線被曝死者を、国が公的に認めたという点で、重要である。フクイチ事故がなければ、ここまでの短期間・大量被曝はなかったであろう。


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9/6-2018
泊原発の外部電源喪失=非常用発電機で冷却継続-北海道地震(時事通信)

原子力規制庁によると、北海道胆振地方の地震で6日、北海道電力泊原発(泊村、停止中)の外部電源が喪失した。非常用ディーゼル発電機が6台が起動し、使用済み燃料プールの冷却が続けられている。施設に異常はないという。

規制庁によると、6日午前3時25分ごろ、3系統6回線ある外部からの電源供給が途絶した。1~3号機の原子炉内に核燃料は入っておらず、すべて使用済み燃料プールに貯蔵されているが、非常用ディーゼル発電機からの電源供給で冷却は続けられている。発電機用の燃料は1週間分あるという。

午前6時7分に外部電源1回線が一時復旧したが、同21分に再び停止。引き続き非常用発電機による電源で冷却が続けられている。(時事通信9/6:07時12分配信)

気象庁によると、北海道胆振地方中東部・石狩地方中部・空知地方南部で本日6日3時08分ごろ、震度6強の地震が観測された。マグニチュード6.7、深さ37㎞。大規模な土砂崩れや家屋倒壊や道路陥没、けが人など重大な被害が出ている様子である。
震度の情報が入っていない震源近くの地域が有り、最大震度が震度7となる可能性もあるという。
北海道全体で停電が続いている(午前8時現在)。


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9/7-2018
北海道地震の道内全域停電、大規模発電所1カ所への依存が原因 課題あらわに(産経Biz)

6日午前3時8分ごろ、北海道で震度7の地震があった。この地震の影響で、道内全域が一時停電する前代未聞の事態となった。電力会社のエリア全域での停電は前例がない。原因は道内最大の火力発電所である苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所(厚真町)が緊急停止し、連鎖的に他の発電所も停止したためだ。泊原子力発電所(泊村)は3基全てが停止しており、同社初の液化天然ガス(LNG)火力発電所の稼働を来年に控える中、1カ所の大規模発電所に依存していた課題があらわになった

◆連鎖的に停止波及
苫東厚真火力は震源の近くにあり、出力は3基の発電設備の合計で165万キロワット。地震発生当時、苫東厚真火力は3基とも運転していたが、地震で揺れを検知したため緊急停止した。北海道電力によると、地震発生当時の道内全域の電力需要量は約310万キロワットで、苫東厚真はその半分程度を担っていたことになる。

苫東厚真の停止で、電力の需要に対して供給が大きく損なわれて需給バランスが崩れ、電力供給の周波数を一定に保つことができず、他の発電所にも停止が波及。全域停電につながったとみられる。(以下略)(産経Biz9/7)

北海道全体の電力の半分近くを担っていた苫東厚真火力が、たまたま震源近くにあったことが、この大規模停電が生じた原因であった。苫東厚真火力が急に止まったので、他の火力発電所(3ヶ所)が連鎖的に止まり、北海道全体の停電となった。

「地震で揺れを検知したため緊急停止」したとしているが、どうも、それだけではなかったようだ。地震による破損があったのではないか。NHKは次のように報じている。
北海道電力によりますと、停止した火力発電所を再稼働させるのに電気が必要になることから、午前5時ごろまでに水力発電所を稼働させ、発電した電気を火力発電所に送電したということです。

そして北海道電力は、苫東厚真火力発電所を再稼働させようとしましたが、午前5時半ごろ、3基ある発電設備のうち2基はボイラーの配管から蒸気が漏れているのが見つかり、稼働できなくなったということです。

さらに、その4時間後には、残る1基の発電設備でも、タービンの軸から漏れた潤滑油に火がついたため再稼働の作業を中断しました。いずれの設備も復旧に少なくとも1週間以上かかる見通しとなりました。
(NHK9/7)
苫東厚真火力では、強い揺れを検知していったん緊急停止した。それを再稼働させるべく水力発電を稼働させて、2時間半後に1,2号機を再稼働させようとした。するとボイラー配管から蒸気が漏れているのが見つかり起動に失敗。更に4時間後に、残る3号機を起動しようとしたら潤滑油が燃えるという事故が発生し、これも起動できなかった。
ここまでのトラブルは、地震による損傷と考えられる。

苫東厚真火力の巨大な発電設備の修理は容易ではなく、経産大臣は一週間は要すると発表した。これにより、北海道全体が停電回復するのには、一週間以上かかるかも知れないという話になった。

苫東厚真火力以外の火力発電所や休んでいた水力発電所などを順次再稼働させ、小規模範囲づつ停電を解消していくという手順を踏むことになった。産経Bizが指摘するように1カ所の大規模発電所に依存している電力供給体制の弱点がはっきりと現れたといえよう。その1ヶ所をやられると全体がダウンする。自然災害だけでなくテロ攻撃についても同じだ。

小水力発電や太陽熱発電・風力発電などの分散型の設置(個人や村落規模)は、全体がダウンすることはまず無い。この方向へ進むことで、大電力会社に社会を支配されるという現代社会の構造から抜け出すことが可能かも知れない。電車網や大規模ビルなどを大電力会社にまかせるとしても、市民生活レベルの電力消費は分散型小発電所でまかなうという社会構造を構想したいものだ。


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9/8-2018
北海道震度7主要活断層帯を刺激する恐れも(毎日新聞)


今回の地震の震源と周辺の
活断層の位置関係
政府の地震調査委員会は6日、臨時会合を開き、北海道厚真町で震度7を観測した地震は、震源の西約10キロにある主要活断層帯「石狩低地東縁断層帯」で発生したものではないとの見解をまとめた。別の断層が最長で南北約30キロにわたってずれ動いたとみられるという。今回の地震が同断層帯の地震を引き起こす可能性も否定できないとして、警戒を呼びかけている。

調査委によると、同断層帯は深くても地下20キロ程度までしか延びていない。今回の震源は深さ約37キロとそれよりかなり深く、調査委は今回の地震が同断層帯と離れていると判断した。ただ、周辺では今回の影響で地震が起きやすくなったとみられる場所もあるという。

今回の地震は、片方の岩盤がもう片方に乗り上げる「逆断層型」。震源付近の北海道の中央南部では、東西から押し合う力がかかっていて、逆断層型の断層が生まれやすくなっている。

委員長の平田直(なおし)・東京大教授は会合後の記者会見で「(知られている)活断層だけに注意するのではなく、どこで地震が起きてもおかしくないと考えてほしい」と話した。

同断層帯は「主部」と「南部」に分けられる。主部の長さは約66キロで、想定される最大マグニチュード(M)は7.9。南部は長さ54キロ以上あり、最大Mは7.7以上。政府の地震調査研究推進本部は、今後30年の発生確率を主部で「ほぼ0%」、南部で「0.2%以下」と想定している。

名古屋大の鈴木康弘教授(変動地形学)は「今回動いた所は石狩低地東縁断層帯に付随してできた別の断層ではないか。地下では想定以上に複雑なことが起こっていると考えられ、断層帯と『関係がない』とまでは言えない」と話した。

地震波形を分析した東京大の古村(ふるむら)孝志教授(地震学)によると、大きな揺れが3~4秒間隔で約3回、記録されていた。大きな断層のずれが複数回起こることで、比較的長く、強い揺れが続いたとみられるという。
一方、北海道では千島海溝のプレート境界で発生するM9級の巨大地震も懸念されているが、今回は内陸の地殻内で起きたため、気象庁は「直接の関係はない」とみている。

また、防災科学技術研究所は厚真町の西隣にある安平(あびら)町の観測点で、1505ガルの加速度を記録。2016年の熊本地震で益城町で記録した1362ガルを上回った。(図も 毎日新聞9/7)

今回の地震は、M6.7 という巨大とは言えない規模の地震で、深さは37kmとやや深かった(熊本地震M7.3で12㎞、阪神淡路地震M7.3で16km)。もし、地盤がしっかりしたところで起こっていれば、それほどの被害は起こらずに終わっていたのではないか。ところが、地盤が弱く火山性土壌の地域であったため、よく揺れ、深刻な山崩れが広範囲に生じた。札幌市清田区の液状化現象は、もともと谷間だったところを埋め立てて道路を通し宅地とした場所であったという。

もし、苫東厚真火力発電所が原子力発電所であったら、と思うとゾッとする。原発は活断層を避けて建造する建前になっているが、今回のように、知られていない・地下深くの活断層で起こる地震で大きな被害が出るとすれば、我が国のような地震国では原発を造るべきではないことは自明の理だ。

泊原発では震度2であったという。それにもかかわらず外部電源喪失ということが起こった。幸いに緊急電源が無事に起動したから良かったが、(電源装置を解体点検中であったというような)思わざる事態で、外部から電源車を呼ばなければならない、という次の段階の危機に進むこともあり得た。

苫東厚真火力がダウンしただけで、北海道全体が停電になるというのは、ほんとうに避け得ないことだったのか。必要ならある地域(たとえば札幌市など)を停電にして残り地域を助けるように、瞬時に判断して可能な手を打つプログラムをあらかじめセットしておくことはできるはずだ。北電が緊急時の対応策を準備しておくのをサボっていたのではないのか。油断していたのではないのか。
東電の津波対策がまったくお粗末で打てる手を打っていなかったことで311事故の悲劇へ突き進んだことを経験したわたしたちは、日本の電力会社がどのように危機対応ができておらず無策であったかを知っている。北電や経産大臣を信用することはできない。


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9/9-2018
震源域に最大火発 停止次々、全道に連鎖 「想定せず」遅れた対処(北海道新聞)

道央地域を中心に6日発生した震度7の地震は、道内全域の停電という未曽有の事態を引き起こした。背景にあるのが、電源の過度な集中だ。地震発生時に道内の使用電力の半分を賄っていた震源域の大規模発電所が一気に停止し、バックアップも機能しなかった。2011年3月の東日本大震災では当時の東京電力が東京湾に集中立地していた巨大電源を失い、域内での計画停電に追い込まれた。電源の集中による災害リスクの教訓を、北電は生かすことができなかった。=北電社長の会見詳報はこちらから=

地震発生時には、震源域に近い苫東厚真火力発電所(胆振管内厚真町)で3基の発電機が動いていた。合計出力は165万キロワット。地震発生時の需要(310万キロワット)のほぼ半分を1カ所の発電所が担っていたことになる。

苫東厚真は地震による損傷で発生直後に停止し、全道で使っていた電力の半分が一気に失われた。電気は使用量と供給量が釣り合わなくなると「周波数」が安定しなくなり、周辺機器の故障を引き起こして停電になる。今回は苫東厚真が需給バランスを崩す引き金となり、稼働していた他の火力・水力発電所も自動的に停止。北電は供給する電気を失い、全域で停電が発生した。連鎖して停止した発電所が仮にそのまま稼働を続けた場合、発電用タービンなどの設備が壊れる恐れもあったとされる。
3基の損傷の程度は大きく、北電は完全復旧について「1週間以上かかる」(真弓明彦社長)としている。7日中には290万キロワットの供給力を確保できるとしているが、早期の完全復旧のめどは依然たたない。

道内で大型の電源が突然停止した際に本州側から電気を流し入れるため、北海道と本州を津軽海峡の下で結ぶ送電線「北本連系線」は今回、停電のバックアップ機能を果たさなかった。稼働すれば本州から最大60万キロワットの電気を道内に流すことができるが、停電が道内全域に広がり「北海道側に一定の電源があること」(北電広報部)という条件を満たせなかったためだ。
外部電源がゼロになることを想定していなかったため、電源喪失時に北本連系線を動かすための仕組みはなかったという。

一方、地震発生時に運転していた火力発電所は6基。砂川発電所(砂川)など別の火力6基は運転中の電源が停止したときにバックアップするため、運転待機中だった。だが、これらが全てすぐに稼働できたとしても発電能力は92・3万キロワット。苫東厚真の3基分(165万キロワット)の出力を補うことはできなかった。

真弓社長は6日の記者会見で、大型電源が全て喪失する事態について「全発電機が停止することは想定して、さまざまな設備の運用をやっている」としたが、結果的に巨大地震にあっさり破られた形となった。北電火力部幹部は「苫東厚真の3基とも損壊し、長期に停止することは想定していなかった」という。

北電は来年2月には日本海側の石狩湾新港に天然ガスを燃料に使った出力57万キロワット弱の大型電源が稼働する。これが完成すれば苫東厚真への電源集中は和らぐことになるが、今回の地震には間に合わなかった。

北電は東日本大震災の発生前は、泊原子力発電所(後志管内泊村)に年間の発電量の4割を依存していた。過度に頼った原発が震災後に停止すると、たちまち収益が悪化。経営危機を招いた経緯もある。
電源は大型になればなるほど、コスト効率が高いとされる。ただ、突然の災害などで停止すると、その影響は企業の存立をも揺るがす。東日本大震災という教訓を得ながら、大型電源への依存をなおも続けてきた北電。脆弱(ぜいじゃく)性への対処が遅れた経営陣の責任は極めて重い。(図も 北海道新聞9/7)

北海道新聞が地震発生の翌日から、上のような優れた解説を行っていることに気付いた。特に、地震による重要な損傷によって苫東厚真が停止したことを明瞭に述べていた点が他の報道機関を抜きんでていた。

しかも、「大型電源に集中した経営戦略」を東日本大震災以後も反省しておらず、北海道全体のブラックアウトという事態を引き起こしたことをはっきりと述べ、北電経営陣の責任を強く指摘している。

8日の記事の一部抜粋でお目にかける。
胆振東部地震は、北海道電力苫東厚真火力発電所(胆振管内厚真町、165万キロワット)の緊急停止によって、連鎖的に広域停電になる「ブラックアウト」を引き起こした。北電は大規模停電に備えた復旧訓練を日ごろから行っているが、今回のような設備破損による長期間の運転停止を想定した訓練は行っていなかったという。専門家からは備えの甘さを問う声が上がっている。

北電はブラックアウトを想定し、本店で関係部署と道内各地の火発を結んで発生から復旧に向けた訓練を年1回実施している。今回と同様に、苫東厚真の緊急停止で他の火発が同時に運転を停止するケースを想定した訓練を行ったこともある。
しかし、いずれの訓練も「設備が故障する前に安全装置が働いて運転停止する」こととが前提。復旧に数時間から1日程度を要するシナリオで、今回のように施設内の設備の損傷によって復旧に長期間かかるケースを想定した訓練は一度も行わなかったという。
(北海道新聞9/8)


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9/12-2018
北海道の大停電防止、一時は機能 本州から電力融通受け(朝日新聞)

北海道で6日未明の地震後に起きた大規模停電をめぐり、地震直後に北海道電力が本州側から緊急の電力融通を受けるなどして、いったんは電力の需給バランスを回復していたことが、大手電力間の電力融通などを担う国の電力広域的運営推進機関の分析でわかった。だが、その後何らかの理由で再びバランスが崩れ、地震から18分後に道内ほぼ全域の停電(ブラックアウト)に陥った。

広域機関や北電はこれまで、ブラックアウトまでに本州から電力融通があったかを明らかにしていなかった。世耕弘成経済産業相は11日、停電に至った経緯を第三者も交えて検証する意向を示した。

広域機関や北電によると、6日午前3時7分の地震発生直後、震源に近い苫東厚真火力発電所(厚真町)2号機と4号機が自動停止し、130万キロワット分の供給力が一気に失われた。すぐに本州側から60万キロワットの融通を受けたほか、北電が一部地域を強制的に停電して需要を減らす措置を取り、3時11分までに電力の需給バランスは回復したとみられるという。

需給バランスが崩れたままだと、各地の発電所の機器が故障を防ぐために自動停止し、大停電につながる。これを防ぐための措置が地震直後に一時的に機能したもようだ。

だが、この後に再び均衡が崩れ、午前3時25分、苫東厚真1号機を含め道内の火力発電所などが停止してブラックアウトした。この間、北電の運用が適正だったかどうかが、原因究明の焦点の一つになりそうだ。(朝日新聞 9/12)

今朝の朝日新聞は、わたしがこれまで知らなかったブラックアウトに至るまでの経緯を報じている。地震が起きたのは6日午前3時8分であるが(詳しくは、3時7分59.3秒、上引記事の3時7分表記は妥当とは言えない)、
  • 直後に苫東厚真火力の2号機と4号機が自動停止した。
  • すぐさま、本州から60万kwの融通を受けた。同時に北電は一部地域に対し停電処置をとった。
  • 3時11分までに電力の需給バランスが一旦とれた。
  • ところが、再びバランスが崩れ始め、3時25分に苫東厚真1号機を含め道内の火力発電所などが停止してブラックアウトした。
これ迄の報道では、本州からの融通に手間取っていた、ということだった。それに、途中でいったん需給バランスがとれたことがあった、というのは初耳である。

北海道電力から信頼できる十分な情報開示がなされていないのではないか。北電の初期対応の詳細をまず開示し、その上でそれが適切なものであったかを検証して貰いたい。


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9/13-2018
作業員被ばく対策不十分 福島原発事故で国連人権理(中日新聞)

国連人権理事会は12日、有害物質の管理・処分と人権への影響などを討議する会合を開いた。トゥンジャク特別報告者は、東京電力福島第1原発事故の除染作業員らの被ばく対策は不十分で「日本政府は政策を見直すべきだ」と指摘した。福島など地元の人々との話し合いが重要だとも強調した。

トゥンジャク氏は、日本政府は被ばく対策で「できることを全てやらねばならない」と述べ、健康被害防止などの取り組み強化を求めた。日本政府は発言しなかった。

会合では非政府組織(NGO)関係者も発言、日本政府に対策強化を求める声が相次いだ。(中日新聞9/13)

この問題について本欄は、先月17日に(ここ)、有害物質に詳しいバシュクト・トゥンジャク弁護士を含む国連人権理事会が声明を出した事を取りあげている。声明は
「作業員には、移民や難民、ホームレスが含まれているとの情報がある」とした上で「被ばくリスクについての虚偽説明や、経済的困難から危険な作業を強いられる」などの恐れがあり、「深く懸念している」(時事通信8/17)
と述べていた。
再度、人権理において、同じ問題について日本政府の無神経と怠慢を指摘する意見が相次いだということ。

本欄9月5日は、肺癌死したフクイチでの作業員が労災認定されたことを取りあげた。死亡事例では初めてであった。

もうひとつ、人権に関するニュース。国連は、日本を含む38カ国に対して、政府が人権団体を抑圧する政策をとっていると指摘した。
国連は12日、中国、ロシア、ミャンマー、日本を含む38カ国が人権団体などを抑圧している疑いがあるとして強い懸念を示す報告書を公表した。日本については、人権団体から「政府機関に監視されている」との報告があった。日本政府は監視を否定している。

報告書は、国連に協力する非政府組織(NGO)などが活動に関して政府から報復や脅迫を受けていないかを調査するのが目的で、2010年から毎年公表。今年は中国の民主活動家の不法拘束や、ロシアの人権活動家の監視・盗聴などの事案が新たに盛り込まれたほか、日本などのケースが調査中として取り上げられた。
(福島民友9/13)


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9/15-2018
2段階で全道停電 一部地域切り離し、十数分しか持たず(北海道新聞)

6日未明の胆振東部地震による停電で、北海道電力が道内全域の「ブラックアウト」を防ぐため、停電地域を自動的に道東や道北など一部に限定しようとしていたことが分かった。本州からの送電も増加したが、地震発生から18分後に全域停電したとみられる。北海道新聞が、自家発電装置を持つ主な病院23カ所の記録を集計した結果、地域内でばらつきはあるが、停電はほぼ2段階で起きていた。経済産業省は、北電の対応が適切だったのか検証を進めることになる。

北電は、取材に対し、ブラックアウトの詳細な経緯は明らかにしていない。

大規模病院では、停電時に自動で切り替わる自家発電装置を備え、停電発生時刻を記録する。これを各地域の目安として集計すると、地震発生(午前3時7分)直後とブラックアウト発生(同25分)前後に分かれた。北見や函館などの病院では、地震発生直後の同8分に停電した一方、札幌や旭川、苫小牧の病院の停電はブラックアウト時だった。(北海道新聞9/13)

6日の北海道地震(午前3時8分発生)のあと、北海道全域がブラックアウトするまでの20分間程度の時間に何が起こったのか、北海道電力はいまだ発表していない。
ブラックアウトまでの経緯については「検証中」として説明を拒んだ。(北海道新聞9/15)
まことに奇妙な事で、腹立たしい。稼働中だった発電所がダウンした時刻の発表ぐらい、すぐさま出来るのではないか。
自家発電が可能な病院では、外部電源から自家発電に切り替えるわけだから、その瞬間の時刻を記録している。北海道新聞がやっていることは、各病院に問い合わせてその時刻を調査して、どのように停電が北海道全体に広まっていったかを明らかにしようとしているのである。下図はその成果。「全道停電まで緊迫の18分間 泊原発への電力供給維持に手を尽くす?」(9/13)から頂きました。(良記事ですので勧めます。本欄引用にはちょっと長すぎる。)


上図で、外部電源がダウンしたのが最も遅かったのは、3時28分で倶知安と岩内。これは同一地域にある病院だ。
午前3時28分 北電の発表とは異なり、後志管内倶知安町と岩内町の病院ではこの時刻まで送電が続いた。送電線の先には、泊原子力発電所(同管内泊村)があり、常に冷却が必要な使用済み核燃料が大量に置かれている。北電は冷却を維持するため、あらゆる手段で、電力供給を維持しようとしたようだ。同時刻に冷却用の非常用電源が動き始めている。(北海道新聞9/13)
北電は、泊原発の外部電源がダウンして非常用ジーゼル発電に切り替えることを極力避けようとしてもがいていたようだ、という北海道新聞の分析は見事だ。北電は、泊原発の外部電源が落ちることが深刻なトラブルである事をちゃんと認識しているのだ(当たり前だけど)。

このところTVに世耕経産大臣がよく出て来て、「節電をお願いする」とか「計画停電は避けうるだろう」とか何だか偉そうにしゃべるが、北電の状況の説明は一切ない。「状況がこれこれであるから、2割の節電をぜひお願いする」という姿勢ではない。状況説明はまったくないままに、「誠に申し訳ない」と頭を下げ、「ぜひ節電をお願いする」と言う。“よらしむべし、知らしむべからず”の典型的な上から目線だ。


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9/18-2018 トップページの写真を、ミカドトックリバチからチョウ目アゲハチョウ科ジャコウアゲハ雄に替えた。             

同じとき(9/13)に写したジャコウアゲハ雌。


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9/21-2018
福島事故後44人死亡 東電元幹部ら公判 双葉病院・元看護師証言(東京新聞)

東京電力福島第一原発事故を巡り、津波対策を怠ったとして業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電の旧経営陣3被告の第26回公判が18日、東京地裁(永渕健一裁判長)であった。双葉病院(福島県大熊町)に勤めていた元看護師の女性が証人として出廷し、「原発事故がなければ入院患者はもっと生きられた」と訴えた。

双葉病院は福島第一原発から南西に約4・5キロに位置する。2011年3月11日の原発事故時、寝たきり状態の高齢患者ら338人が入院。隣接する系列の介護老人保健施設「ドーヴィル双葉」にも入所者が98人いた。

起訴状によると、原発事故により双葉病院とドーヴィル双葉の患者らは長時間の搬送や避難を余儀なくされ、うち44人が移動中のバス車内や避難先で死亡したとされる。

証言に立った元看護師は事故時、患者らの避難に付き添った。「患者らが亡くなったのは、避難によって十分な治療が受けられなかったからだ」と証言。震災が地震や津波だけにとどまり、原発事故が起きなかったケースについて「医療を続けられていたはずだ」と指摘した。

◆「もっと生きられたのに」
「病院に戻れれば、医療品や薬品を使えた。原発が事故を起こさなければ、もっと治療はできたと思います」。公判で証言した双葉病院の元看護師の女性は、病院から避難するバス内で患者が何人も亡くなった衝撃的な様子を語った。静かな口調に悔しさをにじませた。

患者の避難が始まったのは、3月12日午後。患者338人のうち、症状が軽い209人を優先的にバス5台に乗せ、病院を出発した。

「近くの学校の体育館に避難するらしい」と聞いたが、目的地を過ぎても、トイレに行きたいと訴えてもバスは止まらなかった。中には失禁する人も。車内は言いようのない不安に包まれた。

女性が原発事故を知ったのは、遠方の学校に到着した12日夕方になってから。バス出発後の午後3時36分には、福島第一原発1号機の建屋が水素爆発で吹き飛んでいた。「一時的な避難ですぐ戻ると思っていた」が、病院に戻ることなく、翌日には福島県いわき市の系列病院に移った。

亡くなった避難患者を目の当たりにしたのは、14日夜になってから。双葉病院とドーヴィル双葉の患者らを乗せた別のバスが、近隣の高校に到着した。バスの扉を開けると、まず強烈な汚物の臭いが鼻を突いた。次に目に入ったのは、顔面が蒼白(そうはく)になった患者。一目で「もう亡くなってる」と分かった。座席の下に倒れ込み、丸まって亡くなっている人もいた。女性の担当患者も亡くなった。

高校に運び込まれた後、患者はさらに11人亡くなった。高校には十分な医薬品はなく、遺体は体育館の隅に横たえられた。「全く何もしてもらえなかったんだな。亡くならざるを得なかったんだな」と胸が痛んだ。

「患者らはなぜ亡くなったと思うか」と指定弁護士に問われ、女性は「治療ができなかったから亡くなったんですよね」と答えた。女性の証言を、東電元会長の勝俣恒久(78)ら3被告は厳しい顔つきでメモを取りながら聞いていた。(図も 東京新聞9/19)

高齢者患者や被介護老人たちが避難のため長時間バスで移動したために多数の死者を出したことは知っていたが、そのバスの内部が糞便の強烈な異臭で充満していたという証言は、初めてである。

震災が地震と津波だけにとどまり、原発事故が起きていなければ」このような悲惨な最期を迎えずに済んだ方々たちだったはずだという証言者の心情は、よく分かる。また、現場にいたのに看護医療の手をさし伸べられなかったという証言者の無念もよく分かる。


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9/23-2018
メルマガでもんじゅ後継機に異論 原子力委の岡委員長(共同通信)

国の原子力委員会の岡芳明委員長が、廃炉作業が始まった高速増殖原型炉もんじゅの後継となる高速炉開発に関し、もんじゅと同じナトリウム冷却型は経済性がなく「無理なものを研究しても予算と優秀人材を浪費する」との見解を、原子力委のメールマガジンで21日までに公表した。

政府が検討するもんじゅ後継機の開発や、フランスと共同研究を進める実証炉「ASTRID(アストリッド)」の計画に異を唱えた形。原子力委の委員長が政府方針に反する立場を公に表明するのは異例だ。(共同通信9/21)

岡芳明のメルマガというのがどこにあるのか、探した。原子力委員会が発行しているメルマガの2018年7月20日号であった。とても長文であるが、この手の原子力推進派の論文というのは到底読むに堪えないか、視野が狭くて門外漢には入っていけないものが多いが、岡芳明の論文はそうではなかった。
日本にとって有害度低減の研究(中性子照射により半減期を短くするなどの研究)よりはるかに重要なことは、日本原燃の再処理工場をきちんと動かすことである。日本原燃の再処理工場は動燃の東海再処理プラント技術を基に作らず、フランスの再処理工場の設計図を導入して作ったため、基盤となる経験や知識、研究開発能力が日本原燃に不足しているのではとの心配がある。動燃再処理工場の経験者には知識も経験もあったはずで、日本原燃にも当初は出向したが、何度も繰り返された稼働遅延によって、それらの人材もほとんど定年退職を迎えてしまっている。再処理を専門にしている大学教員も極めて少なく、再処理技術に関する知識基盤と経験はフランスに比べてきわめて脆弱である。日本原燃はフランスのオラノ社(サイクル事業を行うアレバ社が社名を変更した)に出資もしているので協力は仰げるはずであるが、自分でやるのが基本である。
原子力利用を前提とする限り、妥当な指摘である。岡は「使用済み核燃料は資源である」という文句をくり返し言っているが、核燃料(プルトニウム)を使用済み燃料から取り出すために、大量に・安全に冷却保存しておくのは合理的であるというのが彼の論理であり、そのためには再処理工場が安定して稼働することが必要だというのである(彼は、再処理工場が環境に猛烈な放射能をまき散らすことには言及しない)。

「経済性」を正面から振りかざしている点も、評価したい。
高速炉が電力会社で利用されるためには、軽水炉並かそれ以下の建設コスト・発電コストである必要がある。鉄などのリサイクルが商業化される条件は既存の技術を上回る経済性があることであり、基本的にはこれと同じ条件である。根拠の文献を探して考え、確認のため国内外の知人の意見も聞いたが、ナトリウム冷却の高速ではこれは無理である。理由はナトリウム冷却特有の設備や運転管理が必要なためである。無理なものを研究しても予算と優秀人材を浪費する。
「経済性」と共に岡は「俯瞰」というキーワードも使っている。
なお、原子力発電に限らないが、経済性には様々な要因があり、電力事業の環境も世界では様々である。これについては別の機会に述べたい。経済性やコストの検討は俯瞰的な知見が必要であり、ともすれば数字だけの比較になりやすく、議論も断片的になりがちなので注意が必要であるが、ここで述べた経済性とは、一般的な意味での経済合理性で、西側世界の競争原理のことである。こうした観点を避ける傾向が日本の原子力産業界にあるが、それでは世界では戦えないし、日本でも生き残れないのではないか
繰り返しておくが、岡芳明は原子力発電によって「国民に安価な電力を安定、安全に届けるとの目標」を前提としており、それを疑っていない。その前提の上で、日本の原子力産業への妥当な(その限りで妥当な)批判を行っているということだ。


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9/24-2018
苫東厚真2号機、再稼働延期=不具合で10月中旬に-北海道電(時事通信)

北海道電力は23日、地震の影響で停止中の苫東厚真石炭火力発電所2号機(厚真町、出力60万キロワット)の再稼働を10月中旬に延期すると発表した。一部装置の不具合が原因。再稼働の時期は2度見直され、当初の見通しに戻った。同社は電力需要に対し十分な供給力があるとして、引き続き無理のない範囲で節電に取り組むよう道民に要請している。

苫東厚真2号機は地震のためボイラー管が損傷。当初は10月中旬以降に再稼働すると公表したが、ボイラー管の交換を終えたため、今月20日には「23日にも復旧できる」として、1カ月近い前倒しが可能との見方を示していた。 北海道電によると、2号機の試運転中、燃焼効率を引き上げるため石炭を粉砕する装置の一部に不具合が見つかり、22日午後3時に一部装置を止めた。点検・清掃作業に約3週間かかるという。(時事通信9/23)

震源に最も近かった苫東厚真火力で、最高震度7の地震による損傷があちらこちらに生じている、ということなのだろう。北海道電力はそういうガタガタに壊れている火力発電所の現状をちゃんと発表していないのではないか。苫東厚真火力は耐震を最低震度5で作っている。
耐震基準は00年、日本電気協会が全国の火力発電所を対象に定めた「耐震設計規程」に基づき、震度5以上と決められている。

苫東厚真は3基ある発電機のうち、02年運転開始の4号機が対象で、震度5で大きく損壊しない程度の設計だった。基準設定前に建設された1号機(1980年)と2号機(85年)は、メーカー自主基準で同じ震度5に対応していた。

北電は「耐震基準は満たしている」(真弓明彦社長)と問題はなかったとしている。
(毎日新聞9/15)
北電の社長は「問題はなかった」としている。つまり、北電の法的過失はなかったと言いたいのだろう。しかし、問題なのは多数の北海道民に具体的な被害を与えていることなのである。電力供給は“社会的な事業”であって、単なる儲け仕事とは違う。電力会社は電力の安定供給が“社会的な義務”なのである。
震度5を記録する地震は日本全国で頻繁に起こっている。社長たるもの、十分な安全率を見て電力の安定供給を図るためには、苫東厚真火力はまことに不充分であったという認識を示すべきなのである。

東日本大震災の東京電力にも同じ苛立ちを覚えるが、電力会社はどこも似たようなものなんだなと、思う。利己的で金儲けを第一と考えている。


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9/25-2018
ボイラー管に深い亀裂 苫東厚真発電所を公開 北海道電力(産経新聞)


苫東厚真火力発電所1号機のボイラー管
を見せる北海道電力の担当者。深い亀裂
が入っている=20日午前、北海道厚真
町(杉浦美香撮影)
北海道電力は20日、北海道の地震で停止し、全域停電(ブラックアウト)の原因になったとされる苫東厚真火力発電所(厚真町)を地震から初めて報道陣に公開した。19日に再稼働した1号機の状況や、2、4号機の修理状況を説明。同社の担当者は「2、4号機の早期再稼働を目指す」とした。

再稼働した1号機では、ボイラーの管2本(直径45ミリ、厚さ5ミリ)が地震の揺れで損傷した。記者会見では、うち1本の取り換え部分を公開した。内部まで到達する亀裂が深く入っていた。担当者は「損傷部分は取り換えて溶接、安全確認して(1号機は)順調に最大出力できている」と述べた。

また、出火した4号機のタービンも公開、煙が出たというタービンの継ぎ目部分の外壁の塗装が生々しく溶けているのも確認できた。

発電所内の西側に位置する屋外駐車場は数カ所にわたって液状化が起き、最大20~30センチ地面が隆起していた。

担当者は「発電所で働く社員130人に加え、メーカーや東京電力からも応援を得て日夜復旧に邁進している」と話した。

北海道電力はこの日、2号機を今月下旬に再稼働させる方針を明らかにした。4号機は11月以降の復旧予定は今のところ変わらないとしている。(写真も 産経新聞9/20)

20日にこういう報道が出ていたことを見逃していた。凄い写真だと思った。地震による破壊ですね。

苫東厚真火力がどのような破壊を受けているのか、現在、その全容が分かっているわけではなかろう。不具合が出たらその都度直していくという手法らしいが、そういう手法が許されるのは火力発電だからだ。原子力発電ならそうはいかない。

それにしても、北海道電力が被害状況を小出しにしているのは納得できない。報道の姿勢もあるのだろうか、北電へ被害の実態を公開せよと強く要求すべきであった。発電所内部で火事となりタービンから煙が出ている動画をNHKが流したのは、数日前のことのように思う。
「苫東厚真火力はかなりの被害です」と地震直後に北電がアナウンスし報道もされていたら、ブラックアウトの受け止め方も違っていたと思う。フクイチ事故での東京電力もそうだったが、電力会社は「たいした被害を受けていません」という顔をしたがるのだ。東電は「炉心溶融はない」と何ヶ月も言い張っていた。


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9/26-2018
<福島第1原発>東電、2月からトリチウム水保管タンクの放射性物質測定(河北新報)

東京電力福島第1原発で汚染水を処理した後に残る放射性物質トリチウムを含む水について、敷地内で保管するタンクの放射性物質濃度を、東電が今年2月から測定していたことが21日、分かった。「タンクの濃度は調べていない」と繰り返してきた従来の説明と異なり、情報公開に対する姿勢が問われそうだ。

東電は河北新報社の取材に「測っているのは配管でつながった『タンク群』で、タンク一つ一つではない」と釈明。説明の整合性は取れていると主張した。

処理水は配管でつながった複数のタンクにほぼ同時にためる。東電はタンクにためる直前に加え、過去に貯蔵した処理水もタンク群単位で抽出調査していた。

8月末までに59タンク群を調査。1リットル当たりの最大濃度はトリチウムが126万4000ベクレル、ヨウ素129が22.44ベクレルだった。本年度中にさらに100群で測定するという。

東電はこれまで、トリチウム以外の放射性物質の大半を取り除く多核種除去設備(ALPS)の出口で処理水の濃度を計測しているが、タンクは未調査と説明。今月3日の定例記者会見では「政府の要請があれば測定する」との意向を示していた。
処理水の処分方法を検討している国の小委員会が8月末に開いた初の公聴会も、タンクの濃度測定が未実施の前提で進められた。

汚染水は、1~4号機の建屋に流入した地下水などが溶融核燃料(デブリ)に触れるなどし、1日200トン前後が発生。ALPSを経た処理水は現在、約93万トンが約690基のタンクに保管されている。東電はタンク建設は容量137万トンが限度としている。(河北新報9/22)

「タンクの濃度は調べていない、調べたのはタンク群だ」という信じがたいような詭弁を持ち出してきた。数基のタンクを連結しているために東電はそれを「タンク群」と呼んでいるという。まじめに受け止めるのもバカらしい。

本欄で「タンク群」を取りあげたことがある、2013年10月4日(ここ)。図があって分かりやすいので、ご覧になって下さい。その場合は、タンク5基を連結して傾斜地に置いてあったので、汚染水を注入する作業中に最下位のタンクから汚染水が溢れてしまったという事故が起きた。

トリチウムの最大濃度が126万4000bq/Lもあったという。東電はこの大きな値を発表するのを避けようとしていたのだろうか。それとも、ヨウ素129など他の残存核種が相当ある事を言いたくなかったのだろうか。
このようなオープンでない態度が常日頃からあるために、東電が「安全です」と言っても、本当だろうかと疑心が起こるのは当然なのである。風評の源泉はここにある。


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9/27-2018
東海第二「適合」 批判意見認めず 規制委、審査書を決定(東京新聞)

首都圏唯一の原発である日本原子力発電(原電)の東海第二原発(茨城県東海村)について、原子力規制委員会は26日の定例会合で、新規制基準に適合したとする審査書を正式決定した。国民からの意見募集(パブリックコメント)で、東京電力による原電への資金支援への疑問や、東海第二が東日本大震災で被災したことへの不安が寄せられたが、規制委がそうした声をくみ取ることはなかった。

東海第二は震災で外部電源を失い、非常用発電機の一部が使えなくなり、残りの発電機でかろうじて原子炉を冷温停止させた。被災原発の新基準適合は初めて。再稼働には、県と東海村や水戸市など30キロ圏の6市村の同意が必要で、見通しは立っていない。

規制委の会合では、1カ月間実施したパブコメの内容が報告された。集まった約1250件の大半が再稼働に批判的。原電が約1800億円の対策工事費を工面するため、福島第一原発事故を起こした東電から支援を受けることが特にやり玉に挙がった。
「政府の資金が投入されている東電から支援を受けるのは道理がない」「支援がなければ再稼働できない状態なのに、事故時の賠償や収束費用はどうするのか」。そういった疑問の声に対し、規制委は「資金支援の意向が確認でき、工事費を調達できると判断した」と答えるにとどまった。

「東日本大震災でダメージを受け、再稼働すべきではない」という意見も目立った。規制委は、一部設備で震災による損傷があったことは認めたものの、機能的に問題ないとして不安に応えなかった。
ケーブルの火災対策への関心も高かった。審査書によると、全長1400キロの約4割だけを燃えにくい素材へ取り換え、残りを防火シートで覆う。パブコメでは「防火シートに、同じ効果があるとは思えない」と批判が集中したが、規制委は「十分な保安水準が確保される」などとした。

津波で「大型船舶が漂流して原子炉建屋や防潮堤に衝突する」との指摘にも、規制委は「基準津波の流速や流向から漂流してくる可能性はない」と一蹴した。

規制委は、パブコメを受け、審査書案の細かな字句修正をするだけだった。これまでもパブコメを重視する意識は薄く、手続きの形骸化が進んでいる。(図も 東京新聞9/27)

原子力規制委が、ますます原子力推進委になってきた感がある。上引記事の指摘するように、パブコメ審査が形ばかりで、形骸化してきていることも、実感する。

北海道地震(9月6日03時08分)で最も強く印象に刻まれたことは、活断層が知られていない場所で、震度7の地震が起きたということだ。この地震はMg6・7、深さ37㎞で、内陸型の直下地震であった(プレート境界型の巨大地震ではない、ということ)。従来、原発は活断層の真上には建設できないとしてきたが、地震国日本では、いつどこで震度7の地震が起きても不思議ではないということが実証された。
つまり、活断層の有無では震度7の地震の有無を判断できない。 本欄9月25日で示したような、ボイラー管の破断が生じる危険性がどの原発でもありうる。ケーブルの火災対策で規制委がきわめて安易に電力会社の言い分に寄り添ってしまっているのは、危険である。

ついでながら、震度7は、気象庁の震度階級で第10段階の最高度です。


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9/28-2018
宮城・女川原発 1号機、廃炉検討 安全対策困難 東北電の原発で初(毎日新聞)

東北電力の原田宏哉社長は、27日の定例記者会見で、東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)1号機について「廃炉も選択肢の一つとして検討している」と述べた。時期については説明しなかったが、同社が原発の廃炉に言及するのは初めて。現在、原子力規制委員会で適合性審査が続く2号機など女川原発の他の発電設備については、引き続き再稼働に向けた対応を続けるとしている。

女川原発は1号機から3号機まで三つの発電設備がある。2011年3月の東日本大震災発生時には、津波で2号機原子炉建屋の地下が浸水するなどして全基が運転を停止した。1号機(52万4000キロワット)は1984年6月に運転を開始し、東通原発(青森県東通村)を含め、震災後に運転を停止した東北電の原発4基の中では最も古い。

東北電によると、4基とも沸騰水型軽水炉だが、1号機は他と比べて設計が古く、2号機で進めている耐震強化などの安全対策を適用するのが難しいことから廃炉を検討することにしたという。東京電力福島第1原発事故後、原発の運転期間は原則40年となった。運転開始から間もなく35年を迎える1号機は運転期間の延長か廃炉かの検討が進められてきた。(毎日新聞9/28)

東北電力が持つ4つの原発(女川に3基、東通に1基)はいずれも停止中だが、そのうちで最も古い女川1号機を廃炉にする可能性を表明した。地元紙の河北新報は次のように辛辣に批評している。
東北電力の原田宏哉社長が女川原発1号機の廃炉の可能性に初めて言及した。運転開始から40年が迫り、廃炉は既定路線になりつつあった。このタイミングで表明したのは採算性に加え、古い原発を廃炉にする姿勢をにじませることで、原子力規制委員会による審査が終盤を迎えた女川2号機の稼働に理解を得たいとの思惑もあるとみられる。 (河北新報9/28)
女川2号機は東日本大震災のとき定期点検中で停止していた。女川3号機および東通1号機は東日本大震災で停止しそのまま定期点検に入っている。東北電力としては、審査終了に最も近い女川2号機を再稼働にこぎつけたいという思惑で動いているわけである。

ついでに、東通には東京電力が建設中の1号機も存在するのでややこしい。これは建設を中断している。


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9/29-2018
汚染水、浄化後も基準2万倍の放射性物質 福島第一原発(朝日新聞)

福島第一原発の敷地内のタンクにたまる汚染水について、東京電力は28日、一部のタンクから放出基準値の最大約2万倍にあたる放射性物質が検出されていたことを明らかにした。今回分析した浄化されたはずの汚染水約89万トンのうち、8割超にあたる約75万トンが基準を上回っていたという。

東電や経済産業省によると、多核種除去設備(ALPS)で処理した汚染水を分析したところ、一部のタンクの汚染水から、ストロンチウム90などが基準値の約2万倍にあたる1リットルあたり約60万ベクレルの濃度で検出された。東電はこれまで、ALPSで処理すれば、トリチウム以外の62種類の放射性物質を除去できると説明していた。

東電は今後、汚染水の海洋放出などの処分法を決めた場合は、再びALPSに通して処理する方針も示した。タンクに保管されている処理済みの汚染水は現在94万トン。現状の処理能力は1日最大1500トンにとどまっており、再び処理することになれば、追加の費用や年単位の時間がかかるのは必至だ。

基準値を超えた原因について、東電は、2013年度に起きたALPSの不具合で、処理しきれなかった高濃度の汚染水がそのまま保管されていることや、処理量を優先し、放射性物質を取り除く吸着材の交換が遅れたことなどを挙げている。今後、吸着材の交換時期を見直すなど対応を検討するという。ただ、今後も基準値超えの放射性物質が検出される可能性は否定できないと認めた。

東電は、こうした測定値をホームページで公表していたが、積極的には説明してこなかった。「掲載しただけで満足していたのは大きな反省点」としている。
今年8月に福島県などで開かれた経産省の公聴会では、汚染水の中にトリチウム以外の放射性物質があることに批判が集まっていた。(朝日新聞9/28)

多核種除去設備(ALPS)なるものは、各種の多様なフィルターをセットして、そこを汚染水を流して汚染の原因物質を除去するという装置である。フィルターを常に交換して、各フィルターを最上の状態にそろえて理想的な速度で運転した場合に、最上の効果が出る。したがって、「処理量優先」して汚染水をどんどん流せばフィルターは原因物質を吸着しきれず、汚染したままの水が排出されることになる。吸着材の交換をケチって汚れたフィルターを使い続ければ、当然、性能が落ちるのである。

ALPSを理想的に運転した場合に「多核種除去」が(一定の制約下で)実現するのであり、その場合でもトリチウムはまったく除去できない。

国民に対してそういう説明をせずに、「タンクのトリチウムは海に放出するしかない」と言いつのってきた原子力規制委は一体何だったんだ。東京電力の代弁者じゃないか。
規制委は東京電力に対して、「まず、タンクの中にはトリチウムしか無い状態にしてから、その処分方法を相談しなさい」と言うべきなのだ。


トップページの写真を、ジャコウアゲハからハエ目ハナアブ科ツマグロコシボソハナアブに替えた。

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